Infoseek 楽天

ウクライナ軍、「数週間内に反転攻勢のブレイクスルーがある」──元米欧州軍司令官

ニューズウィーク日本版 2023年8月31日 19時56分

<大地がぬかるむ秋と凍結する冬を前に、ウクライナ軍は決定的な突破口を切り開けると予想>

<動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部隊がロシア軍の塹壕に突入

ウクライナ軍の反転攻勢はウクライナ南部でじわじわと進んでいるが、いまだにゼレンスキー政権が望む決定的な前進、つまり軍の士気を一気に高めた昨年9月のハルキウ奪還のようなブレイクスルーは実現していない。

このままでは、はかばかしい戦果を挙げられないまま、秋雨により大地がぬかるみ、さらには冬季の凍結で攻勢が阻まれる季節に突入しかねない。だが米欧州軍司令官を務めたベン・ホッジス元米陸軍中将はそれまでにウクライナ軍が大きな突破口を切り開く可能性があると、本誌に語った。

「今の感触では数週間以内に(ハルキウ並みの)ブレイクスルーがありそうだ」

ウクライナ政府は軍が反攻に手間取っている理由として、地雷原や塹壕などの強固な防御を慎重に避けながらロシアの戦力を削がなければならないためだと、以前本誌に説明したが、この戦術の正しさがこれから証明される可能性があると、ホッジスは言う。

数カ所突破で戦況が激変

ロシア軍は1500キロに及ぶ戦線の全域に地雷を敷設しているが、「それを全て突破する必要はない」と、ホッジスは言う。「2、3カ所か、多くても4カ所貫通できればいい。それだけで戦況はがらりと変わり、はるかにダイナミックな攻勢が可能になる」

本誌はこの見解についてロシア国防省にメールでコメントを求めている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、反転攻勢の進捗が「期待したより遅い」ことを認めた。西側諸国はウクライナに成果を出すよう圧力をかけ、今年に入って各国が行なったような大量の武器供与を来年も繰り返すのは難しいと警告している。

NATOの軍事的支援の強化を求めるウクライナに以前から理解を示してきたホッジスは、西側諸国に辛抱強く待つよう呼びかけている。

「情報を守る点では、ウクライナ人は私の知る誰よりもよくやっている。いわゆるオプセク、つまり作戦上の情報セキュリティに関しては規律が徹底している。何が起きているのか、誰が何をしているのか、それぞれの部隊がどういう状況にあるのか、われわれは知らないし、知る資格もない」

つまり、誰もが限られた不確かな情報に基づいて結論を出しているわけだ。

米国防総省内では、東部から南部まで前線沿いの複数地点に兵力を分散して攻撃を始めたウクライナ軍の戦術が間違いだったという批判も聞かれる。ウクライナ軍は、激戦地となったドネツク州のバフムト、ザポリージャ州とドネツク州にまたがるウロジャインとスタロマイオルスケ地域、ザポリージャ州のロボティネ村などで前線突破を試みてきた。

大きな進展もあった。ウクライナ政府の発表によると8月28日、ウクライナ軍はロボティネ村の奪還に成功した。ロシアの地雷原を超え、さらに南の要衝トクマクへに進軍する突破口を開いたのだ。

こうした攻撃はいずれも一定の戦果を挙げてきたが、いまだに決定的な突破口は切り開かれていない。反転攻勢の究極的な目標は、ウクライナ南部のロシアの支配地域に延びる、クリミア半島とロシア西部を結ぶ「陸の回廊」を断ち切ることだ。作戦の進捗が遅れているため、秋までにこの目標を達成することは望めないとの悲観論も浮上している。

成功率を上げるため、攻撃地点を1つに絞り、兵力と兵器をそこに集中するよう、米高官がウクライナ政府に求めたと、ニューヨーク・タイムズが今月伝えた。ホッジスによると、こうした提案は「全くもってナンセンス」だ。「ペンタゴンの批判には心底うんざりしている」

第2次世界大戦中にドワイト・アイゼンハワー将軍がノルマンディー上陸作戦を命じたときに、「ペンタゴンの『天才戦術家たち』がいなかったのは幸いだった」と、ホッジスは皮肉る。

公式には理解を示す米政府

ホッジスはさらに、ウクライナ軍が反転攻勢の開始後2カ月を掛けて、ロシア軍の航空戦力に決定的なダメージを与えた意義を強調する。

「これは侮れない。ウクライナ軍は地上部隊を空から支援できないからだ。われわれなら制空権を確保せずに兵士を前線に送り出したりはしない」が、ウクライナには今のところ他に選択肢がない。

ホッジスは1991年の湾岸戦争を勝利に導いた「砂漠の嵐作戦」を例に挙げ、戦いにおいて航空戦力がいかに重要か想像してほしいと述べた。

「米軍主導の多国籍軍は6週間連続で10万回もの空爆でイラク軍をたたいてから、有名な『左フック作戦』(前線の後方のサウジアラビアからイラク領内を攻撃)と4日間にわたる地上戦を展開したのだ」

米国防総省高官や米軍関係者はオフレコではいら立ちを見せているが、公式発言ではウクライナに理解を示している。

マーク・ミリー米統合参謀本部議長は「計画より時間が掛かっている」としながらも、「ウクライナ軍は限定的ながら前進している」と認めた。

アメリカは「紛争が膠着状態に陥っているとは思っていない」と、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は述べ、こう続けた。「この反転攻勢を通じて領土を奪還するウクライナの試みを、アメリカは引き続き支持する。ウクライナは秩序立った組織的なやり方で領土を取り戻そうとしていると、われわれは考えている」

米国防総省のサブリナ・シン副報道官は8月29日の記者会見で、反転攻勢の進捗について、ウクライナは「引き続きじわじわと前進しており、今後も何カ月かこの戦いを続けるだろう」との見方を示した。



デービッド・ブレナン

この記事の関連ニュース