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「政府は真実を隠している!」 UFOブームがアメリカに再び襲来

ニューズウィーク日本版 2019年8月2日 19時15分

<政府による隠蔽の暴露? ただの金儲け? 米軍情報機関出身のスーパースター参戦で、「UFO研究」が謎の盛り上がり>

「何を見たのか、私は分かっている」

コンサルティング会社の管理職テリーザ・ティンダル(39)は18年7月下旬、UFO(未確認飛行物体)の存在を信じるきっかけとなった出来事についてそう語った。場所はアリゾナ州トゥーソン。夕方の空を、丸い金色の物体が飛び回っていた。気象観測気球? とんでもない、と彼女は思った──あれは絶対にUFO、そうとしか考えられない。

ニュージャージー州チェリーヒルのホテル、クラウン・プラザ。ここでは1年で最大のUFOイベントと称する「ミューチュアルUFOネットワーク(MUFON)」のシンポジウムが開かれていた。ティンダルと同様の確信を持つ400人の来場者の目的は、地球外生命体やUFOについて語り合うことだ。「目撃した人はとても多い」と、ミシガン州から来たクリスティーヌ・ティッセ(44)は本誌に語った。

シンポジウムの講演は、「農村地帯での原因不明の失踪事件」「火星からの報告」といった謎めいた演題が多い。後者のテーマで話をした物理学者は、7万5000年前の銀河間核戦争が火星文明を破壊したとの説を披露した。会場にはエイリアンによる誘拐の被害者であると主張し、93年の映画『ファイヤー・イン・ザ・スカイ/未知からの生還』のモデルになったトラビス・ウォルトンのような有名人もいた。

しかし、18年には特別なアトラクションが用意されていた。新たなスーパースター、ルイス・エリゾンドの登場だ。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は17年末、「先端航空宇宙脅威識別プログラム」についての記事を1面に掲載した。この国防総省の秘密プロジェクトは、「UFOについての報告を調査した」ものだという。

元大統領首席補佐官も参入

ヤギひげを蓄え、がっしりした体にタトゥーを施したエリゾンドは米軍情報機関の元職員。このプロジェクトが07年にスタートしてから数年後に責任者に任命され、国防総省の広報によると、12年に中止されるまでその任にあった(エリゾンドは今もプロジェクトは継続中だと主張している)。

彼は17年、不十分な支援と不必要な秘密主義に抗議して国防総省を辞めた。ジェームズ・マティス国防長官宛ての辞表には、「なぜこの問題にもっと時間と労力を費やさないのか」とある。

エリゾンドは間もなく、共に真実を探求する同志を見つけた。ポップ・パンクバンド、ブリンク182の元ギタリストで、「エイリアンズ・エグジスト」(宇宙人はいる)という曲の生みの親であるトム・デロングだ。デロングは17年、非営利団体「トゥ・ザ・スターズ芸術科学アカデミー」を立ち上げ、エリゾンドが「表の顔」になった。





宇宙人をかくまっていると噂されたネバダ州の「エリア51」近くを走る高速道路は「地球外生物ハイウェイ」と名付けられている KAREN DESJARDINーMOMENT MOBILE/GETTY IMAGES


この団体の使命は、UFO研究と関連のエンターテインメント制作、そして国防総省が無視し続けるUFOの超先端技術についての知見を深めることだ。アカデミーは2000人以上の投資家を集め、約259万ドルを調達したと主張している。

シンポジウムに登場したエリゾンドは、大勢の熱狂的聴衆に迎えられた。「時には変人扱いされるかもしれない」と、彼は語り掛けた。「でも、皆さんは常に正しかった」

警察や国防総省、ラジオ番組などにUFOの目撃情報を報告する人々は、年間数千~数万人単位でいる。一説によると、1905年以降に報告された目撃例は10万回以上という。

そのほぼ全てが雲、流星、鳥、気象観測気球などの誤認として説明できる。だがいかなる合理的な解明も、真の「UFO信者」の確信を強めるだけだ。エイリアンの証拠は大量にあるが、いわゆるディープステート(国家内国家)の秘密軍事文書(文字どおりの「Xファイル」)に隠匿されていると、彼らは信じている。

Xファイルがらみの陰謀論はUFO信者のお気に入りだ。一部の有名人もこの動きを後押ししている。例えばジョン・ポデスタ元大統領首席補佐官は数年前にツイッターで、自分はビル・クリントン大統領の首席補佐官だったのにUFO関連文書の公開を実現できなかったと嘆いた。

陰謀論者にとって、エリゾンドの登場は自分たちの主張に信頼性を与える希望の光だった。その経歴は、一流のキャリアを持つ職業軍人の典型例だ。

マイアミ出身。父親はキューバ人亡命者で、61年のピッグス湾事件(CIA主導でフィデル・カストロ政権の転覆を図り、失敗した秘密作戦)に参加していた。エリゾンドは警備員として働きながらマイアミ大学に通い、95年に卒業後、陸軍に入隊。軍のスパイとして訓練を受けた。国防総省時代に不満分子や変人めいていた兆候はなく、南米と中東で武装勢力の動向を追う秘密任務にキャリアの大部分を費やした。

10年、エリゾンドは「原因不明の航空現象」に関する報告を調査する小グループの責任者になった。その3年前にネバダ州選出のハリー・リード上院議員(当時)の要請でスタートした地味な低予算プロジェクトだった。詳細は不明だが、このプロジェクトはネバダ州の軍需関連企業ビゲロー・エアロスペースとの共同事業だったようだ。同社のオーナーで億万長者のロバート・ビゲローは熱心なUFO信者だ。

NYTの記事が出る2カ月前、エリゾンドは国防総省を退職した。本誌は17年10月4日付の辞表の写しと称するものを見せられたが、そこにはプロジェクトへの関心の低さに対する不満が書かれていた。「機密レベルでもそれ以外でも圧倒的な証拠がある。わが軍に対する戦術的脅威、わが国の安全保障への実存的脅威になる可能性があるにもかかわらず、国防総省の一部はさらなる調査に根強く反対している」



エリゾンドが「証拠」の1つとして挙げるのは、04年の音声・動画ファイルだ。このファイルはNYTにリークされ(エリゾンドは自分ではないと主張している)、今ではUFO神話の重要な構成要素となっている。

2機のF/A18Fスーパーホーネット戦闘攻撃機がサンディエゴ沖の通常訓練で、後に報告書で「複数の特異な航空機械」と表現された物体の調査を指示された。パイロットは「機械」が高度6万フィート(約1万8000メートル)付近から50フィートまで瞬時に降下したと報告。パイロットの1人によれば、白いティックタック(カプセル形ミントキャンディー)のように見えたという。



UFO関連の市場は大きい

豊富な軍事的知識を持つアカデミーの人材はエリゾンドだけではない。クリントンとジョージ・W・ブッシュ大統領の時代に情報担当の国防次官補代理だったクリス・メロンも参加している。彼は当時、機密レベルが特に高い国防総省のプロジェクトを管掌していた。18年3月には、「相次ぐ軍とUFOとの遭遇──なぜ国防総省は注意を払わないのか?」と題した署名記事をワシントン・ポスト紙に投稿した。

ジム・セミバンはCIAの秘密調査部門に25年間所属していた。07年にCIAを退職し、設立後間もないアカデミーに加わった。「彼はスパイだ」と、デロングは17年11月のツイッターで自慢している。

アカデミーの共同創設者ハル・プトフは電気技師で、超能力に関するCIAと国防総省情報局(DIA)の研究に加わり、冒頭の国防総省の秘密プロジェクトで請負業者として働いていた。

アカデミーを立ち上げたのは17年10月だ。そのしばらく後、デロングはポッドキャスト配信者のジョー・ローガンのインタビューを受け、立ち上げに向けた準備は2年前から始まり、国防関係の高官や防衛産業関係者との秘密の会合を通してプランを練ってきたと語った(デロングは本誌の取材申し込みに応じなかった)。

この会合でデロングは、政府が宇宙人の死体を保管しているといった機密情報をいくつも耳にしたという。こうした真の情報を、ファンタジーやSFの制作を通して世間に伝える役に選ばれたのは、自分が有名人で若い世代に影響力があるからだと、彼は言う。

デロングはこれ以外にも「複数の種族の宇宙人が資源目当てで地球に来た」とか、「進化を促進するために宇宙人が定期的に人類の遺伝子を操作してきた」といった話もした。

デロングがこうした活動をする動機をうさんくさく感じる人は、UFO信者の中にもいる。デロングはUFO関連の本や商品を売っており、単に金目当てなのではないか、奇矯な発言も商売の一環なのではないかというわけだ。



確かにUFO関連市場は大きい。ケーブルテレビでは『古代の宇宙人』や『UFOハンター』といったドキュメンタリー調のフィクション番組が放送され、視聴者から熱烈な支持を受けている。ヒストリーチャンネルは50~60年代に国防総省に実在した「プロジェクト・ブルーブック」というUFO目撃情報の調査プロジェクトを題材にした連続ドラマの放映を予定している。

ちなみに60年代末にこの調査プログラムが終了した後、米政府は一貫してUFOに関する調査は行っていないとの立場を取ってきた。17年、エリゾンドが声を上げるまでは......。

目撃情報の信憑性についてエリゾンドは「データが最終的に真実を物語るだろう」と述べている。だがそのデータはどこにあるのかと問うと、エリゾンドから返ってくるのはディープステートが隠しているといった言葉だけだ。国防総省の調査プロジェクトでは大学に研究を委託するなど「大量の」データが集められたが、その大半は「情報自由法の対象外」で、情報公開を申請してもほとんど情報は得られないと、彼は言う。

だがこの主張は、元上院議員のリードが18年3月にニューヨーク誌のインタビューで語った内容と矛盾する。リードは「(報告書の)文書は大量で、完成後に入手可能になった。その大半、少なくとも80%は公開されている」と述べた。また、元国防次官補代理のメロンがワシントン・ポストに寄稿した内容とも矛盾する。メロンは「目撃情報のデータの量は増えている」と書いた。

メロンはそうしたデータの例として、正体不明の飛行物体を捉えた軍のレーダーデータや、この物体に遭遇したとみられる海軍の戦闘機のコクピット映像や音声記録を挙げている。軍のパイロットがティックタック形のUFOを目撃したのは04年の1件だけではないとメロンは言う。パイロットたちは同様のUFOと少なくとももう1回は遭遇しており、UFOが海に落ちていって水面のすぐ下で動くのを見たと語っているという。またメロンは「ティックタック形は別にしても、海軍の兵士や艦艇からのものを含め、この数年だけで目撃情報は数十件ある。1回きりの出来事では断じてない」と述べた。



15年11月にカリフォルニア州ランズバーグで目撃された光る物体 MARCUS YAMーLOS ANGELES TIMES/GETTY IMAGES


メロンはティックタック形UFOの映像には説得力があると思っているが、UFO信者でない専門家の見方は異なる。「こうして常ならざるものが見えるのは全て、自然もしくは人間の手による現象によって説明がつく」と言うのは、ハーバード大学天文学部のアビ・ローブ学部長だ。

世界中の国が隠蔽に参加?

要するに、パイロットたちが見たのは自分たちが使っている機器や太陽、鳥や雲がつくり出した光学的な幻だったのかもしれないのだ。過去にも例があるが、最高機密の実験機が同じエリアでテスト飛行していた可能性もある。17年、CNNがティックタック形UFOのビデオを天文学者のニール・ドグラース・タイソンに見せたところ、タイソンは皮肉っぽくこう答えた。「宇宙人からディナーのお誘いが来たら呼んでくれ」と。



そもそも、宇宙人の乗った宇宙船がそんなにたくさん飛んでいるのなら、なぜ軌道上に何千とある人工衛星の観測の網に引っ掛かっていないのか?

「『アメリカ政府が隠蔽しているから』と言うかもしれないが、それならアメリカだけでなく(衛星を運用している)全ての国の政府が隠蔽していることになる」と、地球外生命体の発見を目的とする非営利組織SETI研究所の上級研究員セス・ショスタクは言う。「そんなことはあり得ない」

国防総省や情報当局にまともに相手にしてもらいたいと思うなら、なぜエリゾンドはMUFONのシンポジウムのような「色物」のイベントに顔を出したのか。彼やメロンやその同僚たちはなぜ、デロングのようないかれたロックスターと手を組むのか。

そうした疑いの声についてエリゾンドは「政府による情報工作に手を貸しているわけではない」とうんざりした様子で答えた。「安定した仕事をなげうつという大きなリスクを冒してまでやっているんだ。もし実を結ばなかったら、私はウォルマートでバイトをする羽目になるだろう」

アカデミーの成功に向けて、これから半年ほどが正念場だとエリゾンドは言う。その頃にはUFO目撃情報に関するさらなるデータを公表できるようになると、彼は考えている。

だがそれでも多くの疑問は残る。彼は国防総省時代に知り得た情報の機密指定を解くために水面下で動いているのか? 尋ねても本人は答えない。その情報に人々がアクセスできるようになるのはいつなのか?「(そのために)動いているところだ」と彼は答えた。

「信頼性については心配していない」と、エリゾンドは言う。「問題はファクトだ」。一般大衆が見ることのできるファクトは不鮮明な映像だけだと指摘して彼はこう主張した。「データはある。ただ公表されていないだけだ」

なぜ多くの人から疑いの目を向けられているか、エリゾンドは理解している。「皆が見たとおりの事実を受け入れることができないのも無理はない。私はプロのスパイだから」と彼は言う。「とことんいかれた話に聞こえるだろうが、これはとことん真実だ」

<本誌2018年12月11日号掲載>


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2004年、米軍攻撃機の訓練中に撮影されたとされるティックタック形UFO


キース・クルーア(ジャーナリスト)

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