Infoseek 楽天

ビンラディン3人目の息子殺害、アルカイダ「ザワヒリ後」に関心集まる

ニューズウィーク日本版 2019年8月6日 17時55分

<ハムザはリーダーシップに乏しいザワヒリに代わるカリスマ後継者と目されていた。戦闘員勧誘や知名度においてISISとの差が一段と開くだろう>

ウサマ・ビンラディンの息子のハムザ・ビンラディンが死亡したらしい──7月31日、米メディアはこのニュースを一斉に報じた。国際テロ組織アルカイダの創設者で同時多発テロの首謀者でもある男を父に持つハムザは、アルカイダの最有力後継者と目されてきた。殺害場所を含め詳細は不明だが、彼の死にアメリカが関与したことを複数の米政府関係者が認めている。

事実なら、このニュースはアルカイダにとって単なる象徴的な人物の死以上の意味を持つ。アルカイダのブランド価値は著しく低下し、戦闘員の勧誘や知名度においてテロ組織ISIS(自称イスラム国)との差が一段と開くだろう。ISISの「国家」崩壊を受けて再びグローバルジハードを主導しようともくろんでいた矢先だけに、戦闘員の士気の低下は免れない。

2011年にビンラディンが殺害されて以降、アルカイダでは長年ナンバー2だったアイマン・アル・ザワヒリが最高指導者を務めている。ハムザは後継者候補としてザワヒリに目をかけられてきた。そんなハムザを米国務省は2017年に国際テロリストに指定し、今年2月には100万ドルの懸賞金をかけた。

2001年の米軍のアフガニスタン侵攻を受けて祖国を逃れたとき、ハムザはまだ少年だった。そのため実戦経験はなく、現在は30歳前後とみられる。殺害されたビンラディンの息子は、彼で3人目となる。

だが地味な経歴とは裏腹に、ハムザの血統には大きな価値があった。彼はビンラディンのお気に入りの息子だっただけでなく、アルカイダのエジプト人幹部アブ・ムハンマド・アル・マスリの義理の息子でもある。ジハードの世界では、カリスマ的指導者ビンラディンの名を冠するだけで多くの戦闘員志願者の関心を引き付けられる。

ハムザに期待が集まっていたもう1つの理由は、ザワヒリにカリスマ性が乏しいことだ。ザワヒリがアルカイダの初期から中心的存在として組織を導いてきたのは間違いない。だが彼の指導力には疑問も多い。

父親譲りの雄弁家だった

派手な広報戦略で勢力を拡大したISISの台頭に伴い、アルカイダの戦闘員勧誘は難航。世界各地の若者がシリアとイラクでISISに加わった一方、アルカイダと関係の深かったシリアのアルヌスラ戦線は戦闘員募集に苦労した。



シリアの国内勢力とのコミュニケーションにおいても、ザワヒリは苦戦していた。喫緊の課題に迅速に回答を示せなかったため、地元の司令官らはアルカイダ抜きで話を進めることが多かった。

公開された音声から、ハムザは話術が巧みで、雄弁家だった父の才能を受け継いでいたことが分かる。ザワヒリの冗長で不器用な語り口とは対照的に、ハムザは限られた論点に絞り、要点を何度も繰り返す。

ハムザが死亡し、他にめぼしい後継者もいない今、「ザワヒリ後」に関心が集まるのは避けられない。最高幹部サイフ・アル・アデルの名が上がるだろうが、アルカイダに長年貢献してきた実績を加味しても、聖戦士たちの熱狂を呼び起こせる存在とは言い難い。

ザワヒリが諸外国のテロ組織ネットワークから孤立し、大胆な指揮を執る力も示せないなか、ハムザがアルカイダを次のステージに導くと期待する声が高まっていた。そんな彼の死によって、アルカイダの先行きにはこれまで以上に暗雲が垂れ込めている。

From Foreign Policy Magazine

<2019年8月13&20日号掲載>

【参考記事】ISIS・アルカイダの問題「むしろ悪化」 テロ首謀者殺害に喜べない理由
【参考記事】ビンラディンの「AVコレクション」が騒がれる理由


※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。



コリン・クラーク

この記事の関連ニュース