Infoseek 楽天

英王室の静かなる危機...「安全運転」で支持率維持に努めるチャールズ国王、頭痛の種は相変わらずの次男ヘンリー

ニューズウィーク日本版 2023年9月12日 20時26分

<メーガン夫人が王室との関係を断ち切るなどヘンリー夫妻という「内憂」は変わらないが、大英帝国という過去の栄光が遺した「外患」の方が心配>

[ロンドン発]英国史上最長の70 年間在位したエリザベス女王が96歳で亡くなり、チャールズ国王が即位して1年が経った。チャールズ国王は女王が息を引き取った英北部スコットランドのバルモラル城で「陛下の長いご生涯と献身的なご奉仕、私たちの多くに陛下が遺されたすべてのことを深い愛情とともに思い起こします」と亡き母に思いを馳せた。

■【動画】「冷え切った目」でキャサリン妃に見られ動揺するメーガン妃

「この1年、私たち夫婦が皆さまのお役に立てるよう最大限の努力をしてきた中で私たち夫婦に示された愛とサポートにも深く感謝しています」とも述べた。チャールズ国王とカミラ王妃が英国のイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド計79地域で行った571回の公務を記録した動画もソーシャルメディア上で公開された。

元米女優メーガン夫人と結婚、英王室離脱でチャールズ国王や長男ウィリアム皇太子と対立する次男ヘンリー公爵は移住先の米国から英国に一時帰国し、エリザベス女王の一周忌にウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂をサプライズ訪問した。慈善団体のイベントに出席するための一時帰国だったが、英王室との距離を改めて感じさせた。

英世論調査会社「ユーガブ(YouGov)」のアンケートでは、英国人の60%がチャールズ国王に好感を持っていたのに対し、否定的な声は32%。王族の好感度ではカミラ王妃47%(否定的42%)、ウィリアム皇太子74%(同20%)、キャサリン皇太子妃72%(15%)。ヘンリー公爵31%(63%)とメーガン夫人24%(68%)は英国内での憎まれ度が再確認された。

62%の英国人は王室制度を支持

性的児童虐待スキャンダルで公務から外されたアンドルー王子6%(88%)は問題外として、英王室にとって「激動の1年」だった昨年、チャールズ国王が181回の公務をこなす一方で、143回の公務を担ったエドワード王子54%(同24%)、214回のアン王女73%(同14%)が脇役として国王を支える構図がより鮮明になってきた。

62%の英国人が王室制度を続けるべきだと答える一方で、26%が共和制への移行を唱えた。王室制度を支持する国内世論は2012年に75%に達したが、その後ジリジリ下がり続け、一時は59%まで低下。エリザベス女王が亡くなった直後に一度67%まで回復したものの、この2年間は60%を少し上回る程度の支持が続いている。

しかし英国の若者層(18~24歳)の王室制度支持派はわずか37%。それより多い40%が共和制への移行を求めている。王室制度を支持する世論は65歳以上で80%、50~64歳で67%、25~49歳で56%と年齢が下がるにつれ、その割合は低下する。若者層ではヘンリー公爵とメーガン夫人への好感が否定派を上回っている。

58%は「王室制度は英国にとって良いもの」と考える一方で、悪いものとみているのはわずか21%。21%はどちらでもないと答えた。若者層では良いと答えたのはわずか30%で、同じ30%が英国にとって悪いと考えていた。65歳以上では77%が王室制度は英国にとって良いものと考えていた。

王室との関係を断ち切ったメーガン夫人

53%が王室は支出に見合う価値があると答える一方で、34%は見合わないと考えていた。48%が王室制度を誇りに思うと回答したのに対し、30%は誇らしいとも恥ずかしいとも思わないと答えていた。ヘンリー公爵との関係修復に務め、安全運転に徹するチャールズ国王はコロナ後遺症、ウクライナ戦争、インフレ、生活費の危機を乗り切ることができそうだ。

しかし頭痛の種はヘンリー公爵だ。メーガン夫人がチャールズ国王の戴冠式(5月6日)を欠席したことからも分かるようにメーガン夫人は王室との関係を自ら断ち切った。王室よりも家族第一のヘンリー公爵がチャールズ国王とウィリアム皇太子との関係修復に動くことも考えにくい。国王は対立するより紛争状態を凍結するのが一番と考えているようだ。

ヘンリー公爵はメーガン夫人ら家族のプライバシーを守るため、英大衆紙(タブロイド)の発行会社を相手取り複数の訴訟を起こしている。パパラッチに追いかけられ、最愛の母ダイアナ元皇太子妃を交通事故で失ったトラウマをヘンリー公爵は抱えている。6月にはロンドンの法廷で反対尋問を受け、19世紀以来初めて証言台に立った上級王族となった。

保守系英紙デーリー・テレグラフは「なぜヘンリー公爵は訴訟中毒になるのか」という記事で「彼は自分自身を、英メディアの行き過ぎた取材や報道に対する道徳的十字軍のリーダーだと考えている。彼を突き動かしている目的意識が本格的な中毒とまではいかなくとも、強迫観念に突き動かされている可能性も考えられる」と指摘している。

「内憂」より「外患」の方が心配

「訴訟に執着する人は見当違いであれ正当化されるものであれ、正義を取り戻したいという願望に突き動かされている。間違ったことが行われたと信じ、その不均衡を是正するために時間・労力・資源を惜しまない。それが頻繁に行われる場合、過剰に発達した正義感が実際の出来事よりも原動力になっているのではないかと考えざるを得ない」(同紙)という。

ヘンリー公爵という「内憂」より大英帝国という過去の栄光が遺した「外患」の方が心配だ。

チャールズ国王が即位する前にカリブ海の島国バルバドスはエリザベス女王の君主制を廃止して共和制に移行した。英連邦王国の多くが共和制に移行することを真剣に考えている。その数は現在の14カ国(英国を除く)から減っていくのは必至だ。大英博物館学芸員による収蔵品盗難事件では旧宗主国に対する旧植民地の不満が改めて噴き出している。

戴冠式の際、中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」英語版は「エリザベス女王が受け継いだ栄光の帝国から、欧州連合(EU)離脱の余波や高インフレ、ロシア・ウクライナ危機の影響で生活費の危機に苦しむ国へと下降する転換点だ」と指摘、戴冠式効果は短命に終わるかもしれないとの見方を示している。

チャールズ国王の伝記作家でジャーナリストのキャサリン・メイヤー氏は「国王はウィリアムとキャサリンにスムーズに引き継ごうとしている。保守的な英国で上院改革が全く進まないからと言って王室制度がいつまでも続くとは限らない。君主制が終わるとしたら、それはチャールズではなく、ウィリアムとキャサリンの代だろう」と警鐘を鳴らす。

メーガン夫人は英王室を脅かす「静かなる危機」の導火線かもしれない。


この記事の関連ニュース