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中国記者暴行で虎の尾を踏んだ香港デモ

ニューズウィーク日本版 2019年8月14日 18時0分

<中国の国営メディアは香港のデモ隊を「テロリスト」と言い切り、西側の手に渡るのを決して看過しない、と宣言した>

中国共産党系の新聞「環球時報」は、中国メディアの記者がデモ隊に拘束され殴られる動画が公開された8月13日、日増しに暴力的になる香港のデモは、香港を北京中央政府から分離独立させる試みだと厳しく断じた。

ネット上で広く共有された動画には、「私は警察を支持する」と叫ぶ男性が、デモ隊に殴られる様子が映っている。香港国際空港で警察とデモ隊が激しく衝突するなか、警察官と疑われ、手足を結束バンドで拘束された。この男性は後に、「環球時報」の付國豪記者と確認された。環球時報の編集長、胡錫進編集長は、付は「報道以外、なんの任務も負っていなかった」とスパイ説を否定し、彼の解放を求めた。



およそ1時間後、胡は警察が付に接触したことを報じ、「記者に対するあらゆる暴力行為を非難する」とツイートした。環球時報は、この事件を詳しく伝える44秒の動画を公開した。動画は次のような言葉で締めくくられている。「そこにいるのは暴徒ではない。テロリストだ! 暴徒が記者にした暴行を、われわれは強く非難する!」

<参考記事>香港デモの行方は天安門事件より不吉、ウイグル化が懸念され始めた

中国国務院香港マカオ事務弁公室も、デモに対する批判を強めている。警官隊に次々と火炎瓶が投げつけられていることも併せて「テロリズムの初期兆候」であると表現した。中国当局と国営メディアはいずれも、香港の治安が悪化しているのは、香港の暴徒だけに責任があるのでなく、外国でデモを支援している者たちも同罪だという。

デモの主旨変わった?

環球時報は、付の事件発生と同じころに公開した論説のなかで、香港で起きていることを「カラー革命」になぞらえた。カラー革命は、独裁政権に民主化を求めるのにしばしば使われる言葉。東欧の反政府運動を指すことが多いが、中東、北アフリカ、アジアの一部でも起きている。

ロシアと中国は、「カラー革命」に対してきわめて批判的だ。こうした「革命」は、ロシアや中国を弱体化させようとする欧米の試みを、民主化という美名で覆い隠しているにすぎないと考えている。両国は、自国内の民主化デモも、アメリカが支援していると非難している。

環球時報は8月13日付けの記事のなかで、香港デモのそもそもの目的は、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案に反対することだったが、今はその目的から反れていると指摘した。デモの目的はいまや、香港政府を「完全に麻痺」させ、国際金融センターとしての香港の地位を失墜させることになっている、と警告する。

<参考記事>香港大規模デモ、問題の「引き渡し条例」とは何か?



「過激なデモ隊は、北京政府に香港の統治をあきらめさせ、普通選挙に同意させ、香港を西側の手に戻すことにある」と、環球時報は書く。「中国政府は、過激な反対勢力と西側諸国が、香港を反中陣営に引き戻そうとするのを絶対に看過しない。香港を長期にわたる混乱に陥れることも許さないし、西側が香港を、中国の政治体制を転覆するための拠点にすることも許さない」と断言した。

香港のデモは、世界を巻き込んだ全面的な危機に発展しつつある。

(翻訳:ガリレオ)


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香港のデモ隊に拘束され、殴られた中国記者




トム・オコナー

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