<語られていない黒人の歴史を明らかに──。第2次大戦末期に実在した黒人戦車部隊「第761戦車大隊」の記録を作品化して>
1950年頃、10代前半だった私は映画を見たり本を読んだりして過ごすことが多かったのだが、映画や本には自分のような黒人が一人の人間として描かれていないと考えるようになった。その後、映画のほうは黒人俳優のシドニー・ポワチエが登場したおかげでいくらかましになったが、それでも黒人を軽視した歴史に一石を投じる映画は皆無だった。
■【動画】歴史から抜け落ちた「黒人の功績」に改めて光を当てるドキュメンタリー『第761戦車大隊』
映画『グローリー』(89年)への出演を持ちかけられたときはうれしくて卒倒しそうだった。映画の舞台は内戦状態に陥ったアメリカだ。アメリカ人同士が南軍と北軍に分かれて戦い、健康で屈強な男たちが総動員され、しまいには第54マサーチューセッツ歩兵連隊(北軍初の正規に編成された黒人連隊の1つ)のような部隊が組織された。
この手の物語を映画にするのだと考えると興奮した。映画が完成にこぎ着けた後、映画を見た人たちから、本当に泣いた、アメリカで昔こんなことがあったなんて全然知らなかった、と言われた。
自分がそんな作品に関われたことが誇らしかった。いい刺激になり、意欲をかき立てられた。ほかにもある、と私は思った。人々が知らない歴史がまだたくさんある。だから続けよう。どうにかしてやれるのなら、やれ。前へ進むんだ。それが、おまえみたいな黒人も含めたアメリカの歴史をできる限り明らかにすることが、おまえの人生の目的になるかもしれない、と。
普通、熱中できるプロジェクトがあれば、どれだけ長い時間がかかっても実現しようと奮闘する。プロジェクトが始動しなければ、一時棚上げだ。それでも、遅かれ早かれチャンスは巡ってくる。何かの刺激、何かの出来事がきっかけになってプロジェクトが動き出すはずだ。
最前線で戦った黒人部隊
ヒストリーチャンネルで配信中のドキュメンタリー『第761戦車大隊:元祖ブラック・パンサー(The 761st Tank Battalion: The Original Black Panthers)』はまさにそんなプロジェクトだった。第2次大戦で戦闘任務に就いた初の黒人戦車部隊の物語だ。
構想が浮かんだのは数年前で、アメリカで最も成功したプロデューサー・監督の1人であるスティーブン・スピルバーグに話を持ちかけた。スピルバーグはこの物語を語ることの必要性を理解したが、何も始まらないうちに彼の状況が変わり、実現が遠のいた。
プロジェクトは棚上げになったものの、私たちは片時も忘れてはいなかった。動き出したのは、どういういきさつかは分からないが、監督のフィル・ベルテルセン、プロデューサーのジェームズ・ヤンガーとロリー・マクレアリーの力によるところが大きかった。彼らはこの物語を映画ではなくドキュメンタリーとして語ってもいいのではないかと考えた。
第2次大戦の最前線で多くの戦果を収めた第761戦車大隊 WILLIAM VANDIVERTーKEYSTONEーHULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES
この作品は第761大隊の全てを概説する。彼らの訓練内容、訓練期間、非常に厳しい訓練を積んだ理由、彼らがなぜ招集されたのか、フランスに到着した彼らの身に何が起きたのか。
第761大隊は仲間内では「バスタード・バタリオン(ろくでなし大隊)」と呼ばれ、必要に応じて所属が転々と変わり、常に歩兵連隊と行動を共にした。彼らはフランスに到着すると戦闘任務に就いて次々と戦果を上げたため、183日間連続で最前線に配備された。
数々の功績を残したにもかかわらず、彼らの戦功をたたえて賞が授与されたのは終戦から30年以上たってからだった。個人的には、黒人の歴史を軽視したことに対して、演壇に立って怒鳴りつけたい。黒人の歴史はアメリカの歴史だ。いまだに歴史から抜け落ちたままになっている部分を修正するのが今の私の仕事だ。
驚くべき真実が明らかに
私が子供の頃、ジェシーとウィリーという2人のおじが招集されて第2次大戦に従軍した。
幼かった私は何が起きているのかよく分かっていなかったが、戦争が起きていることは知っていた。当時はミシシッピ州に住んでいて、その後一家でシカゴに引っ越した。シカゴには夜間の空襲などに備えて灯火管制区域があり、屋内の光が外に漏れないようブラインドを全て下ろし、灯油ランプの明かりを落とした。
私が6歳半くらいの頃、おじたちの1人が太平洋で戦闘中行方不明になったと聞かされたのを覚えている。遺体が見つからないため戦死とは言えなかったのだ。
私は何年も2人のおじに関する記録を探したが、何一つ見つけることができなかった。ところが、監督のフィルが並外れた調査能力を発揮し、ウィリーが配備されたのは太平洋ではなくフランスだったことだけでなく、戦死でもなかったことを突き止めた。ウィリーは殺されたのだ。私たち制作チームは次回、この大いなるミステリーの解明に挑むつもりだ。
それらの記録は私にとって驚くべき発見で、おかげで実際には何が起きたのかが分かった。2人のおじがいなくなったとき私は6歳で、最後に彼らと会ったのは父方の祖母が死んで葬儀のために彼らが帰郷したときだ。2人とも軍服を着ていた。その後の消息は噂や人づてに聞くばかりだった。
自分が発見したことについて感じたことをどう表現したらいいか分からないが、真実を突き止め、「誰が」「何を」「どこで」「なぜ」を知るのは喜ばしいことだ。第761大隊のような大隊が当時しかるべき評価を与えられていたら、アメリカの社会状況はきっと違っていたはずだ。
黒人は注目に値するような重要な功績は全く残していない、と多くの人が考えている。しかし、それは歴史から抜け落ちているにすぎない。
これは私たちの物語。私たち全員の、ありのままの私たちの物語である。この物語はアメリカの歴史なのだ。
モーガン・フリーマン(俳優)
1950年頃、10代前半だった私は映画を見たり本を読んだりして過ごすことが多かったのだが、映画や本には自分のような黒人が一人の人間として描かれていないと考えるようになった。その後、映画のほうは黒人俳優のシドニー・ポワチエが登場したおかげでいくらかましになったが、それでも黒人を軽視した歴史に一石を投じる映画は皆無だった。
■【動画】歴史から抜け落ちた「黒人の功績」に改めて光を当てるドキュメンタリー『第761戦車大隊』
映画『グローリー』(89年)への出演を持ちかけられたときはうれしくて卒倒しそうだった。映画の舞台は内戦状態に陥ったアメリカだ。アメリカ人同士が南軍と北軍に分かれて戦い、健康で屈強な男たちが総動員され、しまいには第54マサーチューセッツ歩兵連隊(北軍初の正規に編成された黒人連隊の1つ)のような部隊が組織された。
この手の物語を映画にするのだと考えると興奮した。映画が完成にこぎ着けた後、映画を見た人たちから、本当に泣いた、アメリカで昔こんなことがあったなんて全然知らなかった、と言われた。
自分がそんな作品に関われたことが誇らしかった。いい刺激になり、意欲をかき立てられた。ほかにもある、と私は思った。人々が知らない歴史がまだたくさんある。だから続けよう。どうにかしてやれるのなら、やれ。前へ進むんだ。それが、おまえみたいな黒人も含めたアメリカの歴史をできる限り明らかにすることが、おまえの人生の目的になるかもしれない、と。
普通、熱中できるプロジェクトがあれば、どれだけ長い時間がかかっても実現しようと奮闘する。プロジェクトが始動しなければ、一時棚上げだ。それでも、遅かれ早かれチャンスは巡ってくる。何かの刺激、何かの出来事がきっかけになってプロジェクトが動き出すはずだ。
最前線で戦った黒人部隊
ヒストリーチャンネルで配信中のドキュメンタリー『第761戦車大隊:元祖ブラック・パンサー(The 761st Tank Battalion: The Original Black Panthers)』はまさにそんなプロジェクトだった。第2次大戦で戦闘任務に就いた初の黒人戦車部隊の物語だ。
構想が浮かんだのは数年前で、アメリカで最も成功したプロデューサー・監督の1人であるスティーブン・スピルバーグに話を持ちかけた。スピルバーグはこの物語を語ることの必要性を理解したが、何も始まらないうちに彼の状況が変わり、実現が遠のいた。
プロジェクトは棚上げになったものの、私たちは片時も忘れてはいなかった。動き出したのは、どういういきさつかは分からないが、監督のフィル・ベルテルセン、プロデューサーのジェームズ・ヤンガーとロリー・マクレアリーの力によるところが大きかった。彼らはこの物語を映画ではなくドキュメンタリーとして語ってもいいのではないかと考えた。
第2次大戦の最前線で多くの戦果を収めた第761戦車大隊 WILLIAM VANDIVERTーKEYSTONEーHULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES
この作品は第761大隊の全てを概説する。彼らの訓練内容、訓練期間、非常に厳しい訓練を積んだ理由、彼らがなぜ招集されたのか、フランスに到着した彼らの身に何が起きたのか。
第761大隊は仲間内では「バスタード・バタリオン(ろくでなし大隊)」と呼ばれ、必要に応じて所属が転々と変わり、常に歩兵連隊と行動を共にした。彼らはフランスに到着すると戦闘任務に就いて次々と戦果を上げたため、183日間連続で最前線に配備された。
数々の功績を残したにもかかわらず、彼らの戦功をたたえて賞が授与されたのは終戦から30年以上たってからだった。個人的には、黒人の歴史を軽視したことに対して、演壇に立って怒鳴りつけたい。黒人の歴史はアメリカの歴史だ。いまだに歴史から抜け落ちたままになっている部分を修正するのが今の私の仕事だ。
驚くべき真実が明らかに
私が子供の頃、ジェシーとウィリーという2人のおじが招集されて第2次大戦に従軍した。
幼かった私は何が起きているのかよく分かっていなかったが、戦争が起きていることは知っていた。当時はミシシッピ州に住んでいて、その後一家でシカゴに引っ越した。シカゴには夜間の空襲などに備えて灯火管制区域があり、屋内の光が外に漏れないようブラインドを全て下ろし、灯油ランプの明かりを落とした。
私が6歳半くらいの頃、おじたちの1人が太平洋で戦闘中行方不明になったと聞かされたのを覚えている。遺体が見つからないため戦死とは言えなかったのだ。
私は何年も2人のおじに関する記録を探したが、何一つ見つけることができなかった。ところが、監督のフィルが並外れた調査能力を発揮し、ウィリーが配備されたのは太平洋ではなくフランスだったことだけでなく、戦死でもなかったことを突き止めた。ウィリーは殺されたのだ。私たち制作チームは次回、この大いなるミステリーの解明に挑むつもりだ。
それらの記録は私にとって驚くべき発見で、おかげで実際には何が起きたのかが分かった。2人のおじがいなくなったとき私は6歳で、最後に彼らと会ったのは父方の祖母が死んで葬儀のために彼らが帰郷したときだ。2人とも軍服を着ていた。その後の消息は噂や人づてに聞くばかりだった。
自分が発見したことについて感じたことをどう表現したらいいか分からないが、真実を突き止め、「誰が」「何を」「どこで」「なぜ」を知るのは喜ばしいことだ。第761大隊のような大隊が当時しかるべき評価を与えられていたら、アメリカの社会状況はきっと違っていたはずだ。
黒人は注目に値するような重要な功績は全く残していない、と多くの人が考えている。しかし、それは歴史から抜け落ちているにすぎない。
これは私たちの物語。私たち全員の、ありのままの私たちの物語である。この物語はアメリカの歴史なのだ。
モーガン・フリーマン(俳優)