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勤務中の送別会準備に、大阪府が「厳しすぎる」対処をする理由 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2019年7月30日 15時45分

<騒動の背景には、大阪都構想の推進派と反対派の政治抗争がありそうだが......>

一部の報道によれば、大阪府で、退任する幹部の送別会に関して、その「準備」が不適切だったとして関与した幹部の処分を検討しているそうです。どんな「不適切な行為」があったのかというと、具体的には2つ指摘されています。

1つは、勤務時間中に府庁職場内のコンピュータを使い、公用のメールアドレスを使用して、送別会への参加案内を連絡したという問題です。

もう1つは、参加しない職員から記念品代を集め、計1万2500円を法務課内の金庫に保管していたという点です。

この報道を受けて、「厳しすぎる」とか「これで処分というのは気の毒」というような反応が出ています。確かに第一印象として、多くの人がそんな感想を持つことは容易に想像ができます。

ですが、このニュース、もう少し詳しく見ていくと別の問題が見えてきます。まず送別会で「送られる退職者」ですが、これは大阪府の総務部長なのだそうです。その人物が、6月末に退職し、堺市の副市長に転任したため、府庁の幹部らが、7月に入って、送別会を計画したのだそうです。

どういうことかというと、堺市というのは、長い間「大阪府と大阪市の統合による大阪都構想」に反対していたわけです。ところが、6月9日に行われた市長選挙で、大阪維新の会公認の永藤英機氏が当選しました。これで、都構想に賛成する市長が誕生したことになります。

報道によれば、今回、異動したのは報道によれば元大阪府総務部長の中野時浩氏で、都構想推進派として、新しく堺市長になった永藤英機氏を支えるべく、大阪府から送り込まれたと見ることができます。つまり、都構想推進の実務をともに進める役割を担って、堺市の副市長になるということです。

であれば、この「送別会」という場の意味合いは変わって来ます。大阪府の幹部職員が一堂に会して、堺市の副市長に就任する中野氏をねぎらい、今後の活躍への応援、つまり都構想推進へ向けての連携を確認する場ということになるはずで、単なる送別会ではない可能性が高いと思われます。

では、どうして吉村知事は、その送別会の準備について厳格に処分をチラつかせたのでしょう。それは恐らく、府庁の中にある「都構想反対派」が騒ぎ始めたのだと思われます。あるいは堺市議会の関係かもしれません。

いずれにしても、都構想に反対の自民党や共産党に近い職員が「税金から給料をもらっている公務員が、送別会の準備を勤務中に行うのが問題」だというような発言を、メディアに流すか、府庁内で問題にしたのだと思います。



知事が異例とも思われるほどに厳格な対応をしたのは、この問題がニュースになると、都構想という考え方そのもののイメージダウンになるのを恐れたのだと思います。報道によれば、問題の送別会は、中野氏サイドの都合がつかなくなったという理由でキャンセルされたそうです。

ということで、この事件は単に「社内の飲み会の準備は業務か? 業務外か?」といった働き方の問題ではなく、都構想を進める上での、いわば派閥抗争のようなものであると考えられます。

このニュースに関しては、そのように理解ができますが、仮に終身雇用制である地方自治体の幹部職員が、「税金から給料をもらいながら」派閥抗争を繰り広げているとしたら、これは問題だと思います。

だからと言って、選挙で当選してくる首長が交代して、新しい政策が民意の承認を得たにもかかわらず、自治体の幹部職員が従来のやり方をあらためず、一種の超然とした姿勢で業務を行なっていたとしたら、これも民意に反するわけであり、決して良いことではありません。

一つの考え方としては、政治任用、つまり首長とその指名する副首長だけでなく、もう少し実務レベルの幹部クラスにいたるまで、選挙結果を受けた首長が任命できるようにする方法です。そうすれば、無駄な内部での対立は避けられますし、民意が行政に反映することになります。

一方で、首長が決まって、幹部職員を指名できたとしても地方議会が動かなければ、政策は前へは進みません。この問題も、制度の設計として修正が必要と思います。大阪の都構想が典型であるように、これから本格的な人口減社会を迎える中では、行政の簡素化というのは喫緊の課題であり、既得権を抑制して必要な改革を進める局面は全国でより深刻化するからです。

その意味では、大阪の都構想が2010年の発表以来9年を経ても、まだ実現できないなど、衰退の加速に対して改革が追いつかない印象もあるわけです。私は、維新の会の持っている右派ポピュリズム的なカルチャーは支持しませんし、大阪の商都復権など産業構造転換の政策が全く進んでいないことには落胆しています。

そうではあるのですが、行政の簡素化というのは必要な政策であり、そのような政策がいつまでも延々と時間がかかっているのは大阪にとってマイナスと思っています。今回の「送別会」騒動は、都構想とその反対勢力との抗争が、複雑化しているということを示しているのであれば、残念としか言いようがありません。

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