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やはり「グリーン」になれない中国...経済低迷を補うため「石炭発電への投資を奨励」と研究報告書

ニューズウィーク日本版 2023年9月16日 11時55分

<国外では化石燃料プロジェクトからの脱却を進める一方、国内では石炭発電所の増設が進んでいる>

「環境への配慮」をうたっている中国の「一帯一路」経済圏構想が今年、提唱から10年を迎えた。1兆ドル規模のこの構想は、過去最も環境に優しい投資だ。

習近平(シー・チンピン)国家主席は新たな交易路を結ぶという夢を抱いているが、一方でこの構想は参加国に持続不可能な債務を負わせ、ソフトパワーの交渉材料として利用し、環境基準が低いと攻撃されてきた。

環境面の非難を受け、中国は世界の化石燃料プロジェクトから撤退し始めている。しかし、国内の状況は異なる。

中国は温暖化ガス排出量を2030年までにピークアウトさせ、60年までに実質ゼロにすると約束している。国外の一帯一路の石炭エネルギープロジェクトへの資金提供は今年ゼロになった。

しかし、中国国内では「石炭ゼロ」の流れが逆転している。今年上半期には37ギガワット規模の新規石炭火力発電所の建設が始動。52ギガワット規模の建設プロジェクトが承認され、41ギガワット規模の建設を新たに発表し、保留していた8ギガワット規模の建設を復活させた。

習の公約を脅かす新規プロジェクトの乱発

米エネルギー省によると、1ギガワットは石炭発電所1基分、風力タービン310基分、LED電球1億個分に相当する。中国では現在、243ギガワットの石炭火力発電設備の容量が承認または建設中だ。

フィンランドのシンクタンク、エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)は最新の報告書で、現在の傾向が続けば、中国は排出量目標の達成に苦労すると指摘した。中国の石炭火力発電能力は22年の水準から23~33%増加する可能性があるという。

また、新規プロジェクトの乱発が、習の公約に基づく中国の石炭削減計画を脅かしていると述べている。

中国の公式政策は、クリーンエネルギーを電力網の「主力」とし、石炭は「補助的」な役割に移行すると約束。新たな石炭発電所は、大量発電の目的ではなく、電力網の安定と再生可能エネルギーの統合を支えるためだけに承認されるべきであるとしている。

中国の環境政策はパンダ・ドラゴン

しかし、CREAは「中央政府は、経済の他の分野の低迷を補う措置の一環として、ほぼ前提条件なしに石炭発電への投資を奨励しているとみられる」と結論付けた。

新型コロナウイルスのパンデミックが発生した20年初め、政府は経済活動を下支えするため、石炭火力発電の承認を初めて緩和した。

中国は石炭発電以外にも投資している。CREAの報告書によれば、今年、太陽光発電は150%、風力発電は80%増加している。「中国は7月末に原子力発電所6基も承認した。それでも何百基もの新たな石炭発電設備が、中国の気候変動対策を複雑で高コストにしている」

豪グリフィス・アジア研究所のクリストフ・ネドピル・ワン所長は、「中国は20年以降、例外を除き国外では石炭発電を行っていない。だが、国内の状況は異なり、石炭への依存は増えている」と言う。中国は、再生可能エネルギーも同時に拡大しており、こうした環境への取り組みを彼は「パンダ・ドラゴン」と呼ぶ。「一長一短がある。中国は環境に対して優しいパンダなのか、それとも毒を吐き自然現象を操るドラゴンなのか。その両方のようだ」

チャールズ・ラベリー

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