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ロシアに裏切られたもう一つの旧ソ連国アルメニア、アゼルバイジャンに「降伏」で涙呑む

ニューズウィーク日本版 2023年9月21日 18時7分

<アゼルバイジャンの軍事攻撃を止められない「同盟国」ロシアにアルメニア人の不満が爆発>

アルメニアの首都エレバンでは、隣国アゼルバイジャンが係争地ナゴルノカラバフを攻撃しても何もしなかった「同盟国」ロシアに対し市民の怒りが爆発した。市内各地を出発したデモ隊がロシア大使館前に集結して反ロシアのシュプレヒコールを上げた。

<動画>ナゴルノカラバフ、怖すぎる真夜中の砲撃音

アゼルバイジャン軍は9月19日、アルメニア人勢力が実効支配するナゴルノカラバフで「対テロ作戦」と称する軍事行動を開始したと発表。この地域はアゼルバイジャンとアルメニアの間に横たわる山岳地帯で、国際的にはアゼルバイジャンの領土とされているが、約12万人の住民の大半はアルメニア人で、「アルツァフ共和国」として一方的に独立を宣言している。

アルメニアとアゼルバイジャンは長年、この地の帰属をめぐり紛争を繰り返してきた。直近では2020年に大規模な軍事衝突が勃発。その後にロシアは紛争の再燃を防ぐためナゴルノカラバフに平和維持部隊を派遣した。だが兵員2000人強のロシア部隊は停戦監視の任務をまともに遂行できず、ロシア主導の「集団安全保障条約機構」(CSTO)の加盟国であるアルメニアは、集団防衛の義務を果たしていないとしてロシアを激しく批判していた。

アゼルバイジャン軍が攻撃を始めたその日、エレバンのロシア大使館前に集結したデモ隊は、ロシアこそ「アルメニアの最大の敵」だと怒りをぶちまけた。「ロシアの政策がこの惨事を招いた」と、デモ参加者の1人はAFPに語った。「(ナゴルノカラバフを)守る気がないのなら、さっさと出て行ってほしい」

Another proof of the truth: #Russia always betrays everyone. And Russian "peacekeeping" or "membership in the Russian-centered #CSTO" is an inevitable stab in the back in a crisis situation. Unless, of course, you are willing to delegate part of your agency and sovereignty to...— Михайло Подоляк (@Podolyak_M) September 19, 2023
ウクライナ大統領府のポドリャク顧問「(アルメニアを見捨てたことは)ロシアはいつでも誰でも裏切ることの証拠だ」

ロシアはアルメニアとの絆を強調

デモ隊はアルメニアのニコル・パシニャン首相の退陣も要求。首都中心部の官庁ビルを包囲し、治安警察と衝突した。

ロシア大使館のアレクサンドル・グチコフ報道官は、ロシア政府のプロパガンダを流すテレビ番組『ソロビヨフ・ライブ』の取材に応じ、状況は「緊迫」しているが、デモ隊が大使館に直接的な攻撃を加えるようなことはない、と述べた。

「ロシアとアルメニアの人々は何世紀もの歴史と多方面に及ぶ太い交流ネットワークで結ばれている。たった一晩であっけなく壊れるような関係ではない」──地元メディアはグチコフの発言をこう伝えた。

アゼルバイジャン軍は、ナゴルノカラバフで地雷が爆発し、兵士4人と民間人2人が死亡したとの報告を受けて「対テロ作戦」を開始、ナゴルノカラバフのアルメニア人「分離主義者」たちの軍事施設を攻撃した、と主張した。

直後に、ドローン(無人機)やミサイルの攻撃を受けるナゴルノカラバフの様子を捉えた動画がソーシャルメディア上に出回った。アルメニア側が「アルツァフ共和国」の首都と称する、ナゴルノカラバフの主要都市ステパナケルトでは、空襲警報に続いて、砲撃音が鳴り響き、多数の死傷者が出た。

アメリカ、ロシア、EUはじめ国際社会は即座にアゼルバイジャンに作戦中止を呼びかけた。アントニー・ブリンケン米国務長官はアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領と電話で協議し、「アゼルバイジャンに対し、ナゴルノカラバフにおける軍事行動の即時停止と事態の沈静化を促した」と米国務省が発表した。

ロシア外務省は、「われわれは紛争の両当事者に対し、今すぐ流血の惨事を止め、交戦行為を停止し、民間人の犠牲をなくすよう求めた」と述べた。

今回の攻撃は、ナゴルノカラバフ紛争がさらに激烈な新局面に突入する引き金となりかねない。2020年に起きた衝突はアゼルバイジャン側の勝利で終わった。1990年代に両国が旧ソ連から独立して以来、2度目の大規模な戦闘だった。

2020年の停戦協定で、ロシアの平和維持部隊はアルメニアとナゴルノカラバフを結ぶ唯一の幹線道路であるラチン回廊道沿いに展開することになったが、ロシア軍はこの道路を守りきれなかった。アゼルバイジャン軍は昨年12月この道路を封鎖。ナゴルノカラバフに住むアルメニア人は外界から孤立し、食料や医薬品不足にあえぐことになった。

ロシアは長年にわたりアルメニアを影響下に置き、それを足がかりとして、広く南カフカス地域全体を勢力圏に組み込もうとしてきた。そのためアルメニアに軍事基地を置き、CSTOの同盟国として軍事支援を行ってきた。ロシアはアルメニアの最大の武器供与国だ。

だが今やロシアは及び腰で、アルメニア側では不信感が募っている。

「ロシアに頼り過ぎたのは誤りだった」

アルメニアのパシニャン首相は今月、アゼルバイジャン軍の攻撃開始前の段階で、ロシア軍の庇護に頼りすぎたことは間違いだったと悔やんだ。「アルメニアの安全保障体制は武器弾薬の購入も含め、99.999%ロシア頼みだった」と、パシニャンはイタリアの有力紙レプブリカに語った。

「だが今はロシア自体が(ウクライナ戦争で)武器弾薬を必要としている。この状況では、たとえロシアにその気があっても、アルメニアの防衛ニーズに応えられないことは理解できる。この例からわれわれは学ばなければならない。安全保障でただ1国のパートナーを頼りにするのは戦略的なミスだ」

アルメニア安全保障会議のアルメン・グリゴリアン書記は9月20日、集団防衛の義務を怠ったロシアに不信感を露わにし、「ロシアは長年、アゼルバイジャンと手を組んできた」と言い切った。

「その証拠に、ロシアの平和維持部隊にはナゴルノカラバフを守る義務が明らかにあるにもかかわらず、アゼルバイジャン軍が攻撃してきたときに何ら行動を起こそうとしなかった」

本誌はこの件についてロシア国防省にメールでコメントを求めている。

<追記>アゼルバイジャンとナゴルノカラバフのアルメニア系勢力は9月20日、停戦で合意した。武装解除やアルメニア軍の撤退も受け入れ、アルメニア側の事実上の敗北だった。死者は200人、停戦後も散発的な攻撃や非難の応酬が続いている。

<動画>トラックを並べて道路を封鎖、嘆く人権活動家
"A modern day tragedy" Baroness Cox, Founder President of Humanitarian Aid Relief Trust (HART), reports from the frontline of Armenia -- where a convoy of humanitarian trucks is blocked from delivering life-saving aid to #NagornoKarabakh pic.twitter.com/oADzIitpMo— HART - Humanitarian Aid Relief Trust (@HARTnews) September 14, 2023

<動画>アルメニアの首都エレバンで抗議デモ、首相辞任など求める
Protesters demand the resignation of Armenian Prime Minister PashinyanMeanwhile, the Azerbaijani army broke through the line of contact with Armenian forces in Nagorno-Karabakh in several places, Azerbaijani presidential foreign policy adviser Hikmet Hajiyev told Reuters. The... pic.twitter.com/nWe3MOW2Ds— NEXTA (@nexta_tv) September 19, 2023
Protests in Yerevan, the capital of Armenia, have turned violent. Armenians are demanding the resignation of PM Pashinyan. They claim he has failed to protect Armenians in the disputed Nagorno-Karabakh region from Azerbaijan. pic.twitter.com/Pc3gh04QKm— Steve Hanke (@steve_hanke) September 21, 2023

Armenia is not going to launch military actions because of the situation in Nagorno-Karabakh, Armenian Prime Minister Nikol Pashinyan said.He emphasized that the republic has no army in Nagorno-Karabakh. " At the moment, we will not take any rash actions," the head of state... pic.twitter.com/hJP9L2qRIF— NEXTA (@nexta_tv) September 19, 2023



デービッド・ブレナン

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