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先進国から東南アジアへの廃プラ押し付けは許さない

ニューズウィーク日本版 2019年7月25日 15時30分

<欧米や日本からの違法ごみがマレーシアへ――「プラごみ戦争」終結のためには送り出し先の先進国も協力すべきだ>

5月下旬の炎天下、私はマレーシアのクラン港に立っていた。目の前には海を渡ってきた「プラスチックごみ」のコンテナが並び、当局の検査を待っていた。中身はまちまちで汚染されたごみも交じっており、コンテナが次々と開封されていくたび、私の胸の動悸は激しくなった。

オーストラリアからのコンテナが開封された瞬間を私は決して忘れないだろう。死んだウジ虫だらけの牛乳瓶から腐臭が漂い、吐き気がした。そんなものが海を越えて何千キロも離れた自分の国に届いたという事実にも胸が悪くなった。

17年末に中国がプラスチックごみの輸入禁止を発表。たちまちマレーシアなど東南アジア諸国は先進国の廃棄物の新たな輸送先と化した。実際にはその数カ月前から、既に前例のない大量のプラスチックごみがマレーシアに押し寄せていた。

18年5月、マレーシアでは史上初の政権交代が実現し、私は7月に新政権の環境相に就任した。その直後、私の元にセランゴール州の小さな町ジェンジャロムの住民からプラスチックを燃やす際の悪臭がひどいと苦情が届いた。担当当局が違法なリサイクル工場を閉鎖して一件落着と思っていたのだが、実はこれが先進国が送り付けてくるごみとの戦争の始まりだった。

マレーシアは同月すぐにプラスチックごみの輸入規制・取り締まりを強化したが、その時点で既に何千トンもの汚染されたプラごみが地球の裏側からわが国に押し寄せていた。イギリスやドイツの有名スーパーマーケットのレジ袋、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、日本の一般的なブランドのプラスチック包装材などだ。

当局が閉鎖した違法リサイクル工場の数は既に150を超えている。こうした違法業者のせいで、国内でのプラスチックのリサイクルの全面禁止を求める声も上がっている。かつてはグリーンな産業とされていたものが、環境と健康を脅かすと見なされるようになってしまった。

規制強化にもかかわらず、虚偽申告や輸入許可を悪用するなどして、ごみを違法にマレーシアに持ち込もうとする業者は後を絶たなかった。政府は全ての港で取り締まりを強化して対応してきた。

それにしてもプラごみの管理義務をなぜ受け入れ国だけが負わされるのか。輸出する側も責任を負うべきではないのか。

これは92年に発効したバーゼル条約の精神そのものだ。同条約は、有害廃棄物の国境を越えた移動について受け入れ国と輸出国の双方が等しく管理義務を負うと規定。輸出国(通常は、より多くのリソースとより強力な政府機関を持つ先進国)が途上国への有害廃棄物の投棄防止に重要な役割を持つとしている。



プラごみも同条約の規制対象に含めるとする改正案が今年5月に採択されたが、発効は21年1月。それまではクリーンですぐにリサイクル可能なプラごみも、そうでないものが交じった汚染ごみも区別されない。

まだ国際的枠組みがなくても、汚染されたごみをマレーシアに輸出している国々はその適切な処理に道義的義務を負うべきだ。

例えばバーゼル条約によれば、輸出国は国内の廃棄物を輸出する前に相手国の承諾を得なければならない。私が目にした大量のプラスチックごみの受け入れにマレーシアが同意していないにもかかわらず、輸出国は何の責任も取らず、後始末をわれわれだけに押し付けている。

「国際リサイクル」は幻想

輸出国の明確な協力はまだ得られていないが、わが国は今後も相手国政府に働き掛けていく。意識は向上しており、バーゼル条約の精神を締約国が遵守する日が必ず来ると信じている。

中国のプラスチックごみ禁輸措置は、プラスチック再利用とプラスチックごみの国境を越えた移動をめぐる危機への取り組みが急務であることを世界に気付かせた。結局、ごみを分別するのと実際にリサイクルするのとでは大違いなのだ。

先進国ではごみを自国でリサイクルするより、地球の裏側にある途上国に輸出して「リサイクル」した気になったほうが、いまだに安上がりだ。リサイクルと環境保護というのは幻想にすぎない。廃棄物の大部分は捨てっ放しか違法に再利用されている。国際リサイクルが環境に優しい方法で行われるよう総合的に監視する必要がある。

さもないと米環境保護局(EPA)などからのリサイクル助成金は問題を悪化させるだけだろう。「国際リサイクル」とは名ばかりで、実際には最大規模のプラスチックごみ投棄だ。

環境に配慮して真面目にごみを分別している人々の努力も水の泡だ。せっかく分別したごみが違法再生処理工場で焼却されたり、海に投棄される。

世界の総人口は50年には97億に達する見込みだ。このまま生産、消費、「リサイクル」を続けたらどうなるか、考えるだけで恐ろしい。プラごみのリサイクル率は世界全体で10%未満。適切な分別基準も未分別の汚染されたプラごみをリサイクルする技術もない国が多いのだ。

この問題に取り組むには国際協力が必要だ。プラごみの輸出入を監視・管理する枠組みを作り、世界全体のリサイクル率を向上させなければならない。石油系の使い捨てプラスチック包装を環境に優しい材質に変える必要もある。世界が力を合わせれば、必ず危機を乗り越え、グリーン産業の新たな成長のチャンスも生み出せるはずだ。

<本誌2019年7月30日号掲載>


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ヨー・ビー・イン(マレーシア環境相)

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