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日本の若者にとって気候変動よりも「セクシー」な問題とは - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2019年9月24日 17時20分

<気候変動対策を求める欧米の運動は若者が中心になっているが、日本の若者が直面しているのはさらに差し迫った問題>

小泉進次郎環境相が、国連温暖化サミット出席のためにニューヨークに出張したところ、「気候変動問題はセクシーに」という発言をしたとして問題になっています。この発言ですが、この「セクシー」という部分については、特に問題はないと思います。

ニュアンスとしてピタッと決まった表現とは思いませんが、カジュアルな表現として許容範囲ですし、そもそもこの「セクシー」という言い方は、クリスティーナ・フィゲレス氏というコスタリカの外交官が使った表現であったそうで、小泉大臣は引用したに過ぎないのです。

ちなみに、このフィゲレス氏というのは、パリ協定をまとめた国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の前事務局長ですから、今回の国連気候変動サミットの中心人物の1人です。そのフィゲレス氏と懇意にして意見交換をしていたということ自体、小泉環境相としては有意義な外交を展開しているとも言えます。

一方で、ニューヨークに着くなり「高級ステーキ店」に行ったというのですが、こちらは少々いただけません。というのは、アメリカの若い世代で環境問題に敏感な層からは「アメリカの畜産業における排出ガス削減」が必要という議論があり、そのリーダー格であるアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(通称AOC)のまとめた「グリーン・ニューディール」法案では、米国人の牛肉摂取を削減すべきという提言がされているからです。

もっとも、AOCという人は「民主的な社会主義者」であることを自他共に認めており、自由民主党の党是とは相容れないことから、小泉大臣としては別に気にしなかったのか、あるいは対抗したのかもしれません。

問題は、「セクシー」という言葉とか「ステーキ店」とかではありません。この「セクシー」という表現が飛び出した文脈、そこには大きな問題があります。

小泉大臣は「(気候変動問題の)カギを握るのは若い人」だとした上で「彼らを勇気付け動かすには楽しくなければならない」と述べています。つまり「若い人が積極的ではないので、その若い人を動かすには問題をファン(楽しく)でクール、あるいはセクシーなものにしなければならない」としているわけです。

これは大きな問題です。



確かに、今回の気候変動サミットでは、欧米を中心とした若者の動きが目立っています。サミットのキーノートとなるメッセージを発信しているのは、16歳のスゥエーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんですし、アメリカ政界における環境問題では、29歳のAOCが先頭を走っていると言っても過言ではありません。その一方で、日本では若者の動きがあまり見られないのは事実です。

では、日本の若者は「気候変動問題に取り組むのが楽しくない」から環境問題に無関心なのかというと、違うと思います。また、若者が保守化しているからという説明も誤りだと思います。18歳未満の選挙運動が犯罪だという制度や、ブラック校則のある中ではグレタさんのように「温暖化への抗議スト」などできないという制度の遅れの問題もありますが、それも主要な原因ではありません。

日本の若者にとって温暖化の問題が今ひとつ切実ではないのは、温暖化によって自分たちの未来が奪われる速度よりも、日本の経済衰退によって自分たちが不幸になるスピードの方が速い、そのような危機意識の中で自分を守るのに精一杯だからです。

小泉進次郎という政治家は、少なくともそうした「衰退を直視」しつつ「衰退を跳ね返すための改革が必要」という危機意識をメッセージとして訴えてきた政治家として、自民党内でも異色の存在であったはずです。それなのに、今回の「若者を勇気付けるにはセクシーでなくては」という発言が出たことが、非常に残念でなりません。






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