Infoseek 楽天

14歳スイス人が体験した韓国の世界スカウト・ジャンボリー「混乱もあったけど楽しさも」

ニューズウィーク日本版 2023年9月4日 20時40分

<熱中症などが報道されたイベント、実際の参加者はどう感じた?>

8月1日からほぼ2週間の予定で、韓国の西南部セマングムで、世界最大級の若者の合同キャンプ「第25回世界スカウトジャンボリー」が開催された。日本でも盛んに報道されたように、本大会は連日の真夏日への対策がおろそかだった。食事の提供や衛生管理も不十分だった。
 
参加者たちから批判の嵐が吹き荒れ、最大規模で参加したイギリスのスカウトたち4500人はキャンプからの撤退を決め、8月5日にソウルへ移動。アメリカやシンガポールのスカウトも撤退した。大会側と韓国政府は急きょ、各面の対策を講じた。しかし、台風6号の接近に備え、大会2週目の8日には、残っていた他国のスカウトたち3万7千人もキャンプ場を去ることに。1000台以上のバスで各地に散らばり、残りのプログラムを消化した。

スカウトがブームのスイスからは1400人が参加

世界158カ国から4万3000人が参加した今回の大会。九州ほどの面積の小国スイスからは、1400人を超える大所帯が参加した。日本からの参加が約1500人だったから、スイスのほうが参加率は高かった。今回のスイス代表団は、これまでにスイスから海を越えた国でのジャンボリーへの参加の地としては過去最大規模だった。

今、スイスではスカウトがブームだ。2023年1月1日時点で、スイス全国に5万1000人以上のスカウト会員がいる(5歳以上から参加可、毎週土曜日に活動)。2015年以来、会員は増加の一途をたどっているという。ブームの理由は親などの影響──家族が参加していたから子に引き継がれる──ともいわれている。

筆者は、今回の世界スカウトジャンボリーに、ジャーナリストとしてというより親戚の子どもを見守るような立場で関心をもっていた。スイスからの1400人の中に、親しくしているスイス人の友人の息子ロビン君(仮名、14歳半)がいたからだ。筆者は、ロビン君のことは幼いころから知っている。ロビン君はサッカーやフロアボールが好きで、国内のサマーキャンプに何度も参加するなど屋外でのアクティビティに親しんできた。
 
4年毎に開催される世界スカウトジャンボリーの参加資格は、14~18歳(*)。この時期に1回だけ参加できるが、友人によると、代表団の指導者としてなら2回目も参加可能だ。ヨーロッパ、アフリカ、南アメリカを旅行したことがあるロビン君は、アジアには行ったことがなかった。大好きなスカウト活動が韓国でできるチャンスに、心を躍らせていた。スイス代表団は大会1週間前に韓国に入国し、市内観光などの事前プログラムが用意されていたことも、ロビン君には嬉しいことだった(*19歳以上は、指導者またはボランティアのヘルパーとして参加可能)。

今、ロビン君は新学期(新学年)が始まった。韓国での思い出について聞いてみたところ、大会の準備不足が露呈したとはえ、ポジティブな答えが返ってきた。

乗り継ぎ便が往復ともキャンセルだったが

スイス代表団は小グループに分かれ、スイスと韓国をドイツ経由で往復した。ロビン君のグループは、スイス=ドイツの便が行きも帰りも欠航になった。そのため、韓国入りが1日半遅れた。ヨーロッパのフライトは、昨夏以来、コロナ禍がもたらした空港職員の人手不足により、遅延や欠航が続いている(昨夏、ヨーロッパの空港で、ロストバゲージが頻発したニュースを覚えている人も多いだろう)。昨年より状況は改善されているとはいえ、ロビン君たちのようなことがまだ起きるのだと驚いた。

ロビン君たちは、航空会社からお詫びとして水筒などのアメニティーをいくつかもらえた。そのため、ロビン君の不快感は消えたという。また、帰国時、仁川国際空港近くで宿泊したホテルがスパやフィットネス施設も備えていて非常に快適で、旅の終わりを心地よく締めくくれたとのことだった。

ちなみに、今回のジャンボリー・スイス代表団への参加費用は1人4100フラン(約67万円)だった。1000フラン(約16万円)がキャンプ代としてジャンボリー組織委員会に支払われ、残りは準備代や航空券代、事前プログラムの宿泊代などに充てられた。

充実していた事前プログラム

ロビン君は、「韓国に着いて、暑さにショックを受けました」と話した。ヨーロッパも猛暑日はあるが、やはり暑過ぎは不快だ。筆者も数年前の7月の終わりに韓国を訪れたが、非常に暑かったことを覚えている。

「とにかく汗が噴き出てきました」と言うロビン君には、スイス代表団の事前プログラムが待っていた。ソウル市内観光(寺院や様々な美術館、市場などの訪問)、韓国の文化 (K-POP やテコンドー)を知る安城市での1日という日程だった。韓国の人たちと交流でき、普段味わえない料理を食べ、自由時間には歴史美術館を訪れたり射撃場に行ったりして楽しかったそうだ(遅延なく到着したほかのメンバーは、地元の人たちと一緒に韓国の伝統的な農業や料理を体験する1日も体験した)。
 
韓国人が英語をあまり話さなかったのは意外だったという。英語が苦手なのか、間違いを恐れて話したがらないのかはわからないとのこと。料理も甘めのものが多くて、意表を突かれたという。筆者が韓国を旅行した時は、味噌汁にも辛味を付けてあったほど全般に辛めの料理が多かったから、子どもたちのことを考慮して、辛くない料理が出されたのかもしれない。

チューリヒ州出身のロビン君。暑さをしのぐため、帽子や冷感タオルは手放せなかったという(写真提供:ロビン君)

テントで快眠でき、虫刺されもなし

セマングム地区の面積は、ソウルの3分の2に当たる。ジャンボリーの会場はその一地区で、約8.8平方キロメートルある。スイス代表団のテントから片方の端まで徒歩1時間、別の端まで徒歩20分かかったと、ロビン君は説明してくれた。各国のテントの場所の間に大小のコンビニがいくつかあり、食品や衣類やタオルが販売されていた。ロビン君は、ハンディファンと水に濡らして使う腕カバーをすぐに買って使った。
 
報道されているように、もともと干拓地だった会場には木陰などの自然が作る日陰は少なかった。スイス代表団が確保した日影は、写真のように、共有テントとメンバーのテント内のみだったという。しかし、スイス代表団はアイソトニック飲料や水を十分確保し、水分補給を徹底していた。活動も短縮して、日陰で扇風機をかけて休憩を多く取るようにしていた。

干拓地セマングムで行われた「第25回世界スカウトジャンボリー」。スイス代表団は、料理をしたり休憩する共有テントと、緑色や黄色のメンバーのテント以外に日陰はなかった(写真提供:ロビン君)

会場では8月1日から3日間で、熱中症になった人が500人を超えたと報じられた。日本では熱中症のことばかりが報じられたようだが、総勢約4万3千人の参加者のうちで500人の患者は全体の1%に過ぎない。スイス代表団の8月3日の公式発表によると、異常な暑さの中でもスイス勢は全員が元気だった。大会側の緊急対策で、氷や塩入りの水が配給され、冷房がきいたバスや日陰のエリアも設置され、追加で中・小型の扇風機も届いて、猛暑対策は刻々とよくなったそうだ。就寝に関しては、ロビン君の場合は暑さとマットレスの硬さとで寝付きはよくなかったが、寝入ってしまえばぐっすりと十分に睡眠できた。

虫に刺される人も多かったとの報道については、ロビン君は、確かに、何カ所も虫に刺された跡がある人を見かけたという。ただし、スイス代表団では、テントにネットを2重に張って虫よけをしっかりしていたことが功を奏し、ロビン君はまったく問題なかった。虫刺されは体質も関係しているだろう。またロビン君いわく「テント設置の場所も関係している気がします。海に近い方だと虫が多かったと思います。僕のグループは、海から離れていたエリアでした」とのことだった。

食事は少なめだったが3食あり、トイレも改善された

食事は、自国のテントで調理して食べた。レストランを出している国もあり、有料で食べることができた。食事についても問題は発生した。たとえば、初日の夜、スイス代表団は注文していた食材を17時に受け取る予定だったが、届いたのは3時間後の20時。だが、配達の遅れはすぐに改善された。全体的に食事の量は少なめだったという。食事に関して、ロビン君は大きな不満はなかった。
 
トイレの不潔さも報道で指摘されていた。衛生面が改善される前にロビン君が撮ったトイレ内部の写真を見せてもらった。床が砂だらけの状態だったが、劣悪な状態には見えなかった。筆者の友人の近所に住む女子もスイス代表団にいて、その母親によると、ピカピカのトイレではないけれど使うのも嫌だというほどひどくなかったと娘(その女子)は言っていたそうだ。
 
野外のトイレなのだから、多少の我慢は必要と言ったら、言い過ぎだろうか。また、安全や健康が最優先とはいえ、スカウトの目的はパラダイスのような環境でキャンプをすることではないのだから、報道で強調するのはどうなのかと感じた。

他国のメンバーと積極的に交流

ロビン君がキャンプ会場で他国のメンバーと交換したワッペンなど。参加者は、自分の好きな国のテントへ行き交流を図ることができた。ロビン君は、日本のメンバーとジャケット、Tシャツ、リュックサックを交換。ジャケットと交換してもらった法被は、特に気に入っているという(筆者撮影)

会場では他国のメンバーと話したり、ネッカチーフやワッペンなどを交換することが奨励されていた。ロビン君もヨーロッパ諸国、アフリカ諸国(ロビン君はフランス語も話すので、モロッコなどのメンバーとフランス語で会話した)、オーストラリア、アメリカのメンバーと連日会って話した。アジア地域は、開催国の韓国、香港、ベトナムに加え、日本のメンバーにも会った。
 
大会終了後に連絡しようと思うほどには仲良くならなかったが、よい経験だったという。スイス代表団内で知り合ったメンバーとは、大会後も親交を深めるつもりだという。ロビン君は、ジャンボリーのプログラムに含まれていた、寺や美術館、空中アスレチック公園などの訪問も楽しんだ。

「今回のジャンボリーは問題点もあったけれど、スイスでのキャンプとは全く違う経験ができて、とても楽しかったです。これからも、スイスやほかの国でスカウトに参加します」(ロビン君)

今回のジャンボリーは韓国内では政治的な問題にも発展しているが、参加した子どもたちの多くが、10代の素晴らしい思い出の1ページを綴れたと願いたい。

[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

【動画】アクティビティを体験して楽しむスカウトたち

熱中症やトイレなどの衛生面での問題が指摘された「第25回世界スカウトジャンボリー」だが、参加した若者たちは、屋内外でさまざまなアクティビティを体験し、楽しんでいたようだ。

台風の影響でセマングムからソウルなど各地に移動。さまざまなアクティビティを体験した。 World Scouting / YouTube
 
ソウルで行われた閉会式のようす World Scouting / YouTube



岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

この記事の関連ニュース