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欧州で急増する移民...独裁国家の策略

ニューズウィーク日本版 2023年9月27日 12時20分

<EUと手を組むチェニジア、疑問が募るEUの行動とは?>

「作戦の標的は不満を抱く人の苦悩に付け込む密航業者だ」──チュニジア憲兵隊報道官は記者会見でそう語った。

チュニジア当局は9月16日、欧州を目指すアフリカ人移民の主要な密航拠点である東部の港湾都市スファクスで、新たな取り締まりに乗り出した。チュニジアのサイード大統領が指示した今回の作戦の背景には、同国からイタリア南部のランペドゥーサ島へ渡る移民が、記録的レベルで急増している現実がある。

人口約6000人の島には、9月中旬の数日間だけで移民8000人以上が到着。その大半は、政情不安が続くブルキナファソやマリ、政治的・経済的に不安定なコートジボワール、ギニア、チュニジアやエジプトの出身者だ。

イタリアには今年、既に移民約13万人が上陸している。昨年の同じ期間の2倍を超える人数だ。同国当局によると、そのうち7割がランペドゥーサ経由でやって来た。

EUとチュニジアは7月、移民対策を含む「覚書」に調印している。サイード政権は密航阻止やチュニジアから到着した不法移民送還の迅速化を約束し、計10億ユーロの経済・財政支援拠出を確約された。

今年2月、サイードは「不法移民の大群」が犯罪を生み、アラブ人中心のチュニジアの人種・民族構成を組み替える陰謀の一端を担っていると、国家安全保障会議で発言。それをきっかけに、国内にいるサハラ以南出身の黒人アフリカ人への攻撃が増加した。

9月16日の取り締まりでは、憲兵隊が移民の暮らす住宅に乗り込み、密航業者のボートを押収。複数のNGO(非政府組織)によれば、少なくとも2000人の黒人アフリカ人移民が対リビア・アルジェリア国境地帯の砂漠に追放された。

一方、EUは同じ週末、国境警備に協力し、チュニジア船舶17隻を捜索救助用に転換する支援を加速すると発表した。

だが、特にサイードのような独裁的指導者と取引すれば、それなりの結果が伴う。9月前半には、チュニジアにおける民主主義の後退を批判していた欧州議会議員らが、チュニジア入国を拒否された。

EU機関の活動について調査する欧州オンブズマンは9月13日、チュニジアとの「覚書」の疑問点を示し、欧州委員会に3カ月以内の返答を求めた。その1つが、EUの援助が人権侵害の資金にならない保証はあるかという点だ。

国境なき医師団は、チュニジアと合意したEUは移民の死や虐待の直接的な「加担者」になると非難。トルコやリビアと結んだ「破壊的合意」の再現だと指摘している。

かつて欧州への玄関口だったリビアでは、17年にEUとイタリアがリビア沿岸警備隊(主に民兵から成る集団だ)への資金提供を開始して以来、移民収容施設でのレイプや奴隷制、拷問が取り沙汰された。チュニジアが主要な出発地になったのは、別の密航ルートが求められた結果だ。

非難にもかかわらず、移民流入に悩む欧州はアフリカの独裁的国家と手を組む道を探り続けている。現在、モロッコとの協定締結作業が進行中で、エジプトとも合意を結ぶ可能性が報じられている。

リスクは高くても、アフリカの人々は今後も密航を試み続ける。彼らの多くにとって、故国でのチャンスは限られているからだ。故国で早すぎる死を待つか、溺死覚悟でよりよい人生を目指すか......。インフラや治安、医療へのアクセスが得られない限り、彼らの究極の選択は終わらない。

From Foreign Policy Magazine

ノズモット・グバダモシ(ジャーナリスト)

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