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Appleを去るジョニー・アイブ──最高デザイン責任者が遺したものとは

ニューズウィーク日本版 2019年7月4日 19時30分

<Apple製品のデザインを担ってきたジョニー・アイブが年内にAppleを退社することが報道された。これまでジョニー・アイブが遺してきたものはなんだったのか......>

Appleの最高デザイン責任者(CDO)、サー・ジョニー・アイブが年内にAppleを退社するというニュースはiPhoneやMacBook愛用者に衝撃を与えた。AppleのiPhoneやMacBookをはじめとする現行製品のすべてが、同氏の監督下でデザインされたものだからだ。

アイブは退社後に設立する自分のデザイン会社「LoveFrom」でAppleの仕事を引き続き行うとしているが、その影響は減るだろう。

ちなみにアイブのサーの称号は、2013年にデザイン業界への貢献を讃えて英国王室が与えたものだ。

トランスルーセントの曲線が美しい「iMac」で革命を起こした

アイブは英国出身で、Appleに1992年に入社するまでは、ロンドンのデザイン会社に勤めていた。当時そのデザイン会社の顧客だったAppleの幹部がアイブの才能に目をとめ、同氏を引き抜いた。

だが、アイブが入社したのはAppleの創業者であるスティーブ・ジョブズが不在の時代のことで、アイブの斬新なデザインを評価する幹部はいなかった。同氏がAppleで才能を発揮するのは、1997年にジョブズがCEOとして復帰してからのことだ。

アイブの半生を描いた書籍「ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー」(2015年日経BP刊)によると、地下に追いやられていたアイブのデザインスタジオを初めて訪れたジョブズは、「臆病な前経営陣が手を出さなかった、はっと目をひくようなプロトタイプ」に驚き、穏やかなアイブを気に入ったという。

それからAppleが次々と世に送り出した製品は、2人のデザインに関する思想が込められた独創的なものになった。グレーやベージュで角張った形が当たり前だったパーソナルコンピュータにトランスルーセント(半透明)の曲線が美しい「iMac」(1998年)で革命を起こし、デジタルオーディオプレーヤーの黎明期である2001年には"衝撃的にニュートラルな白"い筐体に斬新なホイールを配した「iPod」で市場を支配した。そして、「iPhone」(2007年)、「iPad」(2010年)、「Apple Watch」(2015年)が続く。

1999年10月 iMacとスティーブ・ジョブズ



Appleはここ数年、新しいカテゴリーの製品をほとんど出していない

アイブが得意とするのは、既にある完成度の低いジャンル(PC、オーディオプレーヤー、スマートフォン、スマートウォッチ)にユーザーインタフェースと美しさを両立させたデザインを施すことだ。

だが、Apple Watch後、Appleは新しいカテゴリーの製品をほとんど出していない。iPhone、iPad、Apple Watch、そしてMacやMacBookはそれぞれ定期的に新モデルが出てはいるものの、アイブの腕の見せ所は少なくなっているのではないだろうか。

ここ数年、アイブが最も情熱を傾けてきたのは故ジョブズから受け継いだ、Appleの新キャンパス「Apple Park」のデザインだった。そのキャンパスも5月に完成した。

アイブのデザインは自動運転車に採用されなかった?

Appleが今後、新しいカテゴリーの製品を出すとみられているジャンルは、自動運転車とAR(拡張現実)メガネだ。

アイブは自動車好きで知られており、若いころはカーデザイナーになる夢を持っていたくらいだ。Appleでも当然、自動運転車のデザインに着手していたと、The Information(有料記事)が報じている。

この記事によると、アイブがティム・クックCEOに見せた自動運転車のプロトタイプは、ステアリングホイールがなく、音声アシスタントの「Siri」で操作するものだったという。

Appleが自動運転車を開発中といううわさは2015年ごろからあるが、未だに具体的な発表はない。アイブのデザインは採用されなかったのかもしれない。

もう1つの新カテゴリーであるARメガネは、2012年にGoogleが「Google Glass」を発表した後は、あまり実用的な製品が出ておらず、まだ市場が整っていない。こうしたカテゴリーこそアイブの才能が生かされそうだが、今後社外からどこまでAppleに関わってくのか注目したいところだ。



Jony Ive Is OUT At Apple - What Is His Legacy?

佐藤由紀子

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