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VRゲーム機の進化を装着して体験せよ

ニューズウィーク日本版 2019年7月12日 15時30分

<オキュラス・クエストは安価で簡単――後はハードがもっと小型になり対応するソフトが増えれば言うことなし>

ゲームでVR(仮想現実)を楽しむためのヘッドセット型の機器が相次いで発売されたのは数年前のこと。だが第1世代の家庭用VR機器は、魅力的といえども多くの消費者にとってあまりにも高価だったし、操作のハードルも高過ぎた。

それでもオキュラスやHTC、ソニーなどの企業が幅広いユーザーに向けたVR機器の開発をやめることはなかった。第2世代の製品は、手頃な価格とシンプルなハードウエア、そして以前よりは充実したゲームソフトのラインアップで消費者を呼び込もうとしている。「オキュラス・クエスト」もそんな新しい世代のVR機器の1つだ。

クエストはVRの世界に真の一歩を踏み出したと言える製品だ。4万9800円と手を出しやすい価格で、パソコンにつなぐケーブルがなくなって動きやすくなった。これ一台で遊べるから、使い勝手という意味でも手軽だ。同社の既存のオールインワン型機「オキュラス・ゴー」の軽量な無線ユニットや、パソコンにつないで遊ぶハイエンド機「オキュラス・リフト」のモーショントラッキング技術やコントローラーなど、従来型のいいとこ取りをしている。

「豊かなゲーム体験をつくり出すのに、姿勢トラッキングと(手首に装着して使う)オキュラス・タッチ・コントローラーは重要だ」と、同社のハードウエアマネジメント責任者、ショーン・リウは言う。

ハードウエアの使い勝手という点では、クエストはほぼ誰にでも使えるレベルだ。初回はスマートフォンにつないでアカウントを登録し、続けてプレーヤーが動くスペースを設定するが、そのときの手間も、ちょうどいいくらい。電源を入れるとカメラが自分のいる部屋の中を映し出すので、タッチ・コントローラーを装着し、チョークで線を引くように動く範囲の境界線をなぞればいいだけだ。プレー中に境界線に近づくと、バーチャルな壁の映像が現れて、あと一歩でぶつかるぞと教えてくれる。

次に、簡単なチュートリアルで基本動作を学ぶ。タッチ・コントローラーのおかげで、クエストのゲームは仮想現実の中のモノを現実世界にあるモノのように触れたり動かしたりすることができる。まずは紙飛行機を飛ばしたり、ダーツを投げるところから。ゲームでは『ベイダー・イモータル』ならライトセーバーを振り回し、『ジョブ・シミュレーター』ならレストランのシェフになってせっせと料理を作ることになる。

ハードウエアではなくそのゲームこそが、VR市場における次の大きな課題だ。

楽しいゲームもあるが

「コンテンツが何より重要だ」とリウは言う。「次にやるべきは対応する高品質なゲームの数を増やすことだ」

これはオキュラス単体でどうにかなることではない。家庭用ゲーム産業全体から見れば、VRはまだ新顔のプラットフォーム。そしてこの業界でものをいうのはゲームソフトをインストールする機器の数だ。機器がたくさん売れれば、ゲーム開発業者は対応するコンテンツを作りやすくなる。



機種やメーカーを問わず、VRヘッドセットの総出荷台数をできるだけ早く1000万の大台に乗せることがVR業界の目標だとリウは言う。「クエストだけの数字ではないというのが肝心なところだ。ビジネスが回るようにするにはハードのユーザーを増やす必要がある」

ハード面ではバッテリーが2~3時間しか持たないことくらいしか文句をつける点はないクエストだが、やはり弱点は対応するゲームが少ないところ。とはいえ、いいゲームがないわけではない。『ビート・セイバー』は音楽のリズムに合わせて飛んでくるブロックを2本のライトセーバーで切るゲームで夢中になれるし、グーグルの『ティルト・ブラッシュ』は、晴れた夜の森といった美しい場所を背景に、3次元の物体を描いたり作ったりすることができる。『スーパーホットVR』では、映画『マトリックス』よろしく弾丸をよけることだって可能だ。

またリウは、ハード面での長期的なビジョンを達成するためにも、多くの解決すべき課題が残されていると語る。

「10年以内にヘッドセットのサイズを小さくしたい」と彼は言う。「だがすぐに(サイズダウンに)役立つような技術革新はまだ出てきていない」

小型化を目指せば技術的な壁は逆に大きくなるものだ。顔に装着する機器だけに発熱の問題は看過できないし、ヘッドセットが機能するには内部で光が一定距離を移動しなければならないという光学的な問題もある。

そんな技術革新が可能かどうかも、ユーザーが増えてゲームの種類が増え、さらに売り上げが伸びて継続的な投資につながるという好循環が生まれるかどうかに懸かっている。

<本誌2019年7月16日号掲載>


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モ・モズチ

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