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トランプがウクライナ大統領に調査を依頼したもう1つの会社クラウドストライクとは

ニューズウィーク日本版 2019年9月26日 17時25分

<ヒントは、6月にIPOしたばかりの米サイバーセキュリティー会社>

ホワイトハウスは9月25日、ドナルド・トランプ米大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が7月25日に行った電話協議の通話記録を公表した。

今や米下院の弾劾調査の対象になったトランプは、米情報機関員からの内部告発どおり、ジョー・バイデン前副大統領の息子が役員を務めていたウクライナのガス会社に関する調査を依頼していた。

<参考記事>トランプ弾劾調査の引き金になった「ウクライナ疑惑」のすべて

それだけではない。通話記録によるとトランプは、サイバーセキュリティーが専門のクラウドストライクという米企業についても徹底的に探ってほしいと要請していた。

その名を聞いても多くのアメリカ人が「いったい何の会社?」と首を傾げるだろう。だが同社は、トランプのロシア疑惑で重要な役割を果たした会社だ。

クラウドストライクはカリフォルニア州サニーベールに本社を置き、今年6月にIPO(新規株式公開)を行なった。公式ホームページによると、同社が提供するソフト「ファルコン」は、「クラウド配布の統合された技術一式を通じ、あらゆるタイプの攻撃を防ぎ、侵入を阻止する」ために設計されたプラットフォームだと謳っている。

オバマ前政権との関係を疑う

トランプは電話でクラウドストライクに言及し、ゼレンスキーにこう頼んだ。

「ウクライナとの関連でこの状況について、何があったのか調べてほしい。彼らによるとクラウドストライク......貴国の富裕層の1人がいると思うのだが......そのサーバーは、ウクライナにあるという」

ホワイトハウスによると、通話は音声認識ソフトで記録されたもので、聞き取れない部分や大統領が言い淀んだ部分もある。

<参考記事>ロシア系ハッカー集団、マルウエアでウクライナ部隊追跡か=報告

クラウドストライクは、2016年の大統領選に向けた選挙戦中に民主党全国委員会(DNC)のサーバーがハッキングされた際、被害を検証した会社だ。トランプはずっと、FBIではなく一民間企業がサーバーの検証を行ったことを疑問視し、オバマ前政権との関係を疑ってきた。クラウドストライクの検証結果は、ロシアのハッカー集団に侵入されたというDNCの主張を裏付けるものだった。

トランプは2017年7月22日にこうツイートしている。「DNCはなぜ、サーバーをFBIに調べさせず、いまだにFBIの調査を拒んでいるのか。これはすべて選挙に負けたことの言い訳にするためで、民主党の大々的なペテンだ」



クラウドストライクの広報担当イリナ・カシオラは25日、自社の検証結果とFBIへの報告に問題はないと断言する。

「法科学的な証拠と分析はすべてFBIに提供した。以前にも述べたように、わが社の検証結果は米情報機関に完全に支持されており、わが社はその内容に自信を持っている」

ニューヨーク・タイムズによると、共和党全国下院委員会もサーバーへの不正侵入についてクラウドストライクに調査を依頼したことがあるという。

どうやらトランプは、DNCへのサイバー攻撃はヒラリー・クリントンとつながりがあるウクライナの資産家が仕組んだ陰謀で、ロシア政府が米大統領選に介入したように見せかけた、と主張したいらしい。

通話記録が公開されたのは、民主党のナンシー・ペロシ下院議長がトランプの弾劾に関する調査の開始を表明した翌日の9月25日だ。弾劾調査では、2020年の大統領選に向けた民主党の有力候補の1人バイデンに絡み、トランプがゼレスキーに調査を依頼し、軍事援助を一時停止して圧力をかけたかどうかが焦点になる。

通話記録の公開で注目を浴びたクラウドストライクの株価は一時、約2%低下したが、終値は0.8%高で引けた。


※10月1日号(9月25日発売)は、「2020 サバイバル日本戦略」特集。トランプ、プーチン、習近平、文在寅、金正恩......。世界は悪意と謀略だらけ。「カモネギ」日本が、仁義なき国際社会を生き抜くために知っておくべき7つのトリセツを提案する国際情勢特集です。河東哲夫(外交アナリスト)、シーラ・スミス(米外交問題評議会・日本研究員)、阿南友亮(東北大学法学研究科教授)、宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)らが寄稿。



スコット・マクドナルド

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