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ロシア製最先端兵器を買ったトルコから崩れはじめたNATOの結束

ニューズウィーク日本版 2019年7月19日 15時30分

<アメリカがトルコへのF35売却を中止すると、すかさずロシアがSu35をトルコに売り込み、トルコと対立するギリシャは代わりにF35の購入を検討し始めるという入り組みよう>

ロシア製ミサイル防衛システムS400の搬入を開始したトルコに米政府が最新鋭ステルス戦闘機F35の売却中止を決めたことを受けて、ロシア政府がトルコに代わりの戦闘機の売却を持ちかけた。

国営ロシア通信の報道によれば、ロシアの国営防衛企業「ロステック」のセルゲイ・チェメゾフCEOは7月18日、「もしトルコに関心があるなら、ロシアは最新鋭戦闘機Su35を供給する用意がある」と語った。Su35はSu27戦闘機の発展型で、第4世代の戦闘機と、トルコが当初アメリカから買う予定だったF35のような第5世代戦闘機の間を埋める「過渡期の戦闘機」だ。

ドナルド・トランプ米大統領は、「トルコがロシアのミサイルを買ったからといって、アメリカが何十億ドルもの航空機を売れなくなるのは不公平だ」と、こぼす。それでも売却中止を決めたのは、S400とF35が一緒に運用されれば、F35の機密情報がロシアに漏れかねないという懸念があったからだ。

米への反発から急接近のロシアとトルコ

トルコ外務省は同日、トランプ自身の言葉を使って「不公平だ」と反発し、アメリカの主張には「根拠がなく」、北大西洋条約機構(NATO)加盟国としての両国の「同盟の精神」に反すると主張。「我々はアメリカに対し、両国の戦略的関係に取り返しのつかないダメージを与えかねないこの決定を撤回するよう求める」と述べた。

Su35の製造元のスホーイによれば、「Su35は多目的できわめて機動性が高い第4++世代戦闘機」であり、シリア内戦で「実戦の洗礼」を受けたと説明している。8年に及ぶシリア内戦で、ロシアはシリアのバシャル・アサド大統領側を支援し、トルコはアサド政権の転覆を狙う反体制派を支援してきたが、それでも両国は接近しつつある。

同時に、いずれの国もアメリカとはこれまで以上に距離を置いている。アメリカは当初、シリアの反体制派を支援していたが、その後は主にクルド人からなる民兵組織を支援。この中には、トルコがテロ組織と見なす分離独立派のクルド人民兵も含まれていた。またアサド政権に反対の立場のアメリカは、ロシアに経済制裁を科した。



対ロシア制裁でアメリカが標的にしたのが、ロシア国防省。その狙いはS400に関心がある諸外国をけん制すること。S400については既にベラルーシ、中国とインドが購入済みだ。イラク、カタール、サウジアラビアなども関心を示していたが、代わりに米国製のTHAAD(高高度防衛ミサイル)システムを購入することにしたようだ。S400はミサイルのみならず航空機の迎撃も可能だが、THAADはミサイルの迎撃のみに特化している。

アメリカは既に、S400とSu35の購入を理由に中国に対して制裁を科している(それでも中国政府は今後もS400とSu35を買い足す意向と報じられている)。同盟国のトルコにも制裁を科すのかどうか、注目だ。

アメリカのF35は、既にオーストラリア、カナダ、デンマーク、イスラエル、イタリア、日本、オランダ、ノルウェー、韓国やイギリスなど多くの国が購入を決定している。7月はじめまで米国防総省のF35プログラム事務局長を務めていた米海軍のマティアス・ウィンター中将は4月、米下院軍事委員会で、将来的には「シンガポールやギリシャ、ルーマニア、スペインやポーランドなどの国も」F35を導入する可能性があると証言した。

トルコと対立のギリシャはF35購入検討

ギリシャの日刊紙カティメリニは6月、情報筋の発言を引用し、ギリシャ政府がF35の購入を真剣に検討していると報じた。地中海東部の天然ガス田をめぐってトルコとの緊張が高まるなか、ギリシャ政府はアメリカと防衛関係を強化したい考えだ。

いずれもNATO加盟国であるギリシャとトルコは長年、対立関係にあるが、トルコ政府が北キプロス沖で石油・天然ガスの掘削を行うと決めたことから、再び対立が激化しつつある。キプロス島は1974年のクーデターによって南北に分断され、北キプロスはトルコが支配、南キプロスはギリシャと密接な関係にある。

EUは、キプロス沖でのガス採掘を理由にトルコに制裁を科しているが、トルコはこれを無視している。この問題は、訪米中のギリシャのニコス・デンディアス外相とマイク・ポンペオ米国務長官の会談でも話題にのぼった。デンディアスは、ポンペオと「キプロス共和国(南キプロス)の主権、およびエーゲ海と東地中海のギリシャの主権に対するトルコの侵略行為」についても話し合った、と語った。

(翻訳:森美歩)


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トム・オコナー

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