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日本流でインドを変える! 世界シェア1位を狙うパナソニック配線器具事業「現地の評判」

ニューズウィーク日本版 2023年9月6日 7時0分

<成長著しいインド市場で攻勢を強めるパナソニック。日本の工場を超える最新IoTの導入と「シン・インド」的販売管理システムで、世界の頂点をうかがう>

14億2577万人――。国連人口基金の推計によれば、今年4月時点で中国を抜き世界一の「人口大国」となったインド。この四半世紀でその数は1.4倍となった。

「地球人」の、実に2割近くがインド人という計算となる。平均年齢は28歳ほど、全人口のうち15歳から60歳の生産年齢層が3分の2を占める。今後も増え続けるその人口は、2050年には16億7000万人に達する見込みという。

人口ボーナスの続くインドは、経済も高成長が続く公算が高い。国際通貨基金(IMF)によれば、2022年にインドのGDPはかつての宗主国・イギリスを抜き世界5位となった。なお、この年のGDP成長率は6.7%と主要先進国・新興国の中で世界1位となっている。

今後も年7%前後の経済成長を伴い、2027年には日本とドイツを超え米中に次ぐ世界3位の経済規模になりそうだ。まさに世は「インドの時代」を迎えつつあるのかもしれない。

パナソニック/アンカーの製品例。インドのコンセントは3つ穴のタイプだ Photo by Tomohiko Ando

そんな乗りに乗った勢いのこの国を海外拠点の主軸に据え、攻勢を強める日本企業も増えている。その1つがパナソニックだ。

一般に同社といえば、テレビやオーディオ、冷蔵庫、洗濯機といった家電のイメージが強いかもしれない。だが、インドでパナソニックの「顔」となっているのは、住宅やオフィスビルで使われるコンセントやスイッチを中心とした配線器具である。

2007年にインド最大手だった現地企業、アンカーエレクトリカルズを傘下に収め、配線器具の国内シェアトップに立った。買収後も「アンカー」ブランドと「パナソニック」ブランドをうまく併用し、現在は国内シェアを4割強まで伸ばしている。

配線器具や照明器具などパナソニックが「電設資材事業」と呼ぶ分野をインドで担う現地法人・パナソニックEWインドの売上は、アンカー買収時(2007年)の約130億円から2022年には約830億円と、6.5倍近い成長を見せている。

パナソニックEWインドの加藤義行社長は、「インドで売上高を毎年10%増やしていき、2030年にはインドだけでなく配線器具市場の世界シェア首位を目指したい」と自信をのぞかせる。

パナソニックの「祖業」でもある配線器具事業だが、現在の世界シェアは2位。すでに日本やタイ、ベトナム、台湾、マレーシア、インドネシアなどでは圧倒的なポジションにあり、アジアでのシェアはトップ。この勢いを伸び盛りのインドで加速させ、配線器具市場の頂点をうかがおうというわけだ。

パナソニックEWインドの加藤義行社長。インド市場の成長に自信を見せる Photo by Tomohiko Ando

買収して工場を抜本的に改革、年4億2000万個製造能力に

そんな強気の姿勢を裏付ける、積極的な生産体制の増強もインドでは進む。拠点となるのは各地に分散させた7工場と30の営業所。うち配線器具に関しては北部ウッタラーカンド州のハリドワール工場と、南部アンドラプラデーシュ州のスリシティ工場を中心に製造量を拡大中だ。

ハリドワール工場で製造する製品群。多品種少量生産が軸になってきている Photo by Tomohiko Ando

ハリドワール工場は、8万7000平方メートル近い敷地に2つの建屋を擁し、約4800人が働く。元々アンカーが運営していた工場をパナソニックが引き継ぎ、規模や生産性を向上させてきた。買収当時は、工場の周囲や製造現場が散らかり放題で事故も多く、とても製造に集中できる環境とはいえなかったという。

「日本の津工場(三重県)と共通の設備を導入した上で、技術者も招聘して指導にあたるなど、抜本的な改革や底上げを図った」と、現地で配線器具など電材事業の生産管理の責任者を務める小林健太郎氏は振り返る。

作業中の従業員たち Photo by Tomohiko Ando

津工場でも導入済みの自動化技術と現地従業員の手作業を組み合わせながら、多品種少量生産に対応した今では年4億2000万個の配線器具製造能力を有する同社のインド最大の工場へと姿を変えた。

大規模なIoTと自動搬送車を導入した「日本以上の工場」

スリシティ工場。工業団地の一角に東京ドーム3個分の敷地を構える Photo by Tomohiko Ando

一方、2022年4月に創業開始したばかりのスリシティ工場では、かつてお手本だった日本の工場よりもさらに先を見据えた最新の設備が稼働している。

IoT技術による集中的な生産管理と、ロボットの活用による部品製造から組み立て、工場内の搬送に至るまでの徹底した自動化が特長だ。さらに生産性を向上させるため、スリシティ工場ではインドで需要の多い5品目に特化して量産している。

工場内はロボットが行き交う。自動化が進み、規模の割に従業員はそう多くない Photo by Tomohiko Ando

およそ13万3000平方メートル(東京ドーム3個分に相当)というハリドワール工場の1.5倍の敷地で働く従業員はわずか300人ほど。現在の配線器具製造能力は年1.2億個だが、今後も従業員数をさほど増やすことなく、2030年までに年3億個まで引き上げる算段が既に立っているという。

筆者は今夏、ハリドワールとスリシティの両工場を視察したが、確かに後者の従業員は驚くほど少なく、大小の自動搬送車がひっきりなしに行き交う様子が目についた。

小林氏は、「日本の工場では、ここまでの規模のIoTや自動搬送車を試すことはできなかった。いずれインドで培った製造技術を日本へ輸出する可能性は十分にある」と話す。

なお、パナソニックが日本流をインドに融合させ、「シン・インド」的なメソッドを構築してきたのは製造面だけではない。

インドでパナソニックの配線器具を扱う4500店以上を販売管理システムでつなぎ、販売網を全土に展開するが、流通や販売後のサポート面でも、日本で培ってきたノウハウが注入されている。

パナソニックのアフターサービスは他社とまったく違う

チェンナイの電材街 Photo by Tomohiko Ando

スリシティ工場からクルマで1時間ほどの都市チェンナイ中心部で、父親の代から配線器具の卸業を営むラケッシュ・コタリ氏は、「パナソニックを指名買いする客がほとんどだ」と断言する。

コタリ氏の店では2006年からパナソニック商品の取り扱いを開始。今では300の小売店にパナソニック商品を納入する、インド最大の卸業者となっているという。

「品質がいいのは言うまでもないが、アフターサービスの良さが他社とは全く違う。例えば、故障時の対応。インドのメーカーはモデルチェンジが頻繁で、過去の製品のパーツが修理用に残っていないのがほとんどだ。パナソニックの場合は、10年前の商品でも修理用のパーツがすぐ手に入る。また、実際にユーザーから故障の連絡があると原則24時間以内に現場に向かってくれる。客に安心して勧められるのは大きい」

配線器具の卸業を営むラケッシュ・コタリ氏。パナソニック商品を扱うようになって17年という Photo by Tomohiko Ando

こうしたきめの細かいサービスも組み合わせながら、インドの配線器具市場での基盤をさらに確たるものにせんとするパナソニック。加藤社長はさらにその先も見据えている。

「インドの国内需要を賄うだけでなく、地の利を活かした展開が次のフェーズになる。ブータンやスリランカの市場はインドの延長線上にあるし、しっかりしたインド系移民のネットワークが存在する中東や東アフリカにも、直接輸出しやすい環境にある」

日本の技術を種に、インドで大輪の花を咲かせようとしているパナソニックの配線器具事業。この15年の軌跡を振り返れば、そこに日本企業が海外で強みを発揮するヒントが隠されているかもしれない。

Photo by Tomohiko Ando



安藤智彦

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