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シンガポールの危険な「フェイクニュース防止法」

ニューズウィーク日本版 2019年10月2日 17時45分

<「中国と大差ない」と言われる言論規制が、ネット空間に広がることになった>

シンガポールで国民を「フェイクニュース」から守ることを目的とする新たな法律が10月2日に発効したが、この法律は実際には言論の自由を抑圧し、政府に不当な権限を与えるものだとして、一部から警戒する声が上がっている。

東南アジアの都市国家シンガポールが制定したこの法律には、その目的について以下のように書かれている。「事実に関する誤った言説が電子的に掲載されるのを防止し、またこうした誤報が拡散されるのを食い止め、こうした情報操作のためにオンラインアカウントが使われるのを防ぐ手段を講じる」。

同法は、シンガポール国内における一定の条件に該当する言説の流布を禁じている。政府が虚偽と認定したもの、および、同国の安全保障に脅威を与える恐れや、公共の福祉を脅かす恐れがあり、「多様な人々で構成される集団間の敵意や憎悪、あるいは悪意の感情をあおる」と判断された言説がこれにあたる。

さらに、シンガポールにおいて、選挙の結果に影響を与える可能性がある、あるいは、政府の職務執行能力に対する国民の信頼を損なうおそれのある、誤った情報の拡散も禁止している。

「虚偽の情報を広めるアカウント」は閉鎖

この法律のもとでは、フェイスブックやツイッターを含むソーシャルメディア・プラットフォーム上のオンラインニュースメディアに関しても、シンガポール政府が事実ではないと認定したコンテンツについては訂正を掲載し、当該コンテンツを削除する義務が生じると、ロイター通信は伝える。

さらに、シンガポール発行の新聞、ザ・ストレーツ・タイムズによると、同法は政府に対して、「虚偽の情報を広めるアカウント」をブロックするようテクノロジー系企業に命じる権限を与えているという。

また、あるコンテンツが虚偽あるいは「フェイクニュース」であると示すのは政府の権限であり、虚偽の言説を広めたとして告発された者ではないとしてする。

虚偽の情報を悪意で共有したと認定されれば、その人物は最高で10万シンガポールドル(約780万円)の罰金か最長10年の禁錮、あるいはその両方を受ける可能性がある。虚偽の情報拡散に企業あるいは複数の人物が関わっていた場合は、罰金の最高額は100万シンガポールドル(約7800万円)に跳ね上がる。

一部の人権団体や弁護士は、シンガポール国民が政府を批判する権利を侵害するものだとして、成立時からこの法律を非難していた。

<参考記事>日本が低迷する「報道の自由度ランキング」への違和感
<参考記事>メディアへの信頼度が高いだけに世論誘導されやすい日本




国際的な人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチでアジア局長代理を務めるフィル・ロバートソンは、英紙ガーディアンにこう指摘した。「この法律はインターネットの自由を萎縮させるもので、その余波は東南アジア全域に及ぶだろう。さらに、自らが考える狭量な『真実』をより広い世界に対して押しつけることで、新たな情報弾圧に火をつける恐れがある」

世界各国の裁判官、弁護士、法学者で構成され、世界各地の人権侵害に警鐘を鳴らすNGO、国際法律家委員会(ICJ)も、この新法は政府による権力乱用を容認するものとの見解だ。

シンガポールには以前から、一部で厳し過ぎると言われる書籍を対象とした「ジャーナリズム法」がある。国際NPO、国境なき記者団の「世界報道自由度ランキング」でも、シンガポールの順位は、全180カ国・地域中で151位と低い。

国境なき記者団のウェブサイトでは、シンガポールの現状について「報道の自由の抑圧度は中国と大差ない」とある。「当局は記者たちに、政府を非難する記事を削除せず、規則に従わない場合は、最長20年の懲役刑になる可能性もあると、脅す内容のメールを送り始めている」

シンガポールの与党、人民行動党(PAP)は、この新法の必要性を強調する。「世界の金融ハブで、さまざまな民族や宗教が共存し、インターネットが広く普及した社会」というシンガポールの状況を挙げた。

(翻訳:ガリレオ)


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ハンター・モイラー

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