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ロシアの領空侵犯は日米韓への挑発か

ニューズウィーク日本版 2019年7月24日 16時40分

<竹島上空をロシア機が領空侵犯するという前代未聞の試みは、アメリカ主導の世界的軍事秩序に対するロシアの挑戦状かもしれない>

日本と韓国が領有権争いをしている竹島の上空をロシアと中国の戦闘機が侵犯し、韓国軍から警告射撃を受けるというきわめて珍しい事件が起きた。これは、アメリカが考える世界の軍事秩序に対するロシアの示威行為とみることもできる。

韓国合同参謀本部は7月23日、ロシアと中国の空軍が韓国防空識別圏(KADIZ)に「侵入」し、その後ロシア軍2機が、日本が領有権を主張し、韓国が実効支配している竹島(韓国名・独島)上空の領空を侵犯したという声明を発表した。これに対して韓国は戦闘機をスクランブル発進させ、「フレア(おとり用熱源)発射と警告射撃を含む戦術的行動をとった」。

合同参謀本部は「ロシアの軍用機が韓国の空域に侵入したのは今回が初めて」としている。

韓国の聯合ニュースがある当局者の話として伝えたところでは、最初に領空に侵入したロシアのベリエフA50空中警戒管制機は通信による警告に応答しなかった。そこで韓国のF-15KとF-16K戦闘機が「フレア10発送り、80発の警告射撃を行った」という。その後まもなくロシア軍機は再び韓国領空を侵犯したため、韓国軍機は「より強力な軍事行動をとり、フレア10発と280発の警告射撃を実施した」。

<参考記事>ロシア「撃ち落とせない極超音速ミサイル」を実戦配備へ

中ロは共同訓練中?

韓国側の説明をロシア政府は完全否定したが、ロシアは中国と急接近しており、これまで何度も東アジア地域でアメリカとその同盟国に対して挑発行動をしている。

ロシアの国営タス通信によれば、ロシア国防省は中国のH6-K爆撃機とロシアのTu-95MS爆撃機は「日本海と東シナ海の計画されたルートの巡回飛行を実施していた」と述べ、それは「両国にとってアジア太平洋地域における初の長距離航空機による共同巡回飛行」であると説明した。そして「この飛行は2019年の軍事協力計画の一環として行われたもので、第三国に対するものではない」と付け加えた。

ロシア国防省は「飛行記録によれば、他国空域の侵犯はなかった」と主張し、また警告射撃を行ったという韓国側の発表を否定。もしそうであればロシア機のパイロットは「即時応戦していたはずだ」と語った。

<参考記事>次の戦争では中・ロに勝てないと、米連邦機関が警告

中国外務省の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官は記者会見で、この事件については認識がないと述べながら、「侵入」という言葉は「慎重に」使用されるべきだと語った。



しかし、ロシアが挑発的な行動をしたという韓国の告発を裏づけたのは、日本だった。防衛省はロシア機の領空侵犯に対して、「戦闘機を緊急発進させた」と発表、竹島上空を「侵犯した」中国のH6-KとロシアのTu-95MSおよびA-50の飛行経路を示した詳細な報告書を出した。同時に、日本の領土である竹島に関して韓国に防衛権はないという考えから、日本は韓国に抗議した。


折しも日韓関係は最悪の状態だ。昨年、韓国の裁判所は第二次大戦中の元徴用工の訴えを認め、日本企業に賠償を命じる判決を下した。日本側は日韓請求権協定によってすでに賠償は終わっていると主張している。

日韓の対立は貿易問題に発展し、関係はさらに悪化している。このタイミングでアメリカの最大のライバルである中ロの軍事訓練が初めて行われたことは、両国の関係が新しい段階に達したことを表すのかもしれない。

(翻訳:栗原紀子)


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トム・オコナー

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