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「よくないね!」フェイスブックが仮想通貨リブラで窮地に

ニューズウィーク日本版 2019年8月20日 17時15分

<議会で集中砲火を浴びたザッカーバーグ、仮想通貨開発に赤信号がともって好感度だだ下がりだが実質的な痛手を受けるのか?>

おめでとう、フェイスブック! 御社は、気候変動にも財政赤字にも所得格差にもできなかったことを成し遂げた。米民主党と共和党を団結させたのだ。

同社のマーク・ザッカーバーグCEOは昨年、米議会の公聴会で10時間も袋だたきに遭った。民主・共和両党の議員たちは先を争って彼を質問攻めにした。ザッカーバーグたたきに続いて、仮想通貨リブラの開発を率いるデービッド・マーカスも議会で血祭りに上げられた。

フェイスブックは今や製薬会社パーデュー・ファーマやウェルズ・ファーゴ銀行との接戦を制し、「大御所」のウォルマートやダウ・ケミカル、マイクロソフト、フィリップ・モリスにも打ち勝って、「最も嫌われる企業」のトップに躍り出ている。

ここで疑問が1つ。で、どうなのか? 消費者に嫌われれば、いや少なくとも信用をなくせば、何か問題がある?

答えはイエス。ただし、大半の人が考える問題とは、ちょっと違うかもしれない。

フェイスブックのマーケティング部門がパニックになっているのは間違いない。マーケティングにとっては信用が全て。いったん失えば取り戻すのは大変だし、不可能な場合もある。

もっともフェイスブックの場合、信用はユーザーが求める大きな要素とは言い難い。手軽さや、簡単に人とつながれることのほうが重要だ。

しかも、消費者は妥協する。その証拠に反マクドナルド派でも、子供がサッカーの練習後に「マックが食べたい」と言えば買い与える。消費者は寛容でもある。ジョンソン・エンド・ジョンソンは少なくとも4回、顧客を殺す会社だと批判された。タイレノール毒物混入事件、タンポン使用によるトキシックショック症候群(TSS)、ベビーパウダーへのアスベスト混入の隠蔽疑惑、そしていま問題になっているオピオイド系鎮痛剤だ。それでも消費者は、同社のベビーシャンプーを購入する。

人材流出が加速する?

会社の信用は、株価にも大した影響を与えない。企業に対する投資家の評価が株価を左右するとは限らないからだ。仮に実質的な価値より株価が下がったら、誰か、というより何か――例えばETF(株価指数連動型上場投資信託)を運用する人工知能(AI)――がすぐに買い注文を入れ、株価は跳ね上がる。



ただし、政府との関係では信用はものをいう。ザッカーバーグを喚問した連邦議会はもとより、州や市の議会もそうだし、フェイスブックが日々折衝している米連邦取引委員会(FTC)、米証券取引委員会(SEC)、内国歳入庁(IRS)などの規制当局もそうだ。

裁判所もそこに加わる。IBMの幹部が以前こう嘆いた。わが社はあまりに多くの訴訟を抱えており、もはや小さなコンピューター部門のある巨大な法律事務所のようになった......。

フェイスブックの信頼性が大きく揺らげば、各国政府との折衝を担当する幹部たちの仕事はますます困難を極め、弁護士やコンサルタントに支払う費用は途方もなく膨らむだろう。

既にそうした事態は起きている。民主党のブラッド・シャーマン下院議員は、リブラは9.11同時多発テロ以上にアメリカを脅かしかねないと議会で発言した。今頃マンハッタンのどこかの会議室で、高額の報酬を取るPRコンサルタントがこの発言を人々の記憶から消し去るアイデアを練っているはずだ。

だがそれ以上に信用と好感度がものをいうのは、人材の確保についてだ。

従業員もこれから入社を希望する人も、会社のイメージを非常に気にする。誰だって自分が勤めている会社の名前を隠さなければならないのは嫌だし、勤務先の評判のせいで子供がいじめられたり、妻が仲間外れにされたりするのは嫌だ。

会社の評判が落ちれば、離職率は上がり、優秀な人材を確保するには給与を上げざるを得なくなる。最悪の場合、どんなに厚遇しても、人材流出が止まらなくなる恐れもある。

フェイスブックの株が明日にも紙くずになる心配はないだろう。だが経営陣は議会で延々と責め立てられ、人材確保に手を焼き、謝罪と釈明に追われる。

本業以外の問題に膨大な時間を取られてしまうのだ。信用を失い、嫌われたツケはいつか必ず回ってくる。

<本誌2019年8月27日号掲載>

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※8月27日号(8月20日発売)は、「香港の出口」特集。終わりの見えないデモと警察の「暴力」――「中国軍介入」以外の結末はないのか。香港版天安門事件となる可能性から、武力鎮圧となったらその後に起こること、習近平直属・武装警察部隊の正体まで。また、デモ隊は暴徒なのか英雄なのかを、デモ現場のルポから描きます。



サム・ヒル

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