Infoseek 楽天

電気代に悩む時代が終わる? 卒FITで日本の電力事情はどう変わるか

ニューズウィーク日本版 2019年8月20日 16時10分

<自宅で発電した太陽光の電気を、電力会社に一定価格で買い取ってもらう制度の終了「卒FIT」は、手軽に安く電気を使える時代に転換する契機になるとも期待される>

住宅用太陽光発電の電気を買い取ってもらえる固定価格買取制度(FIT)の対象電源が11月以降順次、買取期間終了の「卒FIT」となるのを前に、終了後の対応メニューを電力大手や新電力が相次いで打ち出している。特に、電機大手が自社の蓄電池を使ってもらうことを条件に、他社より高めの値段で買い取る戦略が目立つ。

自宅にそうした発電設備がない世帯が大半を占める中、「FITは自分に無関係」と考える向きもあるかもしれない。しかし「卒FIT」を契機に今後、電力購入の仕組みや価格が大きく変わる可能性も秘め、手軽に、より安く電気を使える時代が来るとも期待される。

23年までに165万件が卒FIT

「卒FIT」の対象となるのは、2009年11月に導入された「余剰電力買取制度」を初期から利用している家庭。制度開始当初、10キロワット未満の太陽光発電により生じた電気のうち、家で使わなかった分を10年間、1キロワット時当たり48円で大手電力が買い受けてきた。その期限がこのたび切れることとなる。

資源エネルギー庁によれば、19年だけで53万件、200万キロワットの太陽光発電設備が買取期間終了を迎え、20年以降も順次満了となる。09年に制度概要が発表された際、11年度には買取価格が42円に下がるとの見通しが示されたため、48円のうちに申し込もうとする利用者が09年に急増。また、11年3月の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故による再生可能エネルギーへの関心の高まりを背景に、その後も利用は拡大した。

それを受け、19年から23年までに計165万件、670万キロワットが卒FITの対象となる。太陽光発電設備を搭載した住宅は17年度に累積で約238万戸となり、戸建て住宅全体の8%程度となっている。

なお、低炭素社会の実現を目的として始まった余剰電力買取制度は、12年に対象を太陽光から再エネ全般に広げ、固定価格買取制度(FIT; Feed-In Tariff)に移行した。

FITの買取価格は低下傾向にあり、10キロワット未満の太陽光は19年度に1キロワット時当たり24円まで下がっている。今後も年2.7円のペースで下がり続け、24年度には10.3円になると、経済産業省は想定している。

自社製品を条件に高額買取

48円で買い取られてきた1キロワット時の電気が、卒FIT後はいくらに値付けされるのか、利用者らの間で発表が待たれていた。2019年に入り、従来買い取ってきた電力大手が相次いで公表し、1キロワット時当たり7~9円の価格設定を示した。価格面を見れば、太陽光や風力を手掛けるスマートテック(本社:水戸市)が打ち出した、東京、東北両電力のエリアでの11.5円、中部、関西、中国、九州の4電力のエリアで10円という購入額が好条件に映る。



さらに高い価格を提示しているのは、パナソニックとNTT西日本子会社のNTTスマイルエナジー(大阪市)の連合。パナソニック製の蓄電池とNTTの太陽光発電監視システムなどを新たに導入すると、最大で1キロワット時当たり16円で買い取るという。丸紅もシャープ製蓄電池の購入を条件に最大14.6円で購入する。いずれも、自社の売り出し中の蓄電池と組み合わせることにより、高値で電気を買い取るとうたうメニューである。

こうした高額設定は7、8月、立て続けに発表された。11月を前に今後も新たなメニューで卒FIT対象の家庭を取り込もうとする動きが出てきそうだ。

発電コストは低下の一途

ただ、引き続き売電するにしても、1キロワット時48円に比べれば、10円台の買取額は見劣りし、インセンティブは湧きにくい。さらに、その価格での買取が保証される期間も「2年間」などと限定されており、変更はあり得る。買取額は発電コストとの見合いで、基本的に低下していく傾向にある。

そのため、つくった電気を売却するより、自宅用に回そうとする動きも一段と広がっていくと見込まれる。効率的な自家消費には、天候による発電量の多寡や生活パターンに応じた必要量の変化に合わせ、需給を調整できる蓄電池が重要な役割を果たす。

その意味で、上記のパナソニックやシャープのように、蓄電池を組み入れた販売戦略は顧客ニーズを捉え、理に適っているとも言える。2社のほか、東電系と組む京セラは自社製の蓄電池を、住宅側の初期費用ゼロで設置するサービスを4月に始めた。利用者は毎月定額料金をTEPCOホームテック(東京)に支払うが、10年間の契約満了後は、機器が無償譲渡される。

さらに、蓄電池とともに普及が期待できるのがEV(電気自動車)だ。EV自体を「動く蓄電池」と見立てて利用しようとする実証実験も横浜市など各地で進んでいる。

こうした取り組みを経て実用化の道が開ければ、欧米に先行事例がある「VPP」(バーチャル・パワー・プラント)や「P2P」と呼ばれる電力の個人間取引も実現していくと期待される。そのためには、太陽光発電に取り組む住宅の絶対数をさらに増やし、点在する住宅同士を線で結び、面的な広がりをつくり上げていかなければいけない。まさにこれからの課題だ。



(資料:資源総合システム)


経産省の説明資料などにたびたび引き合いに出される資源総合システム(東京)の試算によると、住宅用太陽光の1キロワット時当たりの発電コストは17年実績で既に15円となり、「系統の電気代よりも安い水準に達し」ている。さらに2030年には5.4円の「回避可能原価付近まで下がる」とみている。

日本の電気料金は1キロワット時当たり24円と言われる現在、その調子で発電コストが下がる前提に立てば、電気事業者から買わずに、太陽による自家発電で賄うのも一考の価値があるだろう。家庭の電気代に悩まなくて済むほどに安く調達できる時代は、すぐそこまできているのかもしれない。


南 龍太
「政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。また、流通や交通、電機などの業界、東日本大震災関連の記事を執筆。現在ニューヨークで多様な人種や性、生き方に刺激を受けつつ、移民・外国人、エネルギー、テクノロジー、Futurology(未来学)を中心に取材する主夫。著書に『エネルギー業界大研究』(産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。お問い合わせ先ryuta373rm[at]yahoo.co.jp」



南 龍太(ジャーナリスト)

この記事の関連ニュース