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来日したフランスの女性議員が衝撃を受けた、日本における「学校と政治のかかわり」

ニューズウィーク日本版 2023年9月29日 17時36分

<日本で高校生たちと率直に議論した仏下院議長。「政治家が学校に行って民主主義の重要性を語るのは欠かせないことだ」と語った>

先日、東京国際フランス学園を訪問した。主にフランスの幼稚園、小学校、中学校、高校のカリキュラムに沿ってフランス語で教育をする学校であり、3~18歳の生徒たちは日仏ハーフが多い。今回は取材が目的で、来日したフランス国民議会(下院)のヤエル・ブロン・ピベー議長に同行した。

国民議会初の女性議長である彼女はその日、高校の2~3年生と対話するためにフランス学園を訪れた。対話のテーマは「選挙および民主主義」。選挙や民主主義とは何かといったことだけでなく、民主主義が機能するためには具体的に何が必要なのかといった話もあった。

ブロン・ピベーは高校生にこう語りかけた。「あなたたちも政治に参加すべきだ。政治は日常生活に関わるのだから、政治家に任せることではない。われわれ政治家がいま決定することは、20年、30年、50年後の未来を左右する。それはわれわれが死んだ後のことだ。あなたたちの意見を聞かずに決定するのはよくない」

そして、彼女はいくつかの例を挙げた。1つ目は原子力。どこかの国が原子力発電所の建設を決定した場合、実際にその発電所を運転するのは現世代ではなく次世代になる。つまり、現世代が次世代の未来の一部を決めたということだ。

2つ目の例はコスタリカだ。コスタリカは軍隊も自衛軍もない国で、その代わり教育や社会保障制度に投資している。想像しにくいかもしれないが、それも長い目で見た場合の一つの選択肢だ。

高校生が考える「若者の投票率が低い理由」

そういった大きな選択をするときには、国民も参加すべきだと議長は強調した。フランスでは選挙権年齢は18歳だが、16歳に引き下げるべきではないかという議論がある。これについて議長が当事者である高校生たちに聞いたところ、答えは圧倒的に「反対」だった。18歳でも投票率が低いのだから、16歳にして改善すると思わない、と。

では、なぜ投票率が低いのか。彼らの答えは大変興味深かった。マスコミが報道する政治のことは、高校生たちの興味のあるものではないという。

彼らは日本に住み、二重国籍を持つ人も多い。18歳になったら日本の選挙権も持つことになる。それでも、日本で政治家が学校を訪問して、議長と同じような話をすることはあまり考えられないだろうが、彼女にそう伝えたらとてもびっくりしていた。

「政治に参加することが民主主義の基礎だ」

「政治家が学校に行って、民主主義の重要性を語るのは欠かせないことだ。そうしないと、若者の政治離れを防げない。政治に参加することが民主主義の基礎だ」。そう話す彼女はエマニュエル・マクロン大統領率いる与党に所属し、マクロンの政策の支持者だが、高校生との議論のときにはそれを全く感じさせなかった。つまり、中立性のある議論ができていた。

日本の政治状況、特に女性議員の割合が低いことについての質問もあった。議長は逃げずに答えた。

「女性の政治家を増やすための方法はたくさんあるわけではない。まず、候補者や議席の一定数を女性に割り当てるクオータ制を法律で定めないと無理だ。積極的に女性を増やしたいという政治家の気持ちと行動も必要になる。また、より多くの女性が政治に参加するということは、男性の一部を追い出すことでもあると認識しないといけない。日本がその3つの要件を満たせるかどうかは分からないが、そうしないと女性議員の数を大きく増やすことは無理だ」

日本の学校でも、政治についてこんな自由な議論をすることが可能なのか。可能であってほしいと思うが、正直言って難しいだろう。政治家が授業の内容に関与してくるという点について、親の不安が避けられそうもない。

西村カリン
KARYN NISHIMURA
1970年フランス生まれ。パリ第8大学で学び、ラジオ局などを経て1997年に来日。AFP通信東京特派員となり、現在はフリージャーナリストとして活動。著書に『不便でも気にしないフランス人、便利なのに不安な日本人』など。Twitter:@karyn_nishi

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