Infoseek 楽天

ドラマ『神の雫』主演の山下智久が語る、混沌の先の新境地──仕事も人生も「量から質」へ

ニューズウィーク日本版 2023年9月12日 13時10分

<もうすぐ40歳が見えてきた山下智久が明かす、世界への挑戦とワインのある暮らしと人生の質>

近年、日本を飛び出し海外作品にも積極的に参加している山下智久。9月15日からHuluで独占配信が開始する日仏米共同製作ドラマ『神の雫/Drops of God』に主演し、仏女優フルール・ジェフリエと共演することが話題を呼んでいる。山下が演じるのは、若きカリスマワイン評論家である遠峰一青(いっせい)だ。

今回が海外ドラマ初主演となる山下は、本作を通してどんな世界を見、何を得たのか。本誌・小暮聡子が聞いた。

◇ ◇ ◇

――国内で映画やドラマの主演を重ねてきた山下さんにとって、『神の雫/Drops of God』は海外ドラマ初主演作。この役をつかんだ経緯は。

(メインキャストの1人として出演した)国際ドラマ『THE HEAD』(2020年よりHuluで配信中)のプロモーションでカンヌに行ったときにプロデューサーさんにお会いしたことがきっかけだ。『神の雫』は原作漫画が世界的にヒットしていて、プレッシャーや不安はもちろんあったけれど、また新しい監督や共演者と一緒に作っていけるという喜びと、希望のほうが大きかった。

――今回のドラマの原作は日本の作品だ。世界に向けて発信することに何か特別な意識はあるか。

近年はあまり、どこの国のものという概念はないのかなと思っている。ストーリーとして魅力的かどうかが重要なのかなって。それがどこの国の作品だろうと、面白ければ見てくれるし、面白くなければそれまでだ。

なので、日本のものという意識よりは、ストーリーをどれだけ魅力的にできるかということのほうを僕は重要視している。実際に作っていくと、監督の視点や、現場でのディスカッションの中で日々変わっていくもので、その過程はすごく楽しかった。

――いつどこで撮影したのか。

21年の夏から約10カ月間、フランス、タイ、日本で。タイでの撮影は日本のシーンで、コロナ禍で日本では撮影できなかった分を撮影した。

フランスは、南フランスとパリで合計4カ月くらい。今回もマネジャーは同行せずに単身で、出演者はみな同じホテルで生活していた。僕はダイエットしなくちゃいけなかったので、ほぼ自炊して。6~7キロくらい痩せた。

都内で行われたカバー撮影とインタビュー。山下は役作りのために体重を7キロ落としたと明かした PHOTOGRAPH BY KOSUKE OKAHARA FOR NEWSWEEK JAPAN, HAIR AND MAKEUP BY ICHIKI KITA, STYLING BY GO MOMOSE

――役柄的に痩せる必要があったのか。

監督と話したのだが、カミーユ(原作漫画の主人公である神咲雫を女性キャラクターに置き換えたもう1人の主役で、ジェフリエが演じる)は特殊な能力を持っているというか、味覚や嗅覚がすごく敏感だけど、一青には何もない。でも人はカロリーを制限すると、それによって味覚や嗅覚のレベルが上がる。それを体現できないかという話をされて、できるだけやってみます、と。カロリーを制限するため、食事を控えていた。

――フランスにいるのにおいしいものも食べられず......。

残念ながら、撮影中は何も食べられなかった。でも2週間に1回くらいは、ワインも飲みたかったので、いろんなお店に連れて行ってもらったり、探したりしていた。

――役作りでのダイエットということだが、体を絞っていくと実際に味覚と嗅覚は優れていくものなのか。

全然違う。体が欲しているので、おいしいって思う感覚も違うし、すごく、鋭く敏感になる感じ。でも、体によくないから皆さんはやめたほうがいいかな(笑)。

――どれくらいの期間で7キロ落としたのか。

たまたま、別のドラマの撮影からずっと続いていたので、結局8カ月くらいダイエット。けっこう過酷で、体重が戻るのに1年くらいかかった。

――普段は、お酒はよく飲んでいる?

飲む時期は飲むけど、撮影や大きな仕事の前などは控えている。時間と心に余裕があるときはお酒を楽しんでいる。

――どんなお酒を飲むのか。

もちろんワインも飲むし、飲めないお酒があまりない。甘いお酒は飲めないけど、それ以外は何でも。最初の一杯目にはビールも飲むし、食事に合わせて選ぶこともある。

(ワインと料理の)「マリアージュ」って日本語にはない言葉だと思うのだが、赤と白、フルボディやミディアムボディなど、それに合う食事ってやっぱりすごくあるなと思う。いい化学反応があって、両者に相乗効果があるということを学んだので、そういう意味では、お酒も食事もよりおいしく感じるようになった。

――それは、遠峰一青役を通して学んだのか。

役を通して、多くのことを学ぶことができた。あとは、いろんな愛情の形......を学んだかもしれない。家族愛、友愛、兄弟愛など、このドラマではワインを通してさまざまな形の愛が描かれている。

ワインそのものの話というより、ワインを通して人間を表現していく話だなと、僕はそう捉えている。でも同時にワインについても学べるし、大人も含めて幅広い世代に楽しんでもらえるんじゃないかと思う。

ドラマのワンシーン。左がカミーユ役のジェフリエ ©HULU JAPAN

――漫画に出てくる遠峰一青に、ドラマではどれだけ近づけようとしていたのか。

骨格はもちろん漫画の一青にあると思うけど、実写化するときは、原作へのリスペクトを持ちつつ、とらわれすぎないことが大事なのかなと僕は思っていて。今回の脚本に描かれているストーリーから、僕が感じる一青を作っていくというか......。脚本家ともたくさん話したし、脚本をひもといていくという作業に時間をかけていった。

――日本のドラマの作り方と海外のドラマの作り方の違いとして、日本では脚本が数話ずつなど少しずつ渡されるのに対し、海外では最後まで出来上がった脚本を渡されることが多いとも聞く。今回は?

最初から出来上がった脚本を渡されたけど、撮影中にもどんどん変わっていった。そういう意味では本当に、脚本や作品は生ものという感じで、日々変わっていく。現場で僕らが演じているのを見て脚本家さんがインスパイアされて変えていくことがあったり。海外の作品は、特に柔軟性が高いように感じている。

当初は本当に小さい役だったのが大きくなっていったりもするし、もちろんその逆もあるんだろうけど。僕の場合は役が成長していくことが多くて、それは本当にうれしいことだと思う。いい意味で固定されていないので、現場でもっといいものにしようと努力していく気持ちは忘れないようにしたいと思っている。

――どんどん成長していった遠峰一青とは、山下さんにとってどういう人物だったか。

とにかく、ストイックで熱心。家庭環境は複雑だし、いろんな葛藤を抱えている人間ではあるけれど、ちゃんと自分の心に耳を傾けて、決断していく強さもある。感情表現はあまり得意じゃないけれど、すごく純粋な人だと思う。純粋だから傷つきやすいところもある。

とても複雑な役で、演じるのは難しかったし、今もまだ遠峰一青とは本当はどういう人間だったのか、僕も100%は理解できていないところがある。それくらい日々変わっていったし、すごく、一青は生きていたと思う。

僕も今、自分自身のことを100%理解できていなかったりするし、日々いろんな出来事があって、自分自身も変わっていく。なので一青も、まだ変わっている途中なのかなとも思う。

――人間、大人になると変わることが難しくなることもあるかもしれない。山下さんご自身はどうか。

動かないと固まっていってしまうと思っていて。僕はどちらかというと結構動いているタイプなので、そういう意味ではまだ柔軟に対応できるかもしれない。常に自分に刺激を入れて、新しい環境に身を置くということは意識している。

動いているから、新しいことや変わることに対して、柔軟に対応できるんだと思う。ずっと座っていると体が固まってしまうのと同じで、動いていないと、どんどん人間も固まっていっちゃうのかな。

――変わることを恐れる気持ちはない?

恐れるというか、やっぱり、つらいときって上っているときだと思う。僕はもっと、もっと上に行きたいっていう気持ちがまだ消えないので、そういう負荷をしっかりかけていくことは意識しているから、あまり苦にはならない。

自分はまだまだ、小さい存在だなと感じている。新しいことを知れば知るほど、大きな世界を見れば見るほど、自分の小ささを体感する。そうすると、それがまたモチベーションになる。夢を大きく持つと、もっと成長したいと思える。

――遠峰一青はストイックと言っていたが、山下さんもストイックな印象だ。常に自分を追い込んでいるように見えるが、疲れることはないのか。

実は毎日疲れていて......(笑)。疲れて寝るっていうのが好きで、充電は一日でしっかり使い切りたい。余力を残しておくとぐっすり眠れない。僕ももちろん友人と出かけたり食事をしたりすることもあるけれど、それも役につながることもある。

同じ刺激だとやっぱり、成長しないので、いろんな刺激を入れていきたいと思っている。やりたいことを制限することはあまり好きではないので、人に迷惑をかけない範囲で、自分の好きなことをやっていきたいとは思っている。

――いま38歳で、もうすぐ40歳が見えてきた。40歳、50歳、60歳の目標を教えてほしい。

今やっていることを続けていくということなのかなと思う。もっともっと自分の質も、作品の質も高めていきたい。量から質に、意識が変わってきている。

「混沌からしか整列は生まれない」という法則があるけれど、僕も同じで、若い頃はとにかくいろんなことをやって、質とかではなくそれこそ量をこなしていた。それがこれから、自分の人生も質のほうにもう少し意識を向けていくのかなと。

これからは、やらないこと、やれないことも増えてくると思う。やること、やらないことを自分で選んでいくのも仕事の1つなのかなって。自分があまりワクワクしない仕事はやらないとか、ファンの方や応援してくれる人ががっかりするような仕事はしたくない、とか。

質を高めていくということは、高められるような機会を自分で作らないといけない。時間は限られているので、自分がワクワクすることだけをやっていきたい。



小暮聡子(本誌記者)

この記事の関連ニュース