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フリーランスの収入で「普通」の生活ができる人はどれだけいるのか

ニューズウィーク日本版 2019年8月28日 16時0分

<低所得、長時間労働に陥りがちなフリーランスの半数近くの収入は時給換算750円未満で、最低賃金にも届かない>

フリーランスという働き方が注目されている。個人で仕事を請け負い、自身の専門知識や技術を活かして生計を立てている人たちだ。フリーは「自由」、ランスは「槍(やり)」を意味し、中世ヨーロッパで様々な君主に仕えていた「自由兵」が語源とされる。

労働者からすれば自由な働き方ができ、企業からすれば高度なスキルを柔軟な形で利用できるメリットがある。これから先、フリーランスはますます増えてくるだろう。ITの普及によって、需要と供給を結び付けることも容易になっている。

気になるのはフリーランスの収入だ。普通の暮らしに足る収入を得られているのか。総務省の『就業構造基本調査』では、就業者の従業地位別の年間所得分布が出ている。フリーランスは「雇人のない業主」に相当する。

フリーランスと言うと、若いライターやデザイナー等を思い浮かべるが、実際のところ半数近くが高齢者だ。年金の足しに家庭菜園をする程度の人が多い。そこで、年間300日・週60時間以上働く人を取り出してみる。これなら、本気でフリーランスをやっている人と言えるだろう。<表1>は正規職員88万人、フリーランス27万人の年間所得の分布だ。



正社員、フリーランスとも所得300万円台が最も多い。年300日・週60時間以上働いてこれかと驚くが、フリーランスは低所得層が多い。4割が200万未満、2割が100万未満となっている。

フリーランスの場合、報酬は1つの仕事あたりで、費やした時間(労働時間)は考慮されない。残業代という概念もない。オンとオフの境界が曖昧で、労働時間も際限なく長くなりがちだが、もらえる対価は仕事あたりだ。長時間労働者に絞っても、上記のような結果になるのは分からないでもない。



データは省くが、フリーランスの就業時間は正社員より長い。それでいて収入は少ないのだから、労働時間あたりの時間給にすると相当に過酷な数値が出てくるだろう。

「年間就業日数×週間就業時間×年間所得」のクロス表から、時間給の分布を割り出してみる。「年間250~299日、週43~45時間就業、所得400万円台」の労働者は、それぞれの条件の中央値を使って「年間275日、週44時間(日8.8時間)就業、所得450万円」とみなす。この場合、時間給は450万円/(8.8時間×275日)=1860円となる。このやり方で労働者の時間給を出し、16の階級に割り振った。



目を疑うようなデータだ。フリーランスは時給500円未満が31.2%と最も多く、44.8%が時給750円未満で最低賃金を割っている。しかし勤め人ではないので、法律による庇護はない。

最近称賛されることの多いフリーランスだが、現実は非常に厳しい。低収入で労働時間も際限がなく、時間給の分布にすると<表2>の通りだ。身体を壊しても何の保障もなく自己責任で、国民健康保険や年金等の支払いも重い負担となっている。

一定以上の仕事を発注している企業は、フリーランスの社会保険の一部を負担する、ないしは年間賞与(ボーナス)を支給する――こういうシステムが検討されてもいい。企業は、フリーランスの人たちの努力や才能に依存して事業を行っているのだから。最近は、フリーランスにベーシックインカムを支給するという発想も出てきている。

超高齢化、情報化社会では、フリーランス的な働き方を欲する人が増え、その需要も高まる。当然、フリーランスの生活保障も必要になるが、その必要性がきわめて高いことは今回のデータから明らかだ。

<資料:総務省『就業構造基本調査』(2017年)>








舞田敏彦(教育社会学者)

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