Infoseek 楽天

欧米に傾斜しすぎる日本、グローバルサウス争奪戦に参加せよ

ニューズウィーク日本版 2023年9月14日 17時14分

<ウクライナ問題における日本の欧米への深いコミットメントは、多くの欧米の知人からの疑問の的となっている。一見、欧米との連携を強化するものとして受け取られがちだが、その背後にはどのような戦略や狙いがあるのだろうか。また、日本が真に求めるべき外交の方向性とは何か......>

「なぜ日本はウクライナ問題で欧米に過剰にコミットするのか、一体何が狙いなのか」、このような感想を筆者の欧米の知人から質問されることがある。ウクライナ戦線の現地からロシア軍との貴重な実戦データや戦訓といった見返りを十分に受けられず、欧州のようにエネルギーを第三国経由で入手しない日本を欧米人は非常に不思議に思っているから、こうした質問がされるのだ。

岸田政権の欧米寄りの外交方針

岸田政権が今年5月にG7広島サミットでゼレンスキー大統領を日本に招いた上、欧米諸国のリベラルな価値観を前面に押し出した「G7広島首脳コミュニケ」を取りまとめたことは記憶に新しい。

もちろん、西側欧米諸国の「不倶戴天の敵」はロシアであるため、彼らにとって岸田政権がウクライナ支援で欧米諸国に過剰に肩入れすることは望ましいことだ。そのため、「日本にそこまで期待していないよ」とわざわざ伝えてくる国はない。

たしかに、安倍政権以来の日本の外交努力もあって、近年では欧州諸国の艦艇が日本に寄港し、彼らの太平洋地域の秩序に対する関心が高まっていることは事実だ。NATOと自衛隊の情報共有も徐々に改善し、NATO最大の航空軍事演習への高官派遣時の情報共有やサイバーセキュリティ・宇宙空間・偽情報分野での情報共有などの協力関係も始まっている。これは歓迎すべきことだ。

そして、岸田政権がウクライナ支援にのめり込む理由は、中国の影響力拡大を抑止する観点から欧州各国からのコミットメントを確実にすることが狙いだ。だが、米国は日本の付属品であると思われていれば、日本と真面目に交渉する国など存在しない。2年前のニューヨークタイムズでは外務省から岸田首相が『チワワ』と綽名されていると中谷元元防衛大臣の発言が報じている。欧米の外交官から見れば、現状の岸田外交の振る舞いは行儀が良い『チワワ』という表現が的確だ。

岸田政権は一度立ち止まって、自らの立ち位置を再認識するべきだ。

日本の真の立場:欧米との関係性

日本人は勘違いしがちであるが、日本は欧米諸国の一員ではない。日本は極東アジアの一か国に過ぎない。NATO事務局は東京に連絡事務所を設置することを進めていたが、フランスのマクロン大統領が「インド太平洋は北大西洋ではない」と反対した。フランスと経済的な関係の強い、中国政府からの強烈な要請もあった結果と見做すべきだ。その結果として、同設置案は採択に必要な全会一致の賛成を得られず、今後の継続検討の課題となってしまった。そしておそらく設置されることはほぼないだろう。

本件は表面的にはフランスが反対したという形を取ったが、NATO加盟国には日本に対して同じ感想を持つ国が多いことは容易に想像できる。当たり前だが、彼らは日本との軍事協力を必要以上に深めて、東アジアで余計な戦線を持ち、中国共産党を刺激し中国市場と中国資本を失うほどお人好しではない。 岸田政権がロシアだけでなくグローバルサウス全体にまで説教をする態度をとり、全力でウクライナ支援にのめりこんでいるのとは対照的な冷徹ぶりだ。

しかも、ドイツとポーランドは今年6月までドルジバパイプライン経由でロシアのエネルギーを輸入しており、6月以降も第三国のエネルギーをロシア経由で輸入している。 また現在のドイツはイランからエネルギーを輸入しているが、その利益はイラン製自爆ドローンの量産に使われ、ロシアに供与されてウクライナ市民を殺害している。こうした冷徹でリアリスティックな姿勢や考え方が日本政府や日本人にはないのは大きな問題だ。

さらに、岸田政権はバイデン政権や欧州諸国の方針に過剰に合わせることで、何かを得るどころか、本来得るべきであった重要な信頼を失っている。それはグローバルサウスの国々からの信頼だ。

グローバルサウスとの関係:日本の外交の新たな焦点

これらの国の欧米やロシアに対するアプローチは、まったく日本政府とは違うからだ。 国連の発表では、2023年度中にインドが中国を抜いて世界1位となる。しかし、今後、人口が増える国はインドだけではない。インド、ナイジェリア、パキスタン、インドネシア、エジプト、を筆頭にグローバルサウスの国々が経済力上昇を背景とした生活環境の改善を通じて人口爆発を起こしている。東南アジア、南アジア、中南米だけでなく、アフリカからも大量の中間層が形成されることで、地球の南北のバランスは大きく変わることになるだろう。そしてこれらの国々の中ではすでに人々の収入が、日本人を大きく抜いている国も出始めている。

こうしたことの認識も日本政府にはない。 グローバルサウスの国々は、ウクライナ戦争がもたらす資源高・食料高を必ずしも望んでおらず、対ロシアの政策においてまったく欧州諸国を支持していない。国連で反戦決議を取れば賛成するものの、経済制裁に参加していないことからもこれは明らかだ。ロシアの行為を否定することと、経済制裁に参加せず自国民の経済を守ることは両立するということだ。 さらに、文化的・政治的に保守的な国も多く、バイデン政権や欧州諸国が押し付ける過剰にリベラルな価値観を受け入れることは決してない。

グローバルサウスの中心は中国、インド、ブラジル(及びロシア)だ。彼らはBRICsの枠組みを拡大することで、欧米抜きで自分たちの影響力を強めている。8月に南アフリカのヨハネスブルクで開催された第15回BRICS首脳会議のテーマは「BRICSとアフリカ-相互協力による成長、持続可能な開発、包括的な多国間主義のためのパートナーシップ」であった。同枠組みへの参加国は拡大する見通しであり、既に約20か国が公式に加盟申請し、さらに20か国以上が参加に関心を示している。

また、中国はサウジアラビア及びイランの手打ちを仲介して中東地域でのプレゼンスを伸ばしつつある。これは米国の中東に対するプレゼンスが相対的に低下していることの裏返しだ。(まして、安倍首相のイラン訪問中にタンカーが襲撃された日本外交とは大違いだ。) フランスの影響力が減退しているアフリカ諸国ではイスラム系テロリストに対抗するためにロシアを頼りにする向きも少なくない。欧米諸国の軍事支援は限定的である上、ロシアが支援の条件としてリベラルな価値観を押し付けないことは極めて重要な要素となっている。

インドにおいて開催されたG20の裏側で、2023年9月10日よりロシアのウラジオストクで東方経済フォーラムが開始された。ウクライナ侵攻で疲弊した大陸国家のロシアの国際会議にすら中国や北朝鮮やベラルーシといった国だけでなく、インド、ベトナム、カザフスタン、ラオス、ミャンマー、シンガポール、フィリピンといった国々が参加しているのが実態だ。今後、この国際会議にも参加国が戻ることはあっても減ることはないだろう。

日本の外交政策の誤解と修正の必要性

日本は欧米から見れば遠く離れた極東アジアの地にある異国に過ぎない。しかし、当の本人たちは自分たちが対等の立場の一員として扱われていると錯覚している。 特に岸田政権の外交政策の勘違いぶりは、日本の対グローバルサウス外交の強みを決定的に傷つけている。

具体例を挙げるなら、ODA大綱に2023年度に追加された『ジェンダー主流化を含むインクルーシブな社会促進・公正性の確保』の原則」が含まれたことが挙げられる。バイデン政権、欧州各国、人権団体は首肯するかもしれないが、その原則追加について援助対象国が本音で求めているかは疑問だ。日本の対外的な援助が欧米リベラル風に変化して、それを喜ぶ援助対象国など本当にあるのだろうか。表面上の援助歓迎姿勢と実際の本音の差が著しいように感じる。

欧米のリベラルイデオロギーを全面に受容した外交を展開しても、欧米もグローバルサウスも日本を真の友人として受け入れることはないだろう。日本外交は日本人としての知恵を絞ったものに一皮むける必要がある。


この記事の関連ニュース