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「下ネタは世界共通。男たちは同じオチで、同じ顔で笑う」早坂隆×パックン

ニューズウィーク日本版 2019年8月9日 19時50分

<ジョーク本の著書がある早坂隆さんと、本誌で「お笑いと国際情勢」に挑んだパックンが対談。ジョークをめぐる議論は、だんだん下ネタが増えていって......>

日本と海外のユーモアには、どんな違いがあるのか。

8月6日発売の「パックンのお笑い国際情勢入門」(8/13&20日号)で、政治ネタに挑んだパックン(パトリック・ハーラン)。取材の一環として、『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)や『世界はジョークで出来ている』(文春新書)などの著書がある早坂隆さんに話を聞いた。

ジョーク文化のあるアメリカで生まれ育ったパックンと、海外でジョークを長年収集してきた早坂さん。2人は比較文化論的なディスカッションの合間合間に、持ちネタのジョークを披露し合った。その対談を前後編に分けて掲載する(この記事は後編)。

※前編はこちら:「日本にも政治風刺はある、強かったのは太平洋戦争のとき」早坂隆×パックン

(※一部の読者が不快に感じるおそれのある刺激的な表現を含みます)

◇ ◇ ◇

パックン なぜ日本のお笑いにはツッコミが必要だと思いますか。

早坂 面白いけれど、難しいテーマですね......。教えてください。

パックン (持参した本を手にして)これは『The Humor Code』という本の著者2人が説いている説です。いろいろなユーモアの原則は何かを調べて、コロラド大学の教授とライターの2人が組んで書いた本で、しかも本の最後で2人がスタンダップコメディーに挑戦する。あちこちに(取材に)行って、僕も取材を受けて本に出ているんですよ。日本のお笑いの特徴を調べるというので。

彼らが説いている説によれば、笑える要素のうち一番大事なのは、ひと言で言うと「害のない侵害(benign violation)」。violationはルール破り、侵害という意味。benignは癌だったら良性の善玉の、とか。「善性侵害」という言い方でもいいかもしれない。

まえがきに書いてあるんですが、例えば、知っている人がくすぐってくると笑うじゃないですか。「やめてよ~」と。でも他人が駐車場で急にくすぐってきたら、笑えない。まったく同じことをされても、怖くてしょうがない。自分に身の危険を感じると笑えない。

もちろん、緊張して笑うこともあるんですが。お葬式とか、面白いじゃないですか。その設定のお笑いもたくさんある。僕の親友でもある林家三平さんがやっているのは、お父様だったか笑点メンバーだったかのお葬式で、お坊さんが「のーんよーん」ってお経を読んでいるときに、孫が落ち着かずうるさい。それで「ぼうず黙れ!」。こういう小話、ジョークっぽいですよね。お葬式という緊張の中で。

早坂 緊張と緩和ですね。

パックン 緊張と緩和は、もともとはフロイトの説なんですけど、この著者2人によれば、とりあえずルール破りが大事、でも信用できる相手とのやり取り(の中で)。例えば独裁者の前ではルーマニア人は絶対にジョークを言えない。安心できる仲間にしか言えない。

早坂 うんうん。



「気遣い合う文化があるから、痛めつけるような空間に過敏」

パックン 取り上げている相手を本当にかわいそうだと思っていたら、笑えないじゃないですか。体制を突き落とすのは、体制が強いから。ちょっとバカにするのも、本当に差別意識が自分にないと思っている人だけしか言えない。だから僕はポーリッシュ系の(民族をネタにした)ジョークは、あまり好きではない。個人を突き落とすのも好きじゃない。でも群馬人はいい。群馬をバカにしても害がないから。あと、マックンがツッコんでくれるから、僕の「害」的な発言の害がその場で解毒される気がするんですよ。

毒性のある発言を正す人がいれば、多少「侵害」的な発言をしても、緩和されるんじゃないかと。特に日本には、忖度文化じゃないけれど、気遣い合う文化があるから、痛めつけるような空間に日本人は過敏なんだと思う。

もしかしたら日本のボケ・ツッコミというのは、ヨーロッパの「道から踏み外せよ」というような社会の多様性につながる効果というよりも、むしろ出ている杭を打つ効果があるのかもしれない。これは、いま思いついたんですが。

先ほど小話の話をしましたが、世界のジョークで、日本の昔からある小話に似ていると思うことはありますか。

早坂 時々ありますね。トルコに、日本の落語に近い感じの小話がたくさんある。よく「ホジャさん」というおじいちゃんが出てくる。

パックン へぇ。バカなキャラクターなんですか。

早坂 バカと言うか、もっと知恵があって、うまいこと言う。

パックン あー、とんち?

早坂 そう、とんち。一休さんです。そのとんち話で、日本で聞いたことあるような話があった。ジョークをいろんな国で集めていると、登場人物は違うけれど、同じだなと思うこともたくさんある。例えば下ネタみたいなものって、世界中どこに行っても同じ。イラクのバグダッドだろうがパレスチナだろうが、ニューヨークの酒場だろうが、同じところの同じオチで、同じ顔をして笑うわけですよ、男たちは。

パックン いい例がありますか。

早坂 下ネタですか!? 大丈夫ですか?

パックン 僕はテレビでは好感度を大事にしているけど、下ネタ大好きなんですよ。

「そのジョーク、ヨルダンで聞いて、設定が米軍兵士になってました」

早坂 えーと、そうですね。

お父さんと娘さんがいる。海水浴に行って、娘さんがビーチを見渡して、お父さんに聞く。「あの男の人たちの水着がふくらんでいるけれど、あの中には何が入っているの?」するとお父さんが「あれはね、笛が入ってるんだよ」とごまかす。それから数日後......。

パックン いやなオチだねぇ、これは!

早坂 娘さんが帰ってきて、お父さんに言う。「お父さん、嘘つき。音なんか鳴らなかったよ」って。

パックン 「吹いても吹いても、出てこないよ」って。

早坂 この手の下ネタって、アメリカでも分かるし、バグダッドのイラク人もげらげら笑うので、そういうのを見ていると、本当に同じ人間だなぁと。



パックン でもこれって、どうですか、日本ではちょっと行き過ぎかもしれない? どうなんですか。もう少しかわいらしい下ネタじゃないと。

早坂 テレビじゃできないですよね。

パックン じゃあ、1つ言っていいですか。

男が砂漠で迷って、死にそうになったときにオアシスを見つける。こういう設定も結構ありますが、ご存じですか。

オアシスには水と果物があって、なんとか食いつなげる。砂漠に出ていくのも怖いし、誰も来ないから、3カ月、4カ月、1年暮らして、男は寂しくなってくる。誰もいないから、1人でも十分ヤッていたけれど、ひとつラクダとヤッてみるかと男は考える。でもラクダは全然協力してくれない。動き回って、全然ヤラせてくれない。

それで男が「うーん」と思っていると、ある日突然、同じように砂漠で迷ってオアシスにたどり着いた美女がいる。男は水と果物をあげて、美女はなんとか命を取り留める。看病して元気になった彼女が「私にとって命の恩人です。恩返しにできることはありますか?」と聞いたら、男は「本当に? じゃあ悪いけど、1つだけお願いしていい? あのラクダを押さえててくれますか?」。

早坂 僕ね、それをヨルダンで聞いて、設定が米軍兵士になってましたよ。確かイラクの砂漠だったかな。

パックン なるほどね。アメリカ人をバカにする設定も足されている。

早坂 中東の反米的な意識も土壌にあって、すーんごいウケてました。

「今の日本で体制を笑うジョークがウケないのは、理由がある」

パックン 素晴らしい。じゃあ、下ネタは万国共通。

それ以外だと、例えば宗教ジョークとかはどうですか。イスラム教徒とかは?

早坂 ありますよ、宗教ジョーク。イスラムの人も宗教ジョークを言うし、好きですね。

アラビア人の学生が大学受験をする。1問だけ、どうしても分からない問題があった。彼は困って、「答えはアラーのみぞ知る」と書いた。後日、合否の発表の手紙が届いた。見てみると「アラーは合格したが、あなたは不合格」。

パックン うまいねぇ。

早坂 僕はイラクに2002年、サダム・フセインの独裁体制だったころに行った。イラク戦争が03年だから、その前年に。その時はヨルダンから陸路で入ったが、国境からずっと役人が左右について自由に動けない。町の人たちも自由に政治的なことを言えるような国ではなかったけれど、それでも移動の車の中で、僕が「フセインのこと、どう思ってるの?」と聞くと、イラク人の役人が「いや、好きだよ」「本当に?」「100%好きだよ。いや、1000%」「本当はどうなの?」......「マイナス!」って言うんですよ。

パックン それ、日本だったら「100点!――1万点中で」とかいうやつ。

早坂 独裁国家だと体制からの圧力が強いので、体制を笑うジョークが出てくる。今の日本で体制を笑うジョークがあまりウケないのは、理由がある。安倍さんに不満がある人はいっぱいいる。多くの人はベストだと思っていなくて、消去法でベターという人が多いと思う。ただ、笑いは圧力や不満に対して生じるものだとすると、今の日本人では、安倍さんや自民党よりも、だらしない野党だったり官僚だったり――最近は「上級国民」なんて言葉も出てきているが――そういう人たちを笑いたいというネタのほうがSNSを見ていると多い。



パックン それもアメリカだったら、ジョークの形にできる感情が多い。例えば、「選挙活動中、安倍さんの再選につながる活動を野党が見せてくれました」みたいな。そういう皮肉ったフレーズがあるとジョークになる。でも日本では、あまりそういうものを聞かない。

早坂 聞かないですね。直接的な悪口の言い合いになりがちなので、そこがちょっとね。もっとユーモアを交えてやればいいのにと思いますけどね。与党でも野党でも、右でも左でも、ユーモアでやればいいなと。

パックン じゃあ、早坂さんも本の前書きに書いていたと思うけれど、ジョークというのは機転がきく頭のよさを見せるポイントでもある。紹介していたのは、ラテン語か何かだったかと思うけれど。

早坂 ヘブライ語ですね。イスラエルで聞いた言葉だったかな。「知的な者ほどよく笑う」という諺。

パックン 面白い人は頭がいい、と。(早坂さんのジョーク集を)読んでいる人も、ジョークを言えるようになりたい、人を笑わせたいと思っている人が多いと思う。何かアドバイスはありますか。

「ジョークを活字で読むときは、助詞1つ、改行1つで変わる」

早坂 今日もいくつかジョークを言いましたけれど、僕は家でジョークなんか言ったことないですし......。

パックン えー、ないんですか⁉ こんなに持ってるのに? 僕は子供相手によく言っている。子供がジョークを聞いてくると、よし、じゃあ、そのパターンで作ろうよと言って、ジョークを作る練習をしてるんですよ。

息子があるジョークを聞いてきたから、2人でお風呂に入りながら「似たようなジョークを作って、お風呂から出たら娘に披露しようよ」と言って。その時に作ったジョークは――

4人の宇宙人が突然、地球に現れた。1日地球を研究しようと、バラバラになった。1人は幼稚園に行って、先生がLittle children, little children「子供たち、子供たち」と呼んでいるのを聞いて「子供たち」という単語を覚えた。2人目は世界中のビールが集まっているバーに行って、「お客さん毎日来てるじゃん」と言われているお客さんが「そうなんだよ、俺は全部飲みたいんだ」I want to drink them all.――これは英語で考えたジョークだけれど――という言葉を覚えた。

3人目はテレビを付けると、料理番組をやっていて「これ全部、ブレンダーに入れるだけです」、ウィ~ンとやっているのを見て覚えた。4人目は舞踏会に行って、正装しているマダムがもう1人のマダムに「わぁ、美しいですねえ」「ありがとう、あなたも」と話しているのを見て「ありがとう、あなたも」を覚えた。

その夜、ある地球人が4人の宇宙人を呼んで、夕食会を開いた。「今日はせっかくのお客様ですから、お好きなものをなんでも、おもてなししたいと思っています。何が食べたいですか」と言うと、1人目が「子供たち、子供たち」と言う。その地球人が「いやいやいや、子供を食べちゃいけないよ」と言うと、2人目が「全部飲みたいです」「いやいや、飲むのもできない!」と言ったら、3人目が「大丈夫、ブレンダーに入れるだけ」「お前ら、ひどい奴だな!」と言うと、「ありがとう、あなたも」。



早坂 素晴らしい教育ですね。学校の授業よりよほど頭の訓練になるし。

僕はいろいろな国でジョークを聞いて、それを日本語に訳すのが仕事になっているんだけれど、翻訳にはすごく気を遣っている。僕のジョーク集以前にもジョーク集は出ていたが、あまり売れていないものが多い。例えば、学者さんが訳したジョーク集が何冊かあったが、僕も昔はその本を読んで、あまり面白いと思わなかった。でもさっき言ったみたいに、ルーマニアとか海外で現地のジョークを聞くと面白い。それはなぜかを考えると、やはり訳が硬いジョーク集が多かったのだと思う。

ジョークを活字にして読むときは、助詞1つ、改行するかしないか――改行が間(ま)になるんだけれど、それ1つで、笑えるか笑えないかが変わると思う。そういうところは気を遣って、日本人の読者が笑えるように書いている。

パックン なるほど。改行とか助詞とかは分かりますが、日本人が笑える単語とか、逆に分からない単語とか。あとは、お下劣すぎると笑えない単語とか。

早坂 そうですね。下ネタはそこが一番難しいですよ。下品になっちゃうと面白くなくなっちゃう。

パックン ペニスと一物、どっちがいいんですか、どっちが笑えない?

早坂 たぶん、ペニスだと校閲に修正を入れられちゃうんじゃない?

パックン あとは何がダメですか。性器は?

早坂 男性器とか女性器とかにしますね。文章の流れで「アレ」とかのほうがいい場合もある。やはり日本の出版業界には使っちゃいけない言葉があるので。

パックン そうなんだ。

早坂 あと、アメリカにもたくさんあると思うが、人食い人種が出てくるジョークが多い。人食いとかも、編集者によっては嫌がったりする。酋長という言葉を嫌がったり。「南の島の酋長」と書くんですけど、それは差別語だとなって、酋長を族長に変える、という校正が入る。まあ、テレビのほうがやれないことは多いと思うが。

「ギリギリのところで笑いをとる。不自由があるからこそ面白い」

パックン さっきの話で思い出したんだけれど、これはマックンから聞いた話。「女性のお尻はhip、女性の胸はbust、では英語であそこは何というか」

早坂 that!

パックン 正解はthereです。みんながvaginaとか思い浮かべるところで、「何言ってるの、あそこはthereだよ」と引っ掛けるやつなんだけど。

さっきの話に戻すと、人種や宗教など、いろいろな立場の人をオチに使うジョークがたくさんあるが、ジョークと差別の関係について。ジョークには危険性もある?

早坂 ありますね。ジョークにはいろいろな縛りがあり、言っちゃいけない、言ったら周りから怒られることもいっぱいある。そのギリギリのところで笑いをとるのがジョーク。不自由があるからこそ面白い。

パックン 線引きはどうする?

早坂 線引きは国によっても違う。例えば日本で、(2017年末に)ダウンタウンの浜田雅功さんが顔を黒塗りして批判された。海外から見たら不謹慎、ダメとなったことがあった。日本人からすると、あー、これもアウトなのかと驚きが大きかった。

日本側の言い分はどうであれ、世界では通らない。世界統一ルールみたいなものは今のところないし、国によって、時代によっても変わるので、難しいところ。でもギリギリを攻めないと面白くならない、というところもある。



パックン 僕の持論は、弱者をバカにするといじめになる、権力者とか強者をバカにすると風刺になる。

早坂 そうですね。そう思います。

この前、テレビを見ていたら、日本のテレビは体制を風刺する笑いが少ないと誰かが言っていた。別の人が、チャプリンの精神を日本人は忘れているんですか、と言っていた。それを聞いて思ったのは、チャーリー・チャプリンの『独裁者』は、イギリス人のチャプリンが敵対するドイツの独裁者であるヒトラーを笑いにしたものなので、今の日本に当てはめるとしたら、日本人の映画作家が習近平とか金正恩を笑う形になる。そこは丁寧に見ないと間違えてしまうと思った。

パックン 確かに、異文化に口を出すときは気を付けないといけない。たぶん、日本のイルカ漁を題材にしたジョークもいろいろあると思うが、それを聞いたら日本人はいい気分がするかというのもある。だからといって、イルカ漁を指摘する言論の1つとしては、禁じるわけにはいかない。そういうジョークが世界に存在することを(日本人も)知っておいたほうがいい。

早坂 その通りだと思う。イルカ漁はまさにそうですし、右でも左でも保守でもリベラルでも、いろいろな議論があって矛盾がある。それでお互いがやり合うときに、特にSNSが発達した今、子供の喧嘩みたいに悪口を言い合うことが多い。そういうのをもっとユーモアを交えてやれたら面白いのに。それが大人の良識だと思う。

パックン よければ最後、とっておきのジョークを1つ、読者にプレゼントしてください。

早坂 じゃあ、たぶんトランプネタ、好きですよね。

パックン 大好き。

早坂 もう知ってると思うんだけど......。

トランプがピザ屋に行って、ピザを1枚買う。ピザ屋の店員が「ピザを6つに切りますか、8つに切りますか」と聞く。トランプが言う。「6つにしてくれ。8つじゃ食べきれないから」

※前編はこちら:「日本にも政治風刺はある、強かったのは太平洋戦争のとき」早坂隆×パックン

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※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。



ニューズウィーク日本版編集部

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