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ようやくトランプ批判の合唱が始まった、第2回共和党予備選テレビ討論会

ニューズウィーク日本版 2023年9月28日 15時40分

<カオスだった前回と比べて、共和党を「脱トランプ」させようという明確な意思は見られた>

現地時間9月27日午後6時から、カリフォルニア州シミバレーで、共和党大統領選予備選候補による第2回のテレビ討論会が行われました。基本的に、討論の枠組みは同じでした。参加者は、前回の8名から1名減って(元アーカンソー州知事のハチンソン候補が失格)7名になりましたが、基本的には「トランプに挑戦するフロントランナーを選ぶ場」という位置付けは前回と同じです。

どういうことかというと、今回も世論調査1位のトランプは討論に参加しなかったからです。この間のトランプは、度重なる起訴のたびに支持を伸ばしたのに加えて、インフレ、難民問題、都市の治安悪化など「現職批判の流れ」を自分に引き寄せているようで、党内の支持率は60%に迫る勢いとなっています。

トランプは、過半数の支持を得ているのに発言時間は均等に割られるようなイベントには出ない、ということで前回と同じ理由を挙げてボイコットしています。ちなみに、前回は事前収録したインタビューをテレビ討論に「ぶつけて」公開していましたが、今回はデトロイト郊外で、全米自動車労組(UAW)の現会員、元会員を集めて演説を行っていました。

では、全米の関心はテレビ討論ではなく、デトロイトのトランプに向かったのかというと、そうではありません。前回の「インタビュー動画による裏番組潰し」は、ある程度話題になったのですが、今回の行動は全く注目されていません。

その一方で、トランプを欠いた共和党テレビ討論会は、前回とは異なる展開を見せました。終了直後の現時点では、まだ全国的な評価は入っておらず、あくまで感想を含めたメモを箇条書きしておくことにします。

ラムスワミは大人しい発言に終始

1)前回、司会は上手(ブレッド・ベイヤーなど)だった一方で、討論内容は多岐にわたって未整理だった。今回は、司会が慣れない経済記者(ベテランのスチュワート・バーニーなど)で、何度も大混乱に陥ったが、全体の討論は意外に整理された印象。

2)前回はアドリブで早口の放言を切れ味良く繰り出したビベック・ラムスワミ候補は、今回は大人しい発言ばかりで印象が薄かった。ヘイリーに、中国との協業をしていた過去を突っ込まれたのも不利な印象。

3)前回精彩を欠いた第2位のロン・デサンティス(フロリダ州)知事は、今回は良く準備しており、発言も多かった。内容は依然として、右派のイデオロギー満開だったが、視聴者に好印象を与えた。

4)今回、事前に「バイデンと一対一なら勝てる候補」という世論調査が出て、一気に期待の高まっていたニッキー・ヘイリー元国連大使は、落ち着いた持論の展開を上手くやってのけた。その一方で、攻撃の際のツッコミも鋭く、かなりポイントを稼いでいた。

5)明確なトランプ批判がかなり出てきた。急先鋒は、クリス・クリスティー元ニュージャージー州知事だったが、世論調査2位のデサンティスも、踏み込んだ批判を展開。ヘイリーは、この討論の少し前に厳しいトランプ批判のメッセージを公開。特に、今回も討論をボイコットしたことについては、ほぼ全員がトランプを批判。

6)全体として、議論の内容はどちらかと言えば穏健だった。例えば、移民問題は、南部国境問題になり、問題は麻薬密輸の話になって、移民排斥の議論にはならなかった。

7)中絶禁止の住民投票で敗れ続けた問題は、民主党の悪口ではなくリーダーシップ不在の反省(この問題に消極的なトランプへの批判)にすり替えられた。

8)ラムスワミの放言が封じ込まれたことで、ウクライナ支援への反対論はかなり抑え込まれた。

9)インフレの問題は、バイデンの悪口というよりも、原油価格の話になって、改めて国内の石油を掘れという話にすり替わっていた。

10)トランプ批判は全面解禁というムードだったが、4件の起訴、特に議会暴動への関与問題など具体的な罪状の話題はゼロ。党内の分断を避ける配慮があったか。

11)数回あった休憩時間(CMタイム)の間中、デサンティスとヘイリーは、ずっと2人だけの会話を続けていた。何らかの協定を模索している可能性があるという見方も。

「トランプ下ろし」が始まるか?

とにかく、筋書きが見られなかった前回の討論とは違って、全員がそれなりに「脱トランプ」を明確に宣言し始めたのは事実です。また、ウクライナ支援の問題、NATOなど西側同盟の維持など、基本的な政策については、団結して共和党を「トランプ前」の状態に戻そうという意思も感じられました。そうした意思というのは、おそらく今回の討論を担当したFOX、主催した共和党全国委員会、そしてメガドナーと呼ばれる高額献金者たちの間には、おそらくあるのだと思われます。

そうではあるのですが、現時点ではこの7名の支持率を合計しても、トランプにはまったく及ばないというのもまた現実です。本格的な予備選が始まるまで「まだ3カ月」あります。この間に、仮に民主党に世代交代の動きがあれば、共和党もこれを受けて本格的に「トランプ下ろし」が始まるかもしれません。

また、現在進行中の「つなぎ予算」問題で、共和党の右派は「政府閉鎖やむなし」という状況を人質に取って、議会全体を脅迫しています。これに対しては、共和党穏健派は民主党との妥協を模索し始めています。こうした議会の動きも、大統領予備選における「トランプ外し」と重なってくると思います。

いずれにしても、現在は60%の支持と一見盤石に見えるトランプ、また現職として無風状態にあるように見えるバイデンの2人とも、見えないところで「世代交代論」という爆弾を突き付けられているのは事実だと思います。今回の共和党テレビ討論で出てきた「反トランプの合唱」は、まだ大合唱には至っていません。ですが、残り3カ月の間には「何が起こるかわからない」というある種の予兆を感じさせるものではありました。


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