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トランプ弾劾調査の引き金になった「ウクライナ疑惑」のすべて

ニューズウィーク日本版 2019年9月25日 18時0分

<ウクライナ大統領に対してトランプが政敵のジョー・バイデンの捜査を要請していたことが内部告発で明らかに。アメリカの軍事支援と引き換えの要求であれば、弾劾しかない大問題>

ドナルド・トランプ大統領は9月22日、今年7月に行われたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談のなかで、2020年大統領選挙の民主党候補ジョー・バイデン前副大統領に対する汚職の告発を促したことを認めた。

トランプは電話の内容は大半が5月に大統領に就任したゼレンスキーを祝う言葉だが、バイデンの「腐敗」についても話したことは認めた。「バイデンやその息子のようなアメリカ人に、ウクライナの汚職に手を染めてほしくないという内容がほとんど」だったという。

<参考記事>ロシア疑惑の捜査が「終結」しても、復讐に燃えるトランプ

アメリカから軍事援助を求めている外国政府のリーダーと、自分の政敵に対する捜査について議論したトランプの電話会談が行われたのは7月25日。ロシアとトランプが共謀して2016年の大統領選挙の結果に影響を与えた可能性についてロバート・ムラー元特別検察官が議会で証言した次の日だった。

ウクライナゲートが発生した経緯について知っておくべきことを以下に紹介しよう。

バイデンとウクライナの関係

ジョー・バイデンの息子ハンターは、2014年にウクライナの天然ガス会社ブリスマの理事に就任した。父親はアメリカの副大統領であり、ウクライナ政策に関与していたため、利益相反の可能性があった。バイデンには副大統領在職中の2016年、ブリスマ所有者の不正関与疑惑を捜査していたビクトール・ショーキン検察総長の解任をウクライナ政府に働きかけたという疑惑がある。

ウクライナがショーキンを更迭せず、他の腐敗防止の要求に応じなかった場合、アメリカによる10億ドルの保証付き融資を差し控えるとバイデンは脅した。

<参考記事>米大統領選、バイデン出馬で身構えるトランプ

トランプ政権はバイデンが自分の息子を守るために副大統領の地位を利用してウクライナに圧力をかけたと声高に主張してきたが、バイデンはハンターの事業についてハンターと話したことはないと言う。

ショーキンの検察総長在職中、オバマ政権と西側諸国は、ショーキンこそが汚職捜査を妨害していると信じていた。ウクライナの検察当局は今年5月、バイデン親子が不正行為とは一切関係ないことを発表している。



8月になって、米情報機関当局者からトランプが外国の首脳と連絡をとり、ある「約束」をしたという内部告発が提出された。ニューヨーク・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナルはどちらも、この告発はウクライナと関係があると主張した。ウォール・ストリート・ジャーナルはまた、トランプはゼレンスキーにハンター・バイデンを調査するよう、少なくとも8回は要請したと報じた。

情報諸機関を統括する監察総監はトランプによって任命された人物だが、内部告発者の報告は「緊急の懸念と信頼できる」ものであり、「国家情報長官のアメリカ国民に対する責任のなかで最も重要かつ重大なものの1つに関連する」と述べている。

焦点は電話会談の中身

下院民主党はトランプとゼレンスキーの電話会談の内容を検討し、トランプがゼレンスキーに、2020年大統領選挙の民主党有力候補ジョー・バイデンに対する汚職容疑を調査することで、ウクライナのイメージを改善できると語ったと主張している。

この電話会談の翌日、ウクライナの米国特別代表カート・フォルカー大使は、ゼレンスキーと会談した。その後まもなく、トランプ個人の顧問弁護士を務めているルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長は、スペインでゼレンスキーの補佐官アンドリー・ヤーマクと会い、両国の大統領の会談について話し合った。

ウクライナについて知るべきこと

ウクライナの現大統領は元コメディアンだ。人気のテレビ番組で突然大統領に選出される歴史教師の役を演じた後、彼自身が突然大統領に選出された。

一方、ウクライナは、はるかに大きな隣国であるロシアとまだ対立しているため、地政学的には不安な位置にある。 ロシアは2014年にウクライナの一部だったクリミアを強引に併合した。アメリカは主に、ウクライナの自衛努力を支援し、米議会は親ロシア分離主義者との戦いの資金として2億5000万ドルの資金提供を承認している。

ジュリアーニの証言

ジュリアーニは、バイデンと彼の家族がウクライナでの「贈収、強要、マネーロンダリング、詐欺」に関係したと信じており、そのことを何度かツイートしている。

だが、先週CNNに出演した際に、バイデン親子の調査についてウクライナの政府関係者を訪問し、話をしたことを初めて認めた。「もちろん、やった」とジュリアーニは言ったが、事前にその計画をトランプに伝えてはいなかったという。「自分だけの考えでやったことだ」とジュリアーニは言った。「トランプには後で話した」



トランプ政権の反応

トランプは記者団に対し、自分は何も悪いことや違法なことはしていないと語ったが、ホワイトハウスはこの電話会議の議事録の提出に前向きではない。

ウクライナ側の電話内容の記録では、「ウクライナの新政府は、アメリカとの関係を阻害してきた腐敗事件の調査を速やかに完結させれば、アメリカのウクライナに対するイメージを迅速に改善することができるとドナルド・トランプは確信する」となっている。

23日の朝、電話について再度尋ねられたトランプは話をそらした。「ウクライナの大統領との電話会談はすばらしかった。それは誰もが知っていることだ。あとは民主党の魔女狩りにすぎない。同じことの繰り返しだ。ロシア疑惑で失敗し、景気回復に失敗し、すべてのことで失敗した」と、言った。

「問題を抱えているのはバイデンだ。バイデンがやったことを見ればわかる。バイデンは私にやらせたかったことをやったが、ひとつ問題があった。私はやらなかったということだ。バイデンがやったことも、彼の息子がやったことも恥さらしだ」

繰り返すが、バイデンとその息子が不正行為を行った証拠はない。

民主党の反応

彼らの心にあるのはたった一つの言葉──弾劾だ。

ナンシー・ペロシ米下院議長は24日、下院がトランプの正式な弾劾調査を開始すると発表した。

米下院情報特別委員会のアダム・シフ委員長も、ウクライナゲートの発覚で、気持ちが弾劾に傾いた、と語った。「トランプは、(ウクライナに電話する数日前に)ウクライナへの軍事支援を一時停止していた。もしそれが、ウクライナの大統領に、自分の政敵を陥れるための違法な何かをさせるための威嚇だったとしたら、その悪事に値する薬は弾劾だけだろう」

(翻訳:栗原紀子)


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ニコール・グッドカインド

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