Infoseek 楽天

ウーマン村本×パックン「カウンターパンチは全部ありだと思う」

ニューズウィーク日本版 2019年8月7日 17時10分

<政治・社会話題をネタにするウーマンラッシュアワーの村本大輔さんと、ハーバード大卒のお笑い芸人であるパックンが対談。お笑いにタブーはあるか?>

お笑いにタブーはあるのか。どんなネタなら許容されるのか。

8月6日発売の「パックンのお笑い国際情勢入門」(8/13&20日号)で、政治ネタに挑んだパックン(パトリック・ハーラン)。取材の一環として、政治・社会話題をネタにするウーマンラッシュアワーの村本大輔さんに話を聞いた。

7月にスタンダップコメディー修行のため渡米する直前だった村本さんとの対談を、前後編に分けて掲載する(この記事は後編)。

※前編はこちら:ウーマン村本×パックン「原発や基地をやるきっかけは堀潤さん」

◇ ◇ ◇

パックン アメリカのお笑いは、限界に挑戦するのがポイントなんです。ぎりぎりの線を攻めるのがお笑いの運命でもあるとみられている。それに近い?

村本 「タブーに挑んでいる自分をかっこいいと思ってるんじゃねえ」とたまに言われるけど、タブーをタブーとしているお前らが逆に恥ずかしい、と言いたいんですよ。芸人がみんなサラリーマン過ぎる。日本のテレビに出ている芸人を芸人と呼ぶところから、もしかしたら議論がずれ出しているのかもしれない。

パックン なるほど。

村本 芸人は日本中にいるんですよ。スポットライトが当たらないだけで。沖縄には「お笑い米軍基地」という基地をネタにしてやる人がいるし、あと(元ザ・ニュースペーパーで政治・社会ネタをやる)松元ヒロさんとか。むちゃくちゃ面白いですよ。沖縄でその人たちにスタンダップコメディーやってもらったら、見ている人たちの内からの爆発を感じられる。

パックン 村本さんは、タブーまるまるナシですか。昨日フランス人ジャーナリストに取材したら、フランスでは本当にタブーなしだ、と。例えばフランス人は福島原発事故を題材にして笑いを取る。これはOKですか。

村本 OKなんじゃないですか。笑いを取りたいなら。

パックン 僕が育った頃、黒人に関するジョークは山ほどあった。1つ紹介すると――黒人の少年がベッドの上で跳ねるのを止めるにはどうしたらいいか。答えは、天井にマジックテープを貼る。分かる? 髪がくねくねしているからそこにくっついて、ぶら下がるっていう、ばかばかしいジョークなんですよ。でもこれはアウトですよ。黒人の身体的特徴をネタにするのは2019年にはもう許されない。どうですか、このへんはやっていいですか。

村本 うーん。

パックン 笑っている人がいるかもしれないが、泣いている人がそれを上回る。笑う人の笑いのために、深い傷を受ける人を犠牲にしていいでしょうか。

村本 いい質問ですねぇ......。

カナダのモントリオールでスタンダップをやっている日本人の女の人から、動画が送られてきたんですよ。見てくれって。どういうネタかというと、彼女が「福島は安全です。来てください」「食べ物もおいしいし」って言って頭を触ったら、髪がばっさり抜ける。それでみんなが笑っている。それを見たとき、すごい不快な感じはしたんです。ネットフリックスでデイブ・シャペルが原爆のネタをやっているのを見たときは、僕は日本に住んでいて、長崎の原爆被害に遭っている人とも知り合いなので、やっぱりもやもやした。



「どこかで誰かが不快な思いをしている」

パックン その場で笑った人は、自分の差別意識が強化されることがあると思う。昨日も英語でスタンダップをやっている芸人さんに取材したんですが、日本のお笑いはあまりメッセージがない、海外のお笑いはメッセージを残す、みんなが持って帰るものがないとネタとは言えないと言ってた。

ただ、それが間違ったメッセージである危険性も考えないといけないと思うんですよ。かつてナチス・ドイツのプロパガンダ紙には、ユダヤ人をばかにする風刺画が毎日のように載っていた。確かに笑えるものもあったが、それがホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を助長したとも言える。果たして芸人は無責任でいいのか。

村本 仕事がなくなることを覚悟のうえでの発言かどうかだと、僕は思う。結局、料理人がウサギを使おうが、ウシを使おうが、ブタを使おうが、どこかで、「え、ウサギ使うの?」「ウシ使うの?」と言う人はいると思う。例えば、全世界が見ているチャンネルで芸人がネタをやる。不快だと思ったらボタンを押してくださいとなったら、1秒に1回はボタンが押されると思うんですね。それぐらい......。

パックン どこかで誰かが不快な思いをしている。

村本 例えば交通事故のネタをしたとき、お客さんの中に事故で家族を亡くした人がいるかもしれない。火事のネタもなんかもそう。僕は今、ジャニーズの嵐のネタをやっているんですよ。西日本の豪雨ですぐに被災地に行ったのは松潤(松本潤)。ただ、豪雨の後に嵐が行っちゃダメ、というネタ。みんなウケるけど、「嵐をばかにしてるんですか」とか「被災地の人に失礼です」っていうのが何通か来る。最近は、これはジョークですから、いちいち本気にしないでくださいねって頭に入れるわけですよ。あとはもう、ここは冗談の夢の国なので、傷つくのが怖かったら来ないのがいいんじゃないって。

パックン 僕はちょっと意見が違う。僕らはアーティストで、伝える側として責任はしっかり持たないといけない。その上で、なるべく社会に対する疑問をぶつけていいと思う。それが日本では見られないのは残念。疑問をぶつけてるのは村本さんと厚切りジェイソンくらい。あれは疑問ばっかりなんだけど!

でも答えを出すときは、正しいと思う方向に導く責任がある。その答えが正しくないと社会が思うならその反論にも耳を傾けて、自分のネタを変えなきゃいけないときはある。僕は田舎育ちで、黒人やユダヤ教に対する差別的なジョークを聞いて育った。でも大学でユダヤ教徒の友達ができて、彼らが世界でどれほど差別を受けてきたのか、その歴史を知ったから、そういうジョークは2度と口にしない。一部の人が笑うとしても、言わない責任はある。

ちなみにフランスでは、「できる」ことが前提で、本人がやっていいと判断したらやっていいというが。日本はできないのが前提で、やっていい? と許可を取らないとできないことが多い。



「難しいのは、トレバー・ノアが原爆をいじっているネタ」

村本 確かにテレビの番組で原発のネタをやろうとしたときに、政治部がぴりつくからやめてください、と言われた。

パックン バラエティでしょ?

村本 バラエティだけど、政治部のほうが力が強くて。記者が官邸から「なんてネタをさせているんだ」と言われるから。

パックン 集団責任になっちゃうんですね。

村本 さっきの話に戻ると......(どんなネタが許されるかについて)僕はカウンターパンチは全部ありだと思うんですよね。それってアメリカのお笑いの強いところで、例えば黒人は白人社会に対してカウンターパンチを放つじゃないですか。女性コメディアンは男性社会に対してのカウンターパンチ、トランスジェンダーの芸人は不寛容な社会へのカウンターパンチ、白人なんかは強い政治に対してのカウンターパンチ。ずっと殴られ続けてきた人間はパンチをどんどん繰り出すべきだと思う。

パックン それは当然ありです。

村本 ただ難しいのは、トレバー・ノアがヒロシマ、ナガサキの原爆をいじっているのを見て、僕は許せるんですよね。彼らは面白いと思って言っていて、それは本気に取るものじゃないというのが僕の基準。僕は怒らない。

パックン この点、僕らは共通している。弱者が強者や体制に対して文句を言ったり、コケにしたりするのは風刺です。お笑いです。強者が弱者に対して同じことをすると、いじめになる。原爆のネタについては、日本はもう復興してアメリカも認める強豪国になっているから許されるかもしれない、と思う。

村本 うん。

パックン でもユダヤ教徒はまだ弱い立場だから、ホロコーストはやっちゃいけない。そのルールは、アメリカの芸能界の暗黙の了解になっている。でも死を笑うというのも、われわれ芸人の仕事だと思う。死に対する恐怖心をちょっとイジって、恐怖心を和らげる。

「リベラルは自分と他人の正義が同じと勘違いすることがある」

村本 僕、末期癌の友達がいるんですが、その人は、僕が癌をいじるのがすごい好き。お客さんでも、それを嫌だと言う人はいたことがない。その友達には、伝わるんですって。ばかにしていない笑い。なんか優しいって伝わるんですって......。

これすごい大事な議論なんですが、リベラルの人は自分の正義と他人の正義が同じだと勘違いを起こすことがある。沖縄の芸人がスタンダップをやるというので、共通の友達からビラを送ってもらった。で、僕がツイッターに書いたら、その友達から「やっと勇気を出してスタンダップをやることにしたのに、急に告知をするのはダメだと思う。すぐに削除してください」と言われた。急に公にされたら困る、って。

だから僕はその芸人さんに電話して、「ごめん、告知した」と言ったら、「ありがとう!」と。その友達は相手のことを思いやり過ぎて、完全に見誤った。リベラルの人がやりがちなのは、人のことを思いやり過ぎて、壊しちゃうんですよ。



パックン あるある。

村本 アメリカで1度、アジア人はちんちんが小さいと言われるけど、トヨタの車とか作っているから、11本目の指だと思ったらでかいというネタをやったの。終わった後に、白人のおばちゃんに「ちんちんが小さいことは恥ずかしいことじゃない」と怒られたんですよ。いや、それは冗談だって。リベラル過ぎると、お笑いを聞きにくるのに向いてない。

パックンがさっき言った、「(差別を)助長したらダメだ」という意見には賛成で、だから芸人は歴史なんかをしっかり勉強しないとダメ。

パックン それも賛成。

村本 ただ勉強というのは着地点じゃなくて、通過点。意見を持って、ぶつけて、考える、それが勉強。勉強して、知って、しゃべって、怒られて。勉強して、知って、しゃべって、怒られて。まずは意見を持つことからだと思う。

※前編はこちら:ウーマン村本×パックン「原発や基地をやるきっかけは堀潤さん」

【関連記事】「日本のお笑いって変なの?」をパックンが外国人3人と激論しました
【関連記事】日本人は「政治に興味ない」「専門的に生きている」──外国人のお笑い座談会より


※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。



ニューズウィーク日本版編集部

この記事の関連ニュース