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日本と韓国の和解をアメリカが望む訳

ニューズウィーク日本版 2019年7月2日 15時45分

<注目のG20でも安倍と文は「すれ違い」――中国に対抗するためアメリカが手助けできること>

ドナルド・トランプ米大統領のアジア政策で、どうにも残念なことが1つある。海洋安全保障のための「クアッド(4カ国)構想」に、いまだ韓国を引き込めずにいることだ。これは日米豪印の4カ国による非公式の協調体制で、07年に日本が提唱したものだ。

当時の日本は、基本的な価値観を共有し、志を同じくする諸国との関係強化をベースとした外交政策を追求していた。アジアの民主国家を糾合し、中国やロシアに代表される非民主的な勢力に対抗すれば、地域における力の均衡を回復できると考えていたからだ。

言うまでもなく、韓国は民主的な先進工業国であり、戦略的に重要な国だ。しかしアメリカは、自由主義の価値観と法治主義の原則に背を向けた諸国を包囲する外交努力において、どうも韓国を軽視している。

日韓両国はアメリカにとって重要な同盟国のはずだが、トランプ政権の下で日韓両国の関係は悪化してきた。もちろん、この両国の間には関係改善を妨げる構造的な要因がある。

両国の指導層は20年余にわたり「未来志向」の関係構築を模索してきたが、根本的な歴史認識の違いを乗り越えることができずにいる。「慰安婦」問題に関する日韓合意も、韓国政府は実質的に撤回した。韓国最高裁は元徴用工訴訟で、日本企業に賠償金の支払いを命じた。今年3月には韓国内で大規模な日本製品不買運動が起き、首都ソウルに近い京畿道の議会には日本製品排除の条例案が提出された。

和解と緊張激化の繰り返しには双方の国内事情が深く関わっている。どちらの国の指導層も歴史認識の違いに通じる民族感情を政治的に利用しているが、経済的な相互依存の現実が最悪の事態を防いできた。12年には現職の李明博(イ・ミョンバク)大統領が、日本と領有権を争う竹島(韓国名・独島)に上陸した。おかげで彼の支持率はわずか2週間で倍近くに伸びた。昨年12月には韓国海軍の駆逐艦が日本の自衛隊機にレーダーを照射したとされる事件で、両国政府が非難の応酬をした。どちらの政府も微妙な戦略上の配慮を捨てて、民族感情をあおった。

アメリカは90年代から、北朝鮮問題に焦点を当てることで日韓の連帯を図ろうとしてきた。だが米日韓の3者で姿勢が食い違い、共通の方針をまとめることはできずにいる。



いま必要なのは、経済成長の鈍化や人口の高齢化、中国経済への依存といった共通の問題の解決に向けて日韓が協調することではないか。韓国は17年に、アメリカ製の最新鋭ミサイル迎撃システムを配備すると決めたが、中国の経済的報復に抗し切れなかった。しかしその後の日韓両国は、徐々に中国への対抗姿勢を強めている。

財界・経済界の連携重視

そこで注目したいのが次世代通信規格の5G問題だ。韓国政府は中国製の機器を容認する姿勢を見せるが、米日韓の民間企業は結束して華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の排除網を築こうとしている。

昨年10月、韓国のサムスンは日本のNECと組んで5G関連技術の開発に取り組むと発表した。今年6月には米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)との提携も発表した。

アメリカはこの状況を生かすことができる。まずは日韓それぞれに共通の国内問題の解決に役立つ技術協力を促すことだ。韓国にも高齢化の危機が迫っている。高齢者医療や健康関連商品といったシルバー市場には無限の可能性がある。

急成長する新興国市場に打って出るのもいい。東南アジアに進出して経済を多様化させるという文在寅(ムン・ジェイン)大統領の「新南方政策」はなかなか野心的だ。とはいえ韓国政府の存在感は、まだ東南アジアでは薄い。

対してODA大国の日本は15年に、インド太平洋地域で道路や鉄道、橋梁、港湾などを整備する「質の高いインフラパートナーシップ」構想を打ち出している。しかし中国は技術面でも実力を付け、今やインフラ整備で日本の優位を脅かす。15年にはインドネシアの高速鉄道計画で、日本に競り勝って契約を獲得した。世界中に中国製品を広める国家戦略「中国製造2025」も健在で、再生可能エネルギーや人工知能(AI)の技術では日韓をリードしている。

ところがエネルギーやサイバーセキュリティーなどの重要インフラに対する安全保障上の脅威に関する韓国政府内の政策論議は、まだ十分に深まっていないようだ。民間の原子力産業に関する議論も、エネルギーの持続可能性より核不拡散の問題に偏り、戦略的に狭い。

一方、日本とアメリカは1973年の石油ショック以来、幅広くエネルギー安全保障に取り組んできた。両国は今、原油価格の変動に影響されやすいインド太平洋地域諸国のエネルギー確保を支援している。

例えば日米戦略エネルギーパートナーシップ(JUSEP)は、アメリカのアジア・エッジ(エネルギーを通じたアジアの開発と成長の促進)構想と日本政府による各国のエネルギー産業に対する100億ドル規模の支援を連携させる試みだ。

JUSEPは既にインドとスリランカで液化天然ガスや再生可能エネルギーの供給を支援し、インド太平洋地域のさまざまな軍事的・商業的な要所を支配しようとする中国の「真珠の首飾り」戦略に対抗している。



日米両政府の積極的なインフラ政策はエネルギー安全保障にとどまらない。今年2月には米エネルギー資源担当のフランシス・ファノン国務次官補がソウルと東京を訪問し、アジア・エッジやJUSEPのような成功を土台にさらなる前進への話し合いを行った。こうしたハイレベルの議論によって、多国間の経済規範を設定する道がさらに開かれるだろう。

地政学的な競争で決定的に重要な分野における協力体制を発展させるアプローチとして、アメリカは日米韓3国の財界の連携にも取り組んでいる。

5月に予定されていた日韓経済人会議は日韓関係の急速な悪化から延期になったが、こうした財界トップ会談への熱意は衰えていない。

またTPP(環太平洋経済連携協定)を離脱したとはいえ、アメリカはアジアにおける多国間の経済連携を支援する複数のプロジェクトに関与している。トランプ政権は「自由で開かれたインド太平洋戦略」に力を注ぎ、昨年7月にはワシントンでインド太平洋ビジネスフォーラムを立ち上げた。

海外インフラ投資の支援・強化を目指す18年のBUILD法や、アメリカのアジア経済政策に関する超党派的ビジョンを提示したアジア再保証推進法も、地域の途上国市場における貿易の円滑化および能力開発に対するアメリカ政府の持続的な熱意を裏書きしている。

一般市民の対話を促す

18年5月には日本の経団連の尽力によって、各国のトップ経済人が集まる第7回日中韓ビジネスサミットが開催された。同月、米商工会議所と経団連、韓国の全国経済人連合会は、新興市場での3国協調への幅広い民間部門の意欲を反映し、北朝鮮における将来の機会を検討するための会合を開いた。

韓国政府は途上国の経済開発に共同で取り組むこの構想に対する業界の関心に気付くのが遅かったが、米日韓の各政府が産業界のトップを集めて会議を組織すべき時期が来ている。

最後に、アメリカは日韓両国が歴史を克服する手助けをする必要がある。

これまで日韓両国の歴史認識の相違を乗り越える試みはほとんど成功していない。02年から専門家による共同研究が行われたが、両国の隔たりは今も解消できていない。若い世代の日本人は第二次大戦の教訓を忘れつつあり、過去を反省しようという機運は薄れている。

こうなれば政府に頼らず、民間主導の対話を続けていくことが、永続的な関係に必要な共通の歴史認識をつくり上げる唯一の方法かもしれない。

だからアメリカは政府レベルに限らず、あらゆる努力を後押しすべきだ。エリート層がいくら立派な勧告を出しても、それだけで長年にわたる不信感を覆すことはできまい。むしろ必要なのは、学者や教育者、学生、ジャーナリスト、ビジネスリーダーなど、両国からさまざまな一般市民を集めて率直な対話の場を設けることだ。

いくら共通する国益に集中したとしても、地政学的ないし経済的な国家戦略だけでは、日韓両国の間にくすぶる相互不信は解消できない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年7月9日号掲載>


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アンドルー・インジュ・パク、エリオット・シルバーバーグ

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