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人手不足に悩むポルトガル、減税措置などで自国民の帰国呼びかけ

ニューズウィーク日本版 2019年8月23日 17時15分

<人手不足が深刻なポルトガルでは、他国へ移住した自国民に帰ってくるよう呼びかける「帰国プログラム」が進められている......>

帰国すれば所得税減税、一時金の支払いなど

人手不足が深刻なポルトガルでは、他国へ移住した自国民に帰ってくるよう呼びかけており、減税措置や帰国支援の一時金など、さまざまな優遇措置を用意している。その名も「帰国プログラム」(ポルトガルで「戻る」を意味する「Regressar」)だ。

国際機関「世界経済フォーラム」によると、この帰国プログラムは国を離れて3年以上経っている人が対象だ。帰国すれば5年にわたり所得税が半額に免除されるほか、ポルトガルで就職して帰国する人には、移動に伴うコストの補助金が支払われる。

英エコノミスト誌はこの補助金について、ポルトガルまでの交通費、引っ越し代金、海外で取得した職業資格をポルトガル国内に再登録する際の費用などを対象としたもので、最大で6500ユーロ(約76万円)としている。

経済悪化に伴う国外脱出と高齢化で深刻な人手不足に

米調査機関であるピュー研究所が2016年、国連のデータを使用して行なった分析によると、ポルトガル国外で暮らしているポルトガル人の数は、国民の約20%に当たる231万人に上る。

2010年ごろに始まったユーロ危機の影響で、ポルトガルの失業率は2013年に16.18%に達した(経済協力開発機構(OECD)のデータより)。この時期にポルトガルを脱出した人も多く、世界経済フォーラムはポルトガル政府からの数字として、2011〜2014年の間に年間5万人が国外へ移住したとしている。多くは、他の欧州地域や米国、そして「ルゾフォニア」と呼ばれる、かつてポルトガルの植民地だったポルトガル語圏への移住だ。

また、ポルトガルは高齢化も著しく、2017年に国連が発表した「高齢化予測ランキング」(国民のうち60歳以上が占める割合の高い上位10カ国)では、2017年時点で4位、2050年には3位になると予測されている(ちなみにどちらも1位は日本)。

こうした国民の国外脱出と高齢化が相まり、ポルトガルの人口は2010年以降、30万人以上減少。それに伴い、深刻な労働力不足となっているのだ。現在の失業率は6.99%と日本と比べるとかなり高いように思えるが、それでもポルトガル企業は、なかなか人材が確保できずに苦労しているという。フランスの英字メディア「フランス24」は昨年4月、「ポルトガル企業のCEOの55%が、有資格の従業員を確保するのが最大の難点と考えている」と報じていた。



安全で寛容なポルトガル、マドンナも移住

人材不足を何とか解消しようと、ポルトガルでは「帰国プログラム」に先立ち、「ゴールデン・ビザ」という政策も始めていた。これは雇用を創出する外国人や、50万ユーロ(約6000万円弱)以上の不動産を購入する外国人に発行されるビザで、スキルの高い就労外国人は、税制の優遇措置も受けられる。このビザを活用して、マドンナなどの著名人も現在、ポルトガルに居住地を移したと言われている。

英経済紙フィナンシャル・タイムズは8月9日付の記事で、ポルトガルは欧州連合域内でもっとも安全であり、また人種の多様性に寛容であることからも、移住した外国人は多くが満足していると伝えている。外国人居住者は3年連続で増加しており、昨年は9万3000人以上の増加で、合計50万人近くに達したという。

しかしこうした一連の政策も、それに見合うだけの国内経済がないと意味がない、という手厳しい意見もある。ポルトガル南部の英字メディア「フアルガルベ・デイリー・ニュース」は「帰国プログラム」について、「すでに帰国を決めている人は活用できる」としながらも、このプログラムが理由で母国へ帰ろうとする人はなかなかいないだろうと指摘する。さらに、ポルトガルには給料の良い仕事や適正な仕事が十分ないため、「帰国プログラム」はこれからポルトガルを離れようとする人たちを思いとどまらせる役には立たないと加える。

エコノミスト誌も、ポルトガルの平均年収(2018年)がユーロ圏平均の半分以下となるわずか1万2000ユーロ(約141万円)であることから、ホワイトカラーの人は移住をためらうのではないかと指摘する。同誌はそれでも、アルガルベ・デイリー・ニュースよりは楽観的だ。グーグルやBMWがポルトガル首都のリスボンと北部港湾都市のポルトにそれぞれテクニカル・サポート・センターを立ち上げたため、今後はこうした状況が変わるかもしれない、との展望を述べている。

松丸さとみ

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