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「テーザー銃をください」英警察組織が内相に直談判

ニューズウィーク日本版 2019年9月2日 18時10分

ナイフを使った犯罪が増加中

英国ではここ数年、ナイフを使った犯罪が多発している。米CNNによると、もっとも多発している地域は首都のロンドンだが、この問題は全国に広がっている。昨年、英国全土でナイフなど鋭利な刃物を使用した犯罪は4万577件あり、2011年と比較して1万件以上増加したという。

こうした状況を受け、7月に首相に就任したボリス・ジョンソンはこのほど、警察の職務質問能力を強化することで、ナイフ犯罪に対抗する考えを明らかにした。

英タブロイド紙メール・オン・サンデー(8月10日付)に寄稿したボリス首相は、ナイフ犯罪が1946年以降もっとも高くなっている現状に触れ、「国民ではなく犯罪者が恐れる」社会にしたいとの考えを綴った。そのためボリス政権では、警察官の数を全体で2万人増強すること、上司の許可なく職務質問を実行できる警官の数を8000人増やして、職務質問能力を強化すること、といった計画を説明した。

全国初、前線では全員テーザー銃を携帯の地域も

とはいえ、英国の警官は基本的に、一部の特殊部隊を除き銃を携帯しない「丸腰」だ。そのため、このままでは増え続けるナイフ犯罪に太刀打ちできない、としてイングランド中央部に位置するノーザンプトンシャーの警察組織はこのほど、英国の警察組織として初めて、前線で任務に当たる警官全員がテーザー銃を携帯できることになったと、同組織の公式ウェブサイトで発表した。発表文によると、ノーサンプトンシャーではここ2年で、警官に対する攻撃が50%増加している。

ノーサンプトンシャー警察では、前線で任務に当たる警官がテーザー銃の携帯を希望する場合、銃を扱うトレーニングを受けることになる。1人あたりの研修コストは600ポンド(約7万8000円)だ。同警察は、このコストは「安くはない」としながらも、警官が負傷を負うことを考えたり、そうした怪我で任務から離れる日数を考慮したりすれば、この金額は「大したことではない」としている。希望する警官全員の手にテーザー銃が渡るまでは、1年半ほどかかると見られている。

英インディペンデント紙によると、イングランドとウェールズの警察官の職員組合である「イングランドおよびウェールズ警察連盟」(PFEW)もノーサンプトンシャー警察にならいテーザー銃を携帯できるよう、プリティ・パテル内相に直談判したという。PFEWのジョン・アプター会長は同紙に対し、(警察官が自分の身に)「何かあったら、応援部隊が到着するまで最短で20〜30分かかる」と説明。「テーザー銃は命を救うものだ。この議論をするために悲劇は必要ないはずだ」と述べた。



テーザー銃使用での死亡例は過去に18件

ただし、2017年に本サイトで伝えたように、英国の警察官が丸腰なのには伝統や歴史だけでない、地元住民との関係を良いものに保ちたいという意図もある。そのため、今回のテーザー銃携帯の動きに対しては、地元住民との信頼関係を損なうことを危惧する声も上がっているとインディペンデントは伝えている。

また他にも、テーザー銃の使用が死亡などを含む事故につながる恐れもあるために懸念を抱く向きもあるようだ。英国のアムネスティ・インターナショナルの統計によると、英国で警官のテーザー銃発砲により死亡したケースはこれまで18件ある。また、インディペンデントによると今年2月には、ウェールズで警官がテーザー銃を奪われ、自分のテーザー銃で胸を撃たれた事件もあった。あからさまにテーザー銃を携帯している警官は、攻撃される可能性が高いという研究もある。

英国内務省が昨年12月に発表した警察の統計によると、2017〜2018年に警官がテーザー銃を使用したケースは1万7100件で、それまでの年間1万件前後から急増している。このほとんどが、銃の使用により容疑者逮捕につながったという。統計ではまた、警官がテーザー銃を使用した際、85%は発砲せずに済んだとしている。



The police forces planning on arming frontline officers with Tasers | 5 News


松丸さとみ

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