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祝ウッドストック50周年! 伝説のパフォーマンスを振り返る

ニューズウィーク日本版 2019年8月1日 17時0分

<衝撃だったジミヘンのアメリカ国歌に、だるい演奏で観客が寝たグレイトフル・デッド――。3日間のステージを総ざらいで再検証>

あの頃、ベビーブーム世代は若かった。50年前の夏、雨にも負けず3日間、ウッドストックの農場で愛と平和と相互理解を誓った音楽の祭典に、みんなで熱狂したあの頃は。

もっとも、1969年8月15日から17日にかけてニューヨーク州ベセルで開かれたあの壮大な野外フェスティバルに参加できたのは40 万人ほどにすぎない。残りの人は翌年3月に全米で封切られたドキュメンタリー映画『ウッドストック/愛と平和と音楽の3日間』とそのサウンドトラックで、あの興奮を追体験することになった。

もちろん演奏は素晴らしい。ジョー・コッカー、ザ・フー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、サンタナ、そしてもちろんジミ・ヘンドリックス。いま聴いても震えが来る。

では映画は? はっきり言って、今さら見る価値はないと思う。泥んこで転げ回る人々や交通渋滞を延々と見せられるのは退屈だし、「LSDには手を出さないで」というアナウンスも一回聞けば十分だ。

それに、なぜか劇場版の映画に収録されなかった素晴らしい演奏もある。そこで本誌は極上のパフォーマンス(とカットされて当然のしょぼいライブ)を求めてディレクターズカット版を全編見直し、インターネット上の映像も探しまくった。以下はその成果。エンジョイ!

映画で見たかった演奏

スウィートウォーター

映画には出てこない。トップバッターを務めるはずが渋滞で遅刻。出番がフォーク歌手リッチー・ヘブンズの伝説的ステージの後になったのが運の尽きだ。

多人種混合の面白いサイケなバンドだった。なにしろチェロのソロ演奏で幕を開けたのだから肝が据わっている。紅一点でリードシンガーのナンシー・ネビンズは、ウッドストックらしからぬピンクのドレス姿だ。

フェスの数カ月後にネビンズが自動車事故で重傷を負い、バンドは活動を停止したが、テレビの『プレイボーイ・アフターダーク』に出演した際の映像が今もネットで見られる。

バート・ソマー

ウッドストックの「忘れられた男」。ルックスに美声にカリスマと、スターの素質はそろっていた。カーリーヘアがトレードマークで、ブロードウェイミュージカル『ヘアー』にも出演した。

ウッドストックではツイン・エレキギターとオルガンをバックに愛を歌うソマーに、観客が熱狂。3日間で観客が総立ちになったのは彼のライブだけだったと言われている。ブレイク必至の新星が映画からもアルバムからも漏れた裏には大人の事情があったらしい。ソマーはキャピトル・レコードと契約していたが、サントラ盤を制作したのはアトランティック・レコーズ傘下のコティヨンだった。





BLANK ARCHIVES/GETTY IMAGES

忘れられて当然の演奏

クイル

もっぱら米北東部で活動していたバンドで、一部に熱烈なファンがいたという。キンクスやディープ・パープルの前座を務めたこともある(映画には出てこない)。

キーフ・ハートリー・バンド

こちらも映画には出てこない。ドラムのキーフ・ハートリーが率いるブラスロックバンドで、どこかシカゴを思わせる。ちなみにハートリーが60年代の一時期に在籍したロリー・ストーム&ザ・ハリケーンズの前任ドラマーは、ビートルズ加入前のリンゴ・スターだった。

見逃された名演

ラビ・シャンカール

シタール奏者シャンカールとタブラ奏者アラ・ラカの熱演が映画に収録されなかったのはおかしい。達人2人の超ハイスピードな掛け合いは圧巻。観客がマリフアナでハイになった若造でも手抜きは一切なし。プロのかがみだ。

メラニー

雨を理由に出演を取りやめたインクレディブル・ストリング・バンドの代わりに出演した。ほぼ無名だったが、これを機に潮目が変わり「心の扉をあけよう」は大ヒット。映画に拾われなかったことも本人は気にしていないだろう。

ディレクターズカット版にもなかった演奏

マウンテン

ギタリストのレスリー・ウエストが率いる実力派バンドで、ウッドストックで披露した「想像されたウエスタンのテーマ」は最高だった。ちなみにベース兼ボーカル担当のフェリクス・パパラルディはイギリスのロックバンド「クリーム」のプロデュースも手掛けた。

クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル

映画にもサントラ盤にも入っていないが、当時はブルーカラー的な感性が光る人気バンドだった。ボーカルのジョン・フォガティが自分たちの前に演奏したグレイトフル・デッドについて、「彼らが観客を眠らせたから、俺たちが起こさなきゃならなかった」と文句を言った話は有名だ。

二度と見たくない演奏

グレイトフル・デッド

よほど疲れていたのか、演奏は見た目も内容も最悪。「ママ・トライド」も「ターン・オン・ユア・ラブ・ライト」もさえない。前出のフォガティの発言も納得だ。

映らなかったメンバー

クロスビー、スティルス、ナッシュ& ヤング

ニール・ヤングを加えたライブはこれが2度目だったが、なぜかヤングは映っていない。カメラはファンにも自分にも邪魔だと言って撮影を拒んだとされる。



必見のパフォーマンス

ザ・フー

アルバム『トミー』の全曲を熱演した。かなり長いが「ピンボールの魔術師」はすごいし、「スパークス」のインストゥルメンタルは躍動感に満ちた名演奏だ(残念ながら映画ではカットされている)。

途中で反戦活動家のアビー・ホフマンが乱入するハプニングもあったが、ピート・タウンゼントが放った「うせろ!」の一言は痛烈だった。



ザ・フー(写真はロジャー・ダルトリー) RBーREDFERNS/GETTY IMAGES


ジミ・ヘンドリックス

米国歌「星条旗」の演奏はまさに伝説的だが、登場したのが最終日の遅くで、多くの観客が帰った後だったのは不運。ファンクやジャズの要素を取り込んだ新曲への反応はいまひとつだ。圧巻は「パープル・ヘイズ」を歌い上げ、空にキスするシーン。

スライ& ザ・ファミリー・ストーン

まさに神懸かり的な名演で、ウッドストックの主役の座を奪ったのがスライ・ストーンだ。ベース兼ボーカルのラリー・グラハムもいいし、トランペット兼ボーカルのシンシア・ロビンソン(そしてあの髪)もすごい。



スライ&ザ・ファミリー・ストーン(写真はスライ・ストーン) MICHAEL OCHS ARCHIVES/GETTY IMAGES


ジョー・コッカーとグリース・バンド

これぞライブの醍醐味といえるのが「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」。コッカーの肉声は実に生々しくてダイナミック。バックバンドによるファルセットの歌声も素晴らしい。

サンタナ

名曲「ソウル・サクリファイス」は当時20歳のマイケル・シュリーブのドラムソロが秀逸。ちなみにキーボードのグレッグ・ローリーは「サンタナ」と「ジャーニー」という2つのバンドでロック殿堂入りを果たしている。



サンタナ MICHAEL OCHS ARCHIVES/GETTY IMAGES


50年たっても現役組

(一部のみ)ザ・フー/ホット・ツナ/ジョーン・バエズ/メラニー/ジョン・セバスチャン/カルロス・サンタナ/カントリー・ジョー・マクドナルド/ジョン・フォガティ/さまざまな構成のクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング

<本誌2019年8月6日号掲載>


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ピーター・カルボナーラ、ハンク・ギルマン

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