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この爽やかイケメンはバンクシー? 16年前の映像発見

ニューズウィーク日本版 2019年7月8日 16時0分

<2003年に撮影されたインタビュー映像に映っている青年が「バンクシーなのではないか?」との可能性が浮上している......>

偶然掘り起こされた16年前の映像

「覆面のストリート・アーティスト」として世界中に知られるバンクシー。しかし「覆面」と言われる通り、ブリストル出身の白人男性であろうということ以外、その正体は謎に包まれている。そんなバンクシーが世界的に有名になる前の2003年に撮影されたインタビュー映像に映っている青年が「バンクシーなのではないか?」との可能性が浮上している。

問題のインタビュー映像は、英国のロンドンに拠点を置くテレビ局ITVのテープ保管庫で偶然見つかった。ITVによるとこの映像は、2003年7月にロンドン東部で行われた「ターフ・ウォー」と名付けられた、バンクシー初の大掛かりなエキシビションに先立ち撮影されたもの。2分ほどのリポート映像には、フードを被っている青年が、「ステンシル」と呼ばれる手法でスプレー缶を使って絵を描いている様子などが映っている。ここで映し出される黒い昆虫のステンシル画や、赤ちゃんが「KILL MORE」(もっと殺せ)と書かれたアルファベットの積み木で遊んでいる絵は、バンクシーの作品として知られている。

ニュース映像にはさらに、バンクシーとされる青年が35秒にわたりインタビューに答えている様子も含まれている。インタビューでは、野球帽を被り、Tシャツで顔半分を隠してはいるが、キリッとした目元や栗色の髪、おでこが見える状態になっていた。

記者のヘイグ・ゴードン氏の質問に答え青年は、「覆面をしているのは、グラフィティ・ライターでありながら世間に姿をさらすことはできないから」と身元を隠している理由を説明した。公共物などへの落書きは英国では最長で禁錮10年の罪となる違法行為であるため、身元がバレてしまったら逮捕もありえるからだ。

I disguise [myself] because you can't really be a graffiti writer and go public."Take a look at what we found in our archives is this THE #Banksy?Read more here: https://t.co/sSvXJd5HJS pic.twitter.com/B9HA88szE4— ITV News WestCountry (@itvwestcountry) 2019年7月4日

「芸術家気取りの嫌なやつかと思っていた」

このインタビュー映像は、ブリストルにあるITVウェスト・カントリーのロバート・マーフィー氏が、バンクシーについて調べていた際に偶然発見したものだ。バンクシーの別の映像を見つけようと保管庫を探していたところ、「バンクシーとのインタビュー」と書かれた映像が見つかったという。ITVによると、これが本人なら、バンクシーが主要テレビ局に顔出しでインタビューに答えた唯一の映像となる。

この時インタビューしたゴードン氏は、16年前にバンクシーに取材したことはすっかり忘れていたとITVに話す。映像ではTシャツで顔の半分以上を隠しているが、カメラが回り始める前は覆面をしない状態でも会話をしたというゴードン氏。しかし「どんな顔だったかまったく覚えていない」「どんな外見だったか、ひとつも思い出せない」と話している。

ただし好青年だったという印象はあるようだ。「リラックスしてのんびりしていて、愛想がよかった。彼をすごく好きになったよ。思い上がった芸術家気取りの嫌なやつなんだろうと恐れていたんだけど、非常に感じがよかった」とゴードン氏は振り返る。



ITVが公開した2003年のインタビュー映像の中には、ゴードン氏が「君の情報を警察に渡してもいいよね?」と冗談めかすと、バンクシーと思われる青年は「いいよ。どんな情報持ってるの?」と返し、「マスク外さないでよね」と言うやり取りがある。ゴードン氏によると、撮影を始める前に同氏が「インタビュー中にもし私がそれ(顔を隠していたTシャツ)を外したらどうする?」とバンクシーに言ったら、それが冗談だと分かってくれて笑っていたといい、その流れでこのような発言になったようだ。

本物か否かは誰にも分からず...

しかしこの爽やかな青年は、本当にあの「世界で最も有名な存命中のアーティスト」とも呼ばれるバンクシーの姿なのだろうか? ゴードン氏は、「あれが本物のバンクシーか否かを判断するだけの証拠を私は持っていない」としつつ、この時のエキシビションはきちんと組織されたイベントだったため、広報担当者もいたって普通で、報道機関をだますような感じには見えなかった、と説明する。

しかし英ガーディアン紙は、この映像がバンクシー本人だとする考え方には懐疑的だ。というのも、同じく2003年の「ターフ・ウォー」直前にバンクシーをインタビューしたとする記者は当時、「28歳の白人。だらしないカジュアルなジーンズとTシャツ、銀歯、銀のチェーンと銀のイヤリング。ジミー・ネイルとザ・ストリーツのマイク・スキナーを掛け合わせたような外見」と伝えていた(ジミー・ネイルとマイク・スキナーは共に英国のミュージシャン)。

7月4日付の記事でガーディアンは、今回の映像はこうした描写に完全にマッチするわけではない、と書いている。さらにバンクシー関係者の話として、「ノーコメント。こういう話はたくさんあるので」という談話を記事は紹介している。

これまで、バンクシーの正体は英国の音楽ユニット「マッシヴ・アタック」のロバート・デル・ナジャなのではないかという話は何度も浮上していた。今回の映像を見ると確かによく似ている。しかしバンクシーの正体が明らかにされるときはストリートでの活動の終わりを意味するなら、謎のままがいいと思うのは、筆者だけではないだろう。



Is this Banksy? ITV uncovers lost footage of the graffiti artist | ITV News


松丸さとみ

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