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G20サミットで「米欧vs中露」の対立鮮明...議長国インドはしたたかに立ち回り、首脳宣言は見送りか

ニューズウィーク日本版 2023年9月9日 17時47分

<中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は欠席。いまやG20は、米欧と中露の綱引きの場と化している>

[ロンドン発]日米欧に新興国を加えた20カ国・地域首脳会議(G20 サミット)が9日から2日間の日程でインド・ニューデリーで開幕。米欧と対立を深める中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は欠席する。世界金融危機への対応を練った2008年の初会議から毎回採択されてきた首脳宣言は見送られる恐れがある。

ウクライナ侵攻1年の今年2月、国連総会は141カ国の賛成でロシアがウクライナから即時撤退するよう求める決議を採択した。反対はロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮など7カ国。棄権した32カ国の中にはロシアと「無制限」のパートナーシップを宣言している中国、今回G20の議長国を務めるインド、南アフリカといったG20の国々も含まれている。

南ア自身は否定しているものの、米政府高官によると、南アがウクライナ戦争でロシアに武器を提供する手助けをした可能性を示唆する情報まである。トルコは対露制裁の抜け道になっていると西側から非難されている。産油国サウジアラビアはロシア産小麦の輸入を3倍に増やし、ロシアも新たな制裁に対する防波堤として中国だけでなくサウジにも期待を寄せる。

アルゼンチンもインドネシアも対露制裁に参加していない。8月のBRICS首脳会議ではアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)6カ国が新規加盟した。BRICSとして知られるブラジル、ロシア、インド、中国、南ア経済圏は基軸通貨・米ドルの代わりに自国通貨の使用を増やそうと画策している。

中国紙「G20サミットをダメにするのは誰だ?」

全会一致が原則の首脳宣言を採択するには、中国の李強首相やセルゲイ・ラブロフ露外相の賛同が必要だ。米欧はロシアのウクライナ侵攻を厳しく非難している。ウクライナ戦争が悪化させるインフレと食糧危機。対露制裁で一時は1バレル=70米ドルを割った原油価格も再び90米ドルに近づく。原油価格が20米ドル以下まで暴落しない限り、ロシアは崩れない。

ロシア軍の無差別攻撃を受けるウクライナ国民は気の毒だが、「ロシア産エネルギー、食糧は喉から手が出るほど欲しい。とにかく戦争を止めて」というのが西側でも中露でもない第三勢力の本音だ。中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」英語版は「G20サミットをダメにするのは誰だ?」という論評で米欧に対立の責任をなすりつけている。

「インドはG20サミットを成功させることで『大国』としての地位を高めることを期待しているようだ。『インドとともにある』と主張する米国や西側はG20サミットの参加国間の『違い』を誇大宣伝するために多大な努力を払っている。今年のG20サミットはこれまで以上に騒々しく複雑な状況に直面する恐れがある」と指摘する。

「インドは6つの優先課題を発表している。グリーン開発と気候変動資金、包括的成長、デジタル経済、公共インフラ、テクノロジーの変革、女性のエンパワーメントのための改革である。西側が最も注目するロシアとウクライナの紛争では、インドはウクライナの指導者を今回のサミットに招待しなかった。経済回復と多国間外交に議論を集中させたいからだ」

米欧と中露の綱引きの場になったG20

世界金融危機の際、G20サミットは先進国と新興・途上国の国際協調の場として生まれた。G20は世界人口の3分の2、世界GDP(国内総生産)の85%、国際貿易の75%以上を占める。気候変動、環境、パンデミックなど地球規模の課題には多国間主義が不可欠だ。G20はもともと地政学的な競争の場ではなかったが、今や完全に米欧と中露の綱引きの場と化している。

環球時報は「昨年のインドネシア・バリでのサミット以来、米欧はG20を引き裂こうとする傾向を見せてきた。米国と西側の世論は第一にBRICS拡大後のメカニズムを注視し、G20との『対立』を誇張している。第二にインドの議長国という立場につけ込んで中国とインドの対立を誘発し、龍と象の競争を煽っている」と米欧批判を強めている。

G20サミットに先立ち、ジョー・バイデン米大統領は8日、ナレンドラ・モディ首相と会談、防衛協力を含む米国とインドの緊密かつ永続的なパートナーシップを再確認した。自由、民主主義、人権、包摂、多元主義、全国民に平等な機会という共通の価値観が両国の関係を強化することを強調した。 6月にモディ首相は歴史的なワシントン訪問を果たしている。

バイデン、モディ両首脳は自由で開かれた包摂的で強靭なインド太平洋を支える上で日本、米国、オーストラリア、インド4カ国(クワッド)の重要性も改めて確認。 モディ氏は24年にインドが主催する次回クワッド首脳会議にバイデン氏を迎えることを期待している。インドは米国がインド太平洋海洋イニシアティブの柱を共同主導することも歓迎した。

インドを常任理事国とする国連安保理改革を支持

バイデン氏はインドを常任理事国とする国連安全保障理事会改革を支持し、防衛、原子力、宇宙開発、グローバル半導体サプライチェーンの構築、送受信装置などの仕様をオープンにしてさまざまなベンダーの機器やシステムとの相互接続を可能にするOpen RANと移動通信システム5G/6G技術の研究開発、量子技術、バイオなど多岐にわたる協力を約束した。

インドは米国から31機の無人攻撃機MQ-9Bプレデターの調達を進める。米国と中国を天秤にかけるモディ氏のしたたかさが浮かび上がる。インドは長い間、非同盟外交政策を維持しており、モスクワとの外交関係はソ連時代にさかのぼる。西側がロシア産原油・天然ガスから撤退する一方で、インドは原油の輸入を増やす。

減ったとは言え、インドにとってロシアは軍事・防衛機器の最大の供給国だ。だからロシアのウクライナ侵攻を非難する国連決議を棄権した。英国のリシ・スナク首相はインド系の英首相として初めてニューデリーを訪問。ウクライナが黒海経由で穀物を安全に輸出できるようにする協定から離脱したプーチンの決定を非難するようG20首脳に呼びかける方針だ。

英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)のレスリー・ビンジャムリ米国プログラム・ディレクターは「英国はインドとの自由貿易協定交渉を理想とする国々の列に加わりつつある。今日のインドは抜け目なく、プライドも高い。英国が、経済も野心も英国を凌駕しているように見えるインドと取引を進めたいのであれば互いに満足のいく提案が不可欠だ」と話す。


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