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トランプ弾劾に立ちはだかる上院「3分の2」の壁

ニューズウィーク日本版 2019年10月2日 20時0分

<共和党優勢の上院でトランプの罷免が可決する見通しは極めて低いが......>

9月24日、米民主党のナンシー・ペロシ下院議長は、ドナルド・トランプ米大統領に関する正式な弾劾調査を開始すると発表。2020年米大統領選の民主党有力候補と目されるジョー・バイデン前副大統領と息子について調査するよう、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に圧力をかけたという疑惑が浮上したのを受けての動きだ。翌25日にはトランプとゼレンスキーの電話会談の記録が公表され、この動きに拍車を掛けた。

では今後、弾劾手続きは具体的にどう進むのか。

手続きの始まりは?

1974年のリチャード・ニクソンや1998年のビル・クリントンの弾劾手続きは議会の弾劾決議を受けて始まったが、ペロシによれば今回は違う。既に下院委員会レベルでトランプに関する調査が進行中で、ペロシは6つの委員会(司法、情報、歳入、金融、監視、外交)に対し、「弾劾に向けた調査の一環として」調査を進めるよう指示したという。

このやり方が今後大きく変わることはなさそうだ。弾劾問題を委員会レベルにとどめることによって、銃規制強化など他の重要法案が議会を通過しやすくなる、というのがペロシの狙いなのかもしれない。民主党のジェロルド・ナドラー下院司法委員会委員長によれば、同委員会が進めているのは事実上の弾劾調査だという。

ともあれ名実共に弾劾調査になって、トランプ政権は議会による記録文書の閲覧や証人喚問を拒否しづらくなるはずだ。

起訴内容を検討

各委員会は調査終了後、弾劾条項(刑事裁判における起訴に相当)の内容について提案する。それに基づいて司法委員会が正式な条項を起草し、下院に提出するかどうか採決を行う。条項が承認された場合は、下院の単純過半数の賛成票をもって承認される。

下院は弾劾に踏み切る?

答えはイエスだ。下院(定数435)は現在、民主党235議席に対し共和党198議席で民主党が過半数を占める。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、24日時点で弾劾に賛成と答えた下院議員は203人、反対または未定が88人、144人が未回答。弾劾条項可決には下院の単純過半数の承認さえあればよく、「未定」と「未回答」から15人が賛成に回れば成立となる。

その場合トランプの選択肢は2つ。ニクソンのように裁判開始前に辞職するか、クリントンのように弾劾裁判に臨むかだ。



上院では? 

下院での弾劾条項可決後、上院は正式な弾劾裁判を開始。弾劾だけでも大統領にとっては経歴上永遠の汚点となるが、引き続き大統領の座にとどまることはできる。上院では共和党が過半数を占め、共和党のミッチ・マコネルが院内総務を務めている。そのためトランプを罷免する見込みは極めて薄い。さらに審議することなく訴追自体を却下する可能性は非常に高く、弾劾裁判すら行わないかもしれない。

弾劾裁判が行われる場合は、下院代表議員が検察官、上院議員全員が陪審員となり、ジョン・ロバーツ最高裁判所長官が裁判長を務める。

上院は現在、定数100で、共和党53議席、民主党45議席、無所属2議席。大統領に対する有罪判決と罷免に必要な3分の2(67票)以上の賛成票を獲得するには共和党議員20人が造反する必要があるが、その可能性は極めて低い。

具体的な日程は? 

下院司法委のナドラー委員長によれば、下院は12月の会期末までに全て完了したい構えだ。ペロシは明確な日程は示さなかったが、万事「迅速に」進めると語った。

<本誌2019年10月8日号掲載>

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ニコール・ストーン・グッドカインド

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