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八村塁を指名したNBAウィザーズは2番目に希望が持てないチーム

ニューズウィーク日本版 2019年7月25日 16時0分

<八村塁選手の今後の成長や活躍にとってひじょうに重要なワシントン・ウィザーズの現状と環境を見てみたい......>

八村塁選手が、NBAドラフトで9位指名されたことは、大きな話題となったが、八村選手を迎えるワシントン・ウィザーズというチームやリーグ全体の状況など、コート上以外の動向や状況については、あまり情報が出ていないようだ。そこで、八村選手の今後の成長や活躍にとってひじょうに重要なワシントン・ウィザーズの現状と環境を見てみたい。

「30チーム中2番目に希望が持てないチーム」

The Ringerというスポーツやエンターテイメントの話題を扱うサイトの主催者ビル・シモンズは、NBAに関して今「一番の見巧者」だ。そのシモンズが、最近のポッドキャストで「どのチームがいちばんひどい状況か?」という話題で、ウィザーズを2番目に挙げた。ちなみにもっとも希望が持てないのは、あのマイケル・ジョーダンがオーナーのシャーロット・ホーネッツで、これはひとえにジョーダンの「経営責任者としての才覚」のなさが原因と考えられる......。

ウィザーズが2番目に挙げられていたのは「今後どんなチームにしていくつもりか?」という球団としてのチームづくりの方向性が見えないことが理由だった。

「現状のチームの補強では、優勝を狙うチームあるいはプレイオフでカンファレンス・ファイナルまで進めるチームにするのは無理」、そうとわかったら商品価値のある選手からさっさと放出して、代わりに獲得したドラフト指名権を溜め込んで将来に備える。そして、シーズンの成績が下位のチームほど翌年のドラフトでは高い順位の指名権を獲得できる確率が上がるため、選手を経験の浅い若手を中心にしてわざと負ける......。「タンキング」と呼ばれるこうした戦略を採って新規まき直しを図るチームがここ数年増えてきている。

ウィザーズもそうしたチームの解体を行っているところで、一方ではジョン・ウォールという超高級取りの元スーパースターとの契約が残っていて、これが再建の足枷となっている──ウォールとの契約は、4年間・総額1億7100万ドル、という内容で、サラリーキャップという各チームに与えられた使えるサラリーの総枠のだいたい35%くらいに相当する。

ウォールとの契約が残り続ける限り、ウィザーズはチーム再建にあたって打てる選択肢も限られる。またこの契約は選手の実力と金額が釣り合わないバッド・ディールの典型で、そんなウォールをトレードで引き取ろうというチームもほかに見当たらない。またもう一人のオールスター級選手であるブラッドリー・ビールも来年夏にはフリーエージェントになるので、いまのままではどこか優勝を狙える他チームに移る可能性が高いと見られている。

なお、ウォールとの契約更新を一年ほど前に決めながら、その後他の主要メンバーを次々と手放すというチグハグな動きに出たゼネラルマネージャーのアーニー・グランフェルドはその責任を問われてか、4月初めに解任された。長年のウィザーズファンであるアンドリュー・シャープ=SI.comライターなどはこの解任で大喜び。そういうGMをなんだかんだと20年近くも使い続けてきたオーナー、テッド・レオンシスの才覚も今後さらに問われるようになるかもしれない。



「人事部長不在」のなかで行われた新人指名

ウィザーズはグランフェルドの後任として、実績・知名度を兼ね備た大物の獲得を目指し、一時は「昨季の優勝チームのトロント・ラプターズのマサイ・ウジリに接触か」との報道も流れていた。しかし、このGM探しは結局うまくいかなかったようで、7月19日に暫定GMのトミー・シェパードを正式なGMにすると発表。

ESPNの看板記者の一人であるブライアン・ウィンドホーストによると、新GMのシェパードはベテランのスカウトとのことで、八村のことはそれなりに把握して指名したと思われる。ただドラフト直後には「ウィザーズは事前のワークアウトもコンタクトもなしに八村をいきなり指名していた」といった話もESPNで報じられており、このあたりにいまのウィザーズの混乱ぶりが伺えるとも感じられた。

「禍福はあざなえる縄の如し」で頑張って欲しい

故障回復が順調に進んでいないジョン・ウォールが試合に出ず、ブラッドリー・ビールもシーズン終了をまたずに来年2月のトレード締め切りまでに放出となれば、八村選手は単なる先発メンバー以上の存在、つまりチームの新しい中心選手にならざるを得なくなるだろう。

これは、その年のドラフト予想で10番代(10〜20位くらい)だった新人選手にとってはいささか荷が重い役回りかもしれない。いっぽうで、昨季のMVPであるヤニス・アンテトクンポ(ミルウォーキー・バックス)、そしてファイナルMVPのクワイ・レナード(トロントで優勝後、LAクリッパーズに移籍)がそれぞれその年の15位指名でNBA入りしていたことを考えると、八村選手本人の努力次第ではリーグ全体で一目置かれる選手となり、末永く現役を続けられる選手になることも可能かもしれない。そうは言っても、400人くらいしか枠のないところに毎年40~50人の新人が加わっては次々に淘汰されていく、何とも厳しい世界であることは確かなのだが......。

こうして、組織として不安定なチームでの選手生活をスタートすることになりそうで、八村選手にとっては当面逆境が続くかもしれないが、なんとかうまく切り抜けて、リーグを動かすスーパースターのひとりになってくれることを期待したい。



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坂和敏

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