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輸出規制で在庫確保に奔走する韓国企業トップ

ニューズウィーク日本版 2019年7月23日 15時30分

<日本政府の韓国に対する輸出規制を受け、韓国企業のトップが相次いで来日。いっぽうで脱日本依存も進めようとしているが......>

日本政府の韓国に対する輸出規制を受け、韓国企業は在庫確保に東奔西走している。サムスングループの事実上トップの李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長とロッテグループの辛東彬(シン・ドンビン、重光昭夫)会長が、2019年7月7日日本入りした。

同日に、洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相と金尚祖(キム・サンジョ)青瓦台(チョンワデ、大統領府)政策室長が午餐を挟んで財界トップと輸出規制対策を議論したが、参加者名簿に2人の名前はなかった。また、10日にも文在寅大統領と主要グループトップの懇談会が行われたが、両代表は帰国することなく会を欠席している。大統領との懇談より、日本での面談を優先させたのだ。

サムスン電子、現代自動車、ロッテ......相次いでトップが来日

サムスン電子は李在鎔副会長の訪日目的を明らかにしていないが、台湾やシンガポールに生産拠点をもつステラケミファなど、日本企業が国外に有する生産拠点の在庫確保が目的とみられている。サムスンがステラケミファから供給を受けているフッ化水素(エッチングガス)は、その毒性から長期保管が難しく、ジャスト・イン・タイム(適時供給)が必須だが、ステラケミファは第3国からの輸出も日本政府の承認が必要という立場を示したようだ。

サムスン電子は日本企業から部品や素材を直接輸入しているほか、日本企業の韓国子会社や日本企業から輸入した部品を加工する韓国企業から調達しており、李在鎔副会長が日本出張から帰国した翌13日、日本産素材の在庫を90日以上確保するよう要請する文書を協力会社に送付した。最終期限は8月15日で、追加費用はすべてサムスン電子が負担する内容となっている。デッドラインを8月15日としたのは日本政府が韓国をホワイト国から除外する可能性があるためだ。

ロッテグループは今回の規制による影響はないが、日本政府が韓国をホワイト国から除外すれば、輸入量の40%を日本に依存している石油化学部門が影響を受ける。辛会長は先手を打って要人に会うため日本を訪問した。

現代自動車グループの鄭義宣(チョン・ウィソン)首席副会長も同18日に日本を訪問している。同副会長は16日に本社で海外法人長会議を開いたその足で不振から抜け出せずにいる中国市場と生産施設を点検するため北京入りしたが、韓国に戻ると専用機で東京に向かった。大韓アーチェリー協会長として12日から18日まで東京で開催されたプレオリンピックへの出席が表向きの目的だが、選手団や協会関係者を激励した後、部品や材料のサプライチェーンを点検し、現地の雰囲気に関する報告を受けている。

自動車は国産化率が高く、また供給網がグローバル化しているため、素材の需給に支障はないが、現代車グループが注力している燃料電池車は、高圧水素タンク素材など日本依存が高く、ホワイト国から除外されると影響は避けられない。



脱日本依存はどこまで進むか

各社が在庫確保に東奔西走する一方、脱日本依存の動きがあるとメディアは報じている。MBC (文化放送)は同18日のニュース番組で、LGディスプレイが日本産フッ化水素の代わりとなる国内製品のテストを終えたと報じ、中国上海証券報インターネット版も中国山東省の化学企業が韓国の半導体企業からフッ化水素の受注に成功したと報じている。

韓国政府は部品や材料研究開発(R&D)に対する税制支援を拡大する方針を定めたが、「2018中小企業技術統計調査報告書」によると、韓国中小企業の核心技術は米国から1.9年、ドイツから1.6年、また日本からは1.8年遅れている。韓国の中小企業のR&D投資は2007年の6億3000万ウォン、平均研究員数8.3人から2017年には年3億4000万ウォン、4.3人に減っており、脱日本依存は容易ではない。

日本政府の韓国に対する規制は簡略化していた輸出検査を原則通りに行う措置であり、輸出自体を制限するものではない。発注から輸出までに要する期間は長くなるが、個別検査で問題ないと判断された素材や部品の輸出は継続される。

韓国製品が日本製品を代替しうる品質に到達する頃には、検査を伴う輸出入手続きが定着する可能性がある上、日本の技術はさらに進んでいるだろう。

韓国政府は脱日本依存を掲げるが、日本企業は輸入規制より、韓国市場の空洞化による需要減を危惧している。需要の好転が期待できないR&Dを韓国企業がどこまで継続するのか。日本からの輸入依存に戻る可能性も否定できない。


佐々木和義

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