Infoseek 楽天

中国の見せる「夢」から、途上国が醒めはじめた...グローバルサウスの新リーダーはインドか?

ニューズウィーク日本版 2023年9月20日 17時36分

<カネと威嚇で途上国を取り込んできた習近平の計画に暗雲が。「共産主義+帝国主義+拡張主義」に見えた限界>

9月9~10日にインドの首都ニューデリーで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議は、ある重要な変化を象徴している。議長国インドが掲げた「ひとつの地球、ひとつの家族、ひとつの未来」という希望的すぎる宣言の背後に、グローバルサウスのリーダーシップをめぐる中国とインドの激しい争いがあるということだ。

10年前は、この分野でインドが中国の本格的な競争相手になるとは想像もつかなかった。それが今や、両国は世界の大きな変化の先端で交錯している。

中国は少なくとも1960年代の初め以降、西側に対抗する途上国の擁護者を自称してきた。毛沢東が掲げた「農村から都市を包囲する」戦略は、30年代の内戦で国民党政権を倒した勝利の方程式でもあった。

新しい方程式では、打倒するべき「都市」はアメリカが主導する先進国、「農村」はそれ以外の国々で、共産主義の中国は自然の摂理により「農村」側の指導者・救世主となる。アメリカは最終的に征服され、中国が宇宙の中心に返り咲くはずだった。

しかし、毛はいくつかの途上国の反政府勢力にイデオロギー的なインスピレーションを与えたにすぎなかった(唯一の例外はのちに経営難に陥ったアフリカのタンザン鉄道だ)。76年に毛が死去すると、中国は彼の経済政策を放棄し、それから20年間は世界革命をうたうこともなかった。

その後、中国経済が持続的な高度成長に入るとすぐに、新しい共産党指導者を通じて古い帝国主義的な拡張主義が復活した。その意味を西側が理解していなかったことが中国をどのように利したのかは、太平洋島嶼(とうしょ)国を見ればよく分かる。

朝鮮戦争後、アジア太平洋におけるアメリカのプレゼンスは、中国が海洋上に設定した軍事的防衛ラインである「列島線」に基づく戦略を取ってきた。沖縄、台湾、フィリピンを結んで南シナ海に至る第1列島線沿いの同盟国を強化して、共産主義の進撃を阻止するというものだ。第2列島線と第3列島線でも(その間に多くの太平洋島嶼国が存在する)、同様に中国の封じ込めを試みている。

しかし一方で、アメリカは70年代に第1列島線の一部を放棄し、台湾とフィリピンの米軍基地を手放した。さらに、冷戦勝利後の財政赤字削減計画の一環として、93年のソロモン諸島をはじめ23の途上国で米大使館を閉鎖した(ソロモン諸島の大使館は今年2月に再開)。

世界の3大水路を押さえる

こうして西側の太平洋外交が混乱するなか、中国は太平洋島嶼国をやすやすと口説き落とした。キリバス、トンガ、バヌアツなど大半は小さな貧しい国で、賄賂を織り交ぜた中国のわずかな金が大きな効果を発揮している。ソロモン諸島は今年7月に中国と警察協力協定を締結しており、今後は中国の海軍基地を受け入れるかもしれない。

30年足らずの間に、中国は柔軟な手法を用いながらグローバルサウスで高い支持を集めてきた。中南米のボリビアやキューバ、ベネズエラなど、反米主義やマルクス主義的な傾向のある政権には、中国共産党中央対外連絡部の要員を送り込んでいる。

中国にとって、グローバルサウスへの投資がもたらす地政学的な見返りは大きい。なかでも重要なのは、香港の企業を通じてパナマ運河両端の港の管理権を確保したこと、アフリカ東部ジブチに海軍基地を開設したこと、そして、マラッカ海峡の西の入り口にあるミャンマー領の大ココ島に軍事施設を建設したことだ。南シナ海の人工島に既に設置している軍事施設と合わせて、中国は世界3大水路の戦略的難所で通航妨害を行えるようになった。

さらに、100以上の途上国が、習近平(シー・チンピン)国家主席の「一帯一路」構想の覚書に署名。一帯一路は潤沢な資金を提供する投資・融資プラットフォームであり、グローバルサウスへの浸透を図る主要な手段である。

ただし、中国の勢いはいくつかの理由で弱まりつつつある。まず、南シナ海での攻撃性は沿岸諸国を警戒させ、平和的台頭という主張が偽りであることを証明している。中国の海洋帝国主義の犠牲になったフィリピンは、中国との実りなき盟約を捨ててアメリカ陣営に復帰した。

さらに、国家が支配する目標主導で投資と輸出に偏重した経済は、機能していない。最近の債務危機とパンデミックからの回復の失敗は、今後の見通しも厳しいことを物語る。

その結果、一帯一路のインフラプロジェクトで中国政府からの資金が枯渇し始めている。また、グローバルサウス、特にアフリカは、中華思想が人種差別と表裏一体であることに気付くようになった。

そして、西側と中国は互いに敵視を強めており、途上国は巻き込まれることを警戒している。ブラジルとインドは、BRICSの拡大が、中国による世界経済秩序の破壊を手助けしていると不満を見せている。

パキスタンに兵器を次々供給

このような状況で、インドは中国に代わってグローバルサウスのリーダーとなる態勢を整えている。インドは1950年代の冷戦下で中立主義と反植民地主義を掲げた非同盟運動の創設メンバーであり、その一貫した代弁者である。人権問題を抱えてはいるが、世界最大の民主主義国家として、中国のような政治的抑圧は行っていない。

インドがグローバルサウスのリーダーを目指すことは、西側にも受け入れられる。西側は既に、中国からサプライチェーンを移転する主な行き先としてインドに注目している。

ただし、中国はインドの挑戦をおとなしく受けるつもりはない。軍事的には国境紛争をさらに誘発するだろう。インドのもう1つの敵国であるパキスタンには、既に戦闘機、誘導ミサイルフリゲート艦、攻撃型潜水艦を供給している。

中国がインドに与え得る最も危険な脅威は、チベット高原から流れる水資源を完全に支配することだ。それでも、こうした中国の脅威に対して西側も断固とした態度で臨めば、中国はインドの台頭を止めることはできないだろう。

重要なのは、グローバルノースとサウスの仲介者としてのインドの立ち位置に、西側がしびれを切らさないことだ。「冷戦2.0」の中国と西側の間で、ほかのグローバルサウスもインドに倣って中立を保つようになれば、インドは世界に大きな貢献を果たすことになる。問題は中国がそれを許すかどうか、だ。

練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)

この記事の関連ニュース