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地方自治体がなぜ名産品をNFT化するのか──ブロックチェーンが可能にした地方活性化と「ファン集め」の挑戦

ニューズウィーク日本版 2023年9月13日 10時25分

<「希少な収集品」として高額取引されるNFTアート。日本の自治体も地域の認知度アップと「ファン」を集めるために、地方名産品をNFT化している。『アステイオン』98号より「世界に向けて「共感」を募る――ビットコイン技術を活用した地方活性化の取り組み」を転載> 

デジタルの「名札」

自分の持ち物と他人の持ち物を区別するには、それらの物に名前を書いたり名札を付けたりすればよい。

近年、注目されている「NFT(エヌ・エフ・ティー)」と呼ばれる技術は、デジタルの「名札」といえるものだ。

文字、画像、音声、動画──いずれもデジタルデータになると、完全なコピーが容易になる。通常、完全なコピーが複数ある場合、それらを区別することは難しい。

しかし、近年、個々のデジタルデータにNFTという「名札」を紐づけることで、「あなただけのデジタルデータ」として販売することが活発に行われている(図3)。

図3 保有するNFTの種類(NFTの保有者全体に占める当該NFTの保有者の割合) 出典:SBI金融経済研究所「次世代金融に関する一般消費者の関心や利用度に関するアンケート調査」結果(2022年12月)

世界初のツイート画像が「希少な収集品(コレクティブル)」として3億円で購入されたり、スポーツ選手の写真や試合の名場面の動画、歌手や作曲家の名曲(音声)などが「あなただけのデジタルデータ」として販売され、ファンなどが購入したりしている。

ゲームのキャラクターやアイテムをNFT化したものも人気があるようだ。

NFTの仕組み

NFTはNon-Fungible Tokenの略称で、直訳すれば「他のもので代えることができない印」となる。「他と異なる」、つまり「他と区別できる」性質は、「名札」と共通する。

NFTの実態はコンピュータ上で作られたデータで、それぞれ他と異なる番号を割り振ることでデジタルの「名札(番号札)」として利用されている。

仮想通貨のビットコインと同様に、「ブロックチェーン」と呼ばれる技術を用いて、割り振られた番号を不正にコピーしたり、改ざんしたりすること、つまり、「名札」を偽造したり、書き換えたりすることを防いでいる。

ただ、「名札」自体を偽造できなくても、「名札」を付け替えることはできてしまう。NFTと紐づけられたデジタルデータも、他のデジタルデータに付け替えられたりしないように管理をしっかり行う必要はある。

地域活性化策への応用

図1(左)、図2(右) 余市町ミニコレクティブルNFT 提供:余市町/(株)あるやうむ

2022年度に入って地方自治体でふるさと納税の返礼品としてNFTを活用する取組みが見られ始めてきた。

北海道余市町、大阪府泉佐野市、茨城県桜川市、兵庫県加西市など、筆者が調べただけでも20近い地方自治体の活用事例が見受けられた(2022年末時点)。

多くの場合、地域の名産品や景勝地、文化遺産などを個性的なキャラクターと組み合わせてイラストにし、個数限定の返礼品として寄付金を募っている。

地域の認知度やイメージの向上、地域に対する「ファン」の形成などの狙いもあるようだ。

例として、いち早く取り組んだ北海道余市町のNFT返礼品をみてみよう。いずれも特産品のワインを中心テーマにしたものだ。

最初のNFT返礼品では、キャラクター3種類(男性・女性・子供)、背景3種類(ワイン蔵、ブドウ畑、レストラン)、飲み物3種類(赤ワイン、白ワイン、ぶどうジュース)、仕草2種類を組み合わせ、計54種類のイラストを作成した(図1、2)。

このように複数のパーツをコンピュータで自動的に組み合わせて作るNFTをコレクティブルNFT、またはジェネラティヴNFTという。

図4 【マイクリコラボ】余市の宝~北海道余市町名産ワイン~ NFT 提供:余市町/(株)あるやうむ

2番目のNFT返礼品は、ゲームアイテムになるNFTで、赤ワイン、白ワイン、ワイン樽を中心とする三種類のイラストがある(図4)。ゲームアイテムはNFTでも人気が高い分野だ。

3番目は、ツイッターで多数のフォロワーを持つインフルエンサーがプロデュースした忍者のイラストのNFT、クリプト・ニンジャ(CryptoNinja)のサブキャラクターの1つ(うさぎのキャラクター)とコラボし、町の名所等を背景に、ニシン漁で栄えた歴史も踏まえてニシンも加えてイラスト化している(図5)。

余市町の人気ワイナリーのワインの優先購入権の抽選券や、このNFTをもって余市町を訪れるとイラストがレベルアップする仕組みも付されている(図6)。

図5、6 「余市町ふるさとCNP2022」 返礼品送付時のNFT(左)と余市町を訪れることでレベル上げされたNFT 提供:余市町/(株)あるやうむ

世界に向けて「共感」を募る

新潟県長岡市の住民組織「山古志住民会議」の取組みは、NFTを活用した地域活性化策の先行事例といえるほか、取組み内容も一層本格的なものだ。

山古志地域は、2004年の新潟県中越地震で甚大な被害を受け、現人口は約800人、65歳以上の高齢化率が55%超という、雪深い限界集落だ。

図7 Colored Carp 提供:長岡市山古志支所

図8 Generative patterns〝NISHIKIGOI〞 提供:長岡市山古志支所

こうした厳しい状況にあって、山古志住民会議は地域の存続・復興をかけた様々な活動に取り組んできた。そして山古志発祥の錦鯉をシンボルにしたデジタルアートをNFTにし、2021年12月(図7)と2022年3月(図8)に世界に向けて販売した。

山古志住民会議のNFTは、ふるさと納税制度とは関係なく、販売先は国内に限らない。

公式サイトでは山古志地域の紹介、NFT発行の背景や趣旨などを英文で発信し、世界の人々に向けて理解・共感を訴えており、NFTを地域再生の取組みに必要な資金の調達手段としてだけでなく、山古志への共感者、仲間の証と位置付けている。

NFTの保有者には、調達した資金を活用した復興・活性化プランを提案する権利やデジタル投票によるプランの採否決定に参加する権利等も付している。

インターネットは、本来、国境に囚われないコミュニケーションツールだ。ハッキングやフェイクニュースなどではなく、山古志のような好活用事例が今後も様々に輩出されていくことを期待したい。

杉浦俊彦(Toshihiko Sugiura)
1966年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行に入行。決済機構局参事役、業務局総務課長、高知支店長、金融機構局上席考査役、同局金融高度化センター長などを経て、2022年4月にSBI金融経済研究所(株)・研究主幹に就任。2023年4月に(株)格付投資情報センター・執行役員に就任。

 『アステイオン』98号

  特集「中華の深化、中華の拡散」──「中国の夢」の歴史的展望」
  公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
  CCCメディアハウス[刊]

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