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同盟国とは思えない、日本人へのアメリカの入国管理のひどい対応

ニューズウィーク日本版 2023年9月13日 16時40分

<近年、アメリカに入国しようとする日本人が「別室送り」になって取り調べを受けるケースが多数報告されるようになった>

日本とアメリカの間では、1988年にビザ免除が開始されて以来、人の往来はスムーズになりました。当初は、何も準備は必要なく、入国時にフォームに記入して、入管でスタンプをもらえば良かったのです。その後、21世紀に入ってESTAという「事前承認を得る」プログラムというのが始まります。これはテロ容疑者などブラックリストに乗っている乗客をチェックするためのものであり、一旦登録が受理されれば特に問題はありませんでした。

いずれにしても、日本のパスポートは世界で一番「滑りがいい」と長い間言われていたなかで、日本からアメリカへの渡航の際に「引っかかる」ケースというのは、多くのはありませんでした。

ところが近年、日本人がアメリカに入国しようとすると入国管理官に「別室送り」となって取り調べを受けるケースが多数報告されるようになっています。特に女性の一人旅がターゲットになっているようです。

「観光目的なのに、長期滞在するのではと疑われて徹底的な取り調べを受けた」
「大学の哲学科に入学するためと説明して、留学ビザを見せたのに、哲学など仕事にならない目的の留学は偽装に違いないと疑われて、長時間の取り調べを受けた」

などというケースを多く耳にするようになっています。これはかなり異常な事態です。日米関係は、二国間関係としては国際社会のお手本となるような緊密な関係です。また、日本はこれからさらに国際的な人材を育てるべく、国策としてアメリカへの留学生を増やす方針ですし、各企業の北米市場重視という戦略は、あらためて加速する局面に入っています。

トランプ政権以降の入国審査の厳格化

そんな中で、アメリカの入管はどうして、このような行動に出ているのでしょうか? 背景には3つの理由があると思われます。

1つは、2017年から21年初頭にかけて4年間続いたトランプ政権が、入国管理を厳重にしたことです。何が何でも「アメリカ・ファースト」だとして、インドなどから優秀な人材がシリコンバレーに来るのを止めるなど、経済界からは「知的な人材が足りない中で困る」という反発を受けても、ありとあらゆる移民枠を狭める政策が取られました。

バイデン政権になっても、この政策は全面的に解除されていません。そのため、少しでも長期滞在になる、つまりビザ免除期間を越えて違法滞在になりそうなケースは、徹底的に摘発するようになっているのです。

2つ目は、ビザ免除の対象となる渡航目的の定義です。日本人の場合に、まず「短期商用」というカテゴリがあります。日本の企業に勤務して日本で給与が出ており、アメリカ渡航は完全な出張であれば問題はありません。具体的には「会合、会議への参加、短期研修」であれば良いとされています。反対にアメリカにおける活動を理由とした報酬が払われるのであればビザが必要です。

そこで問題になるのが、ユーチューバーやインフルエンサーという人々です。あくまで日本市場向けの自営業であり、カネは全て日本国内で完結するし、アメリカでは映像と音声を伴うネタを収集するだけ、という場合が摘発されるべきかどうか、これは前例がないだけに問題となっているようです。

アメリカで活動した結果がカネになるのであれば全部ダメということですと、それこそジャーナリストが取材したり、食品産業の仕掛け人が参考のために食べ歩きをしたりするのもアウトになってしまいます。またユーチューブなどが米国企業だから、米国で活動して米国企業から報酬を受けるのでアウトだと認定された可能性もあります。これもGAFAが世界を席巻する中で、そのサービスを使って貢献しているだけなのに、「それはないだろう」と思います。

いずれにしても、この1番目と2番目については日米間の問題として、早急に問題をクリアにしておく必要があると思います。上川陽子・新外相は、それこそハーバードのケネディスクールの出身であり、米議会議員のオフィスに在籍した経験もあるようです。些細なことで、日米を行き来する多くの若者が「入管の別室送り」という極めて不愉快な経験をしているのであれば、是非とも外交チャネルを活用して状況を改善していただきたいと思います。

女性への「人身売買」容疑

問題は3番目です。女性の一人旅が疑われる背景として、驚いたことに「隠れ風俗」に従事するために渡航しているのではないかという問題があるのだというのです。これは大変なことです。まず、若い女性の一人旅なら売春目的という決めつけ方は、何よりも女性差別であり、人種差別であり重大な人権侵害です。そのような断定が幅広く行われているのであれば、これもまた外交チャネルを使って断固抗議すべきと思います。

その一方で、本当に日本からアメリカに渡航した日本人に、違法な売春をさせるようなある種の「トラフィッキング」が行われているのであれば、日米共同で徹底した摘発を行うべきです。とにかく、恒常的にこの種の犯罪行為が行われており、多くの日本人女性が送り込まれているのであれば、二国間関係の大きな障害になります。何としても摘発して、こうした組織は根絶しなくてはなりません。

日本側でできることは何なのか? 日米共同で可能なのはどんなことか? 法務大臣を2回務めている上川外相には、強制捜査として何が可能なのか、あるいはどんな立法が効果的なのか、是非とも知恵を絞っていただければと思います。とにかく、日本国の威信と日本女性の名誉がかかっています。この問題は待ったなしだと思います。


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