Infoseek 楽天

NBAレジェンドが、現代のヒーロー「キング」レブロンを語り尽くす

ニューズウィーク日本版 2019年7月19日 15時54分

<星の数ほどスターはいるが常勝と忍耐、正義の追求、そしてリーダーシップでレブロン・ジェームズは王座に君臨する>

どの世代にも、その世代のヒーローがいる。ヒーローは新しい時代の到来を告げる。ヒーローは闘う。昨日までの時代を古いと切り捨て、新しい時代の顔となり、その言葉や振る舞いで同じ世代の人々を動かす。

ヒーローは輝く。しかし永遠ではない。時代が移り世代が交代すればヒーローも変わる。政治の世界でも、文学や音楽、スポーツの世界でもそうだ。だからヒーローは悲しいのだが、私たちは世代ごとのヒーローをしっかり吟味すべきだ。私たちを次の時代へと導く何かを、ヒーローは宿しているはずだから。嘘だと思うなら、今のバスケットボール界に君臨するレブロン・ジェームズを見ればいい。

レブロンは若造ではない。御年34歳。勢いだけのアイドルや虚勢一点張りの「インフルエンサー」でもない。NBAで16年も活躍しているベテランで、これまでにクリーブランド・キャバリアーズ(2度)、マイアミ・ヒート、そしてロサンゼルス・レイカーズでプレーしてきた。身体的にも頭脳的にも、まさに円熟期を迎えている。

もちろん、NBAにはたくさんのスター選手がいる。年俸だけでいえば、ゴールデンステート・ウォリアーズのステフィン・カリーのほうがレブロンよりも高い(3700万ドル。レブロンは3500万ドル)。ユニフォームの売り上げもカリーが1位だ。

しかしソーシャルメディアのフォロワー数ではレブロンが1位(1億430万人。カリーは4200万人)。スリーポイントとフリースローの成功率ではウォリアーズのケビン・デュラントに負けるが、他のほとんどの記録ではレブロンが勝っている。

レブロンの記録が優っているのは、カリーやデュラントよりも長くプレーしてきたからでもある。この2人はいずれレブロンの記録を破るかもしれないが、それでも現時点ではレブロンがNBAで最高の選手だ。

NBAチャンピオン3回、シーズンMVP4回、オールスター戦出場15回。ほかにも多くの賞をもらっている。しかもレブロンは頑丈だ。スポーツ・イラストレイテッド誌で6年連続トッププレーヤーに選ばれたことからも分かるように、驚くほど好不調の波がない。

レブロンはどのチームでどんな仲間とプレーしようと、自分が何歳だろうと最大限の能力を発揮する。経験が浅く特別なスターもいないチームを率いてプレーオフまで進出したことも何度かある。しかも、個人成績は12-13年シーズンも17-18年シーズンもほぼ同じ。つまり28歳時と34歳時で同じ記録を残しているのだ。この「変わらなさ」は特筆に値するし、私たちの励みにもなる。




個々の記録はいずれ破られるだろうが「好不調の波がない」レブロンは現役最高の選手だ PHOTO ILLUSTRATION BY GLUEKIT, ROBERT LABERGE/GETTY IMAGES

時間とも戦うアスリート

ヒーローたる者は人に刺激を与え、さあ私に追い付け、追い越せと鼓舞しなければならない。レブロンの優れた身体能力は地道なトレーニングと栄養管理のたまものだ。朝はたいてい5時に起きてエクササイズをする。これをシーズン中は週7日、オフシーズンでも週5日はやる。日課にはステップ台やバイクのエクササイズ、ピラティスや各種のウエートトレーニングがあり、液体窒素で冷やした容器にも入る。

もう1つ、ヒーローに求められるのは非妥協的なまでの一貫性だ。レブロンはトレーニングに年間100万ドル以上を投じ、海軍特殊部隊出身という生体力学の専門家を雇って、休暇にも帯同させている。

無駄な贅沢ではない。レブロンは少年時代から肉体を酷使してきたプロのアスリートだ。何年も前から背中に痛みを抱えている。それでも(いつ引退しても生活には困らないはずなのに)彼は毎年コートに戻ってきて、肉体をさらに痛めつける。

そう、コート上でのレブロンはいつも強敵に囲まれている。だが彼にはもっと大きな敵がいる。時間だ。時間との戦いは私たちが誰でもいつかは直面する戦いであり、最終的には誰も勝てる見込みのない戦いだ。

それでもレブロンは潔く、決然として戦いに挑む。そんな彼を私たちは応援せざるを得ない。彼は「中年」になることを拒む。34歳で体重122キロの男があれだけ機敏に動き回り、スタミナもスタイルも衰えないのを見れば、こちらも元気になる。

昨年のゴールデンステート・ウォリアーズとのプレーオフシリーズで、レブロンは足首をひどくひねったが、それでも33ポイント、10リバウンド、11アシストのトリプルダブルを決めた。これこそ日々の鍛錬の成果だ。しかも結果を出すリーダーは、従う者を勝利に導くだけではない。それぞれが自分の才能を高めることを助け、全員のレベルを押し上げる。

「リーダーシップは1日や2日、あるいは2カ月だけの話ではない。常に問われるものだ」と彼は言う。「チームスポーツに参加して、自分の成功の過程を振り返れば、成功は自分だけで勝ち取るものではないことが見えてくる。成功し続けるためにはチームの全員が大切であり、みんながコミットする必要がある」

政治にモノ申すアスリート

野心があり、ライバル意識の強い選手たちを率いるのは大変だ。私もかつてレイカーズで主将を張ったから分かる。選手とリーダーの役割のバランスを取ることはとても難しかった。成功するかどうかは、選手としてだけではなく、戦略家としてチームメイトに信頼されるかどうかに懸かっている。

だがアスリートとしての成功だけでは十分ではない。時代のヒーローとたたえられる人物には、その時代の柱となるような価値観を体現し、その価値観を広めていく責任がある。



レブロンは政治的・社会的な問題に対する率直な発言を通じて、その務めを果たしている。とりわけ人種間の平等の実現のために動いている。

いい例が、レブロンの政治的な発言について「ボールを転がすだけで年に1億ドルも稼いでいる人間の政治的発言なんて聞きたくない。黙ってドリブルしてればいい」とコメントした保守系政治トーク番組司会者ローラ・イングラムに対する反撃だ。

レブロンはテレビ局を動かして3部構成の番組『黙ってドリブルしてろ』を作り、彼女の時代錯誤な侮辱に応え、今の二極化した社会でアスリートの果たし得る役割を示してみせた。

私たちは「頭の空っぽなアスリート」という固定観念に基づく保守派の悪口を以前からずっと耳にしてきた。彼らは悪口による攻撃を繰り出して私たちの発言内容にふたをする。私自身について言えば、もうバスケットボールをやっていた時間よりもジャーナリストとして、作家として活動している時間のほうが長い。それでも公に意見を述べるたびに、元スポーツ選手の意見など意味がないと一蹴する人がいる。しかしレブロンは非常に聡明で尊敬されてもいるので、そうした固定観念の排除に貢献している。

私はよく、「あなたが現役だった頃の黒人アスリート活動家と今日の黒人アスリート活動家に大きな違いはあるか」と聞かれる。半世紀前だと、政治的な発言をする選手はボクシングのモハメド・アリやアメフトのジム・ブラウン、メキシコ五輪の表彰台で人種差別に抗議した陸上のトミー・スミスとジョン・カーロスなど、ほんのひと握りだった。しかし今は、声を上げる選手がたくさんいる。だから数には違いがある。ただし選手を取り巻く状況はほとんど変わっていない。

アスリートは今も、憲法で保障された言論の自由の行使を理由に処罰される。私たちが50年前に抗議したことが今も起こっている。そして一部には、ほとんど何も変わっていないという事実よりも「それを思い出させられること」に腹を立てる人がいる。


人種差別に抗議したNFLのキャパニック(右) KIRBY LEEーUSA TODAY SPORTSーREUTERS

黒人アスリートなら、もう絶望して諦めたほうが楽かもしれない。それでもレブロンやコリン・キャパニック(試合前の国歌斉唱中に片膝をついて抗議したせいで干されたNFLの選手)をはじめ、多くのアスリートが正義のために闘い続けている。

レブロンにも失敗はある。例えば17年に元NBA選手で現在は解説者を務めるチャールズ・バークレーと対立している。選手補強についてキャバリアーズの経営陣に公然と不満を言ったことについて、バークレーに「泣き言が多く」「不適切」と非難されたレブロンは、「僕のレガシーを否定するのか」と猛反発した。「僕は誰かさんみたいに観客に唾を吐かないし、ギャンブルもしない。日曜日のオールスター戦にちゃんと出場できるのは週末に遊びほうけていないからだ」



レガシーなど気にするな

2人の間に敵対感情が生まれた一因は、バークレーがレブロンを「NBA史上トップ5選手」に入れなかったことらしい。だがアスリートが競技に対する愛情やファンからの愛情、あるいはお金のためにプレーするのは理解できるが、「レガシー」にこだわるのは短絡的ではないだろうか。

私も現役時代に数多くの記録を樹立したが、記録のためにプレーしたことは一度もない。チームの一員として、社会活動家として、あるいは地域社会の一員としてのレガシーは残したいが、アスリートとしてのレガシーを残そうと考えたことはない。既に社会的に十分な実績があるレブロンが、あえて選手としてのレガシーにこだわるのは狭量に思える。

昨年夏、レブロンは故郷オハイオ州アクロン市と共同で、恵まれない子供たちのための公立学校を設立した。ここは勉強を教えるだけでなく、生徒の家族が生活を向上させるための支援もする。地域社会へのこうした尽力は、豪快なダンクシュートよりもずっとヒーローにふさわしい。


レブロンが地元に設立した学校 JASON MILLER/GETTY IMAGES

最後に、メディアに蔓延するGOAT(Greatest of All Time、史上最高)という病、つまり「誰が史上最高の選手なのか」という話題に触れておきたい。

今年1月、レブロンはESPNのインタビューで、自分こそがGOATだと主張した。16年のNBAファイナルで、1勝3敗の劣勢からの逆転劇によってキャバリアーズに数十年ぶりの優勝をもたらした実績を引き合いに出し、「あの逆転優勝が僕を史上最高の選手にした」と語ったのだ。

しかし誰がGOATかという質問は「空を飛ぶのと透明人間になるのと、どちらの超能力がすごいか」と問うのに等しい。彼がそんなむなしいゲームにとらわれているのは残念だ。

私は週に何度かこの手の質問を受けるが、答えはいつも同じだ。ここ何年かでゲームがあまりに大きく変わっており、明確な評価の基準はないと。

だから申し訳ないがレブロン、君はGOATではない。そんな称号は神話上の怪物にすぎない。GOATが誰かという質問は、ユニコーンの角はどれくらい大きいかという質問と同じくらい無意味だ。

それでもレブロン、君が今の時代のヒーローであることは間違いない。その地位は君が自力で獲得したものだ。君のようなヒーローがいることを、私たちは誇りに思う。

(筆者はNBAで20年にわたって活躍し、MVPに6度も輝いた伝説の選手。今も生涯獲得ポイント1位の記録を保持している。著書多数)

<本誌2019年3月5日号掲載>


※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。



カリーム・アブドゥル・ジャバー(元NBA選手)

この記事の関連ニュース