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世界で最も深海に住む「奇妙な姿」のタコを発見...世界的なアニメキャラに似た外見からついた呼び名は?

ニューズウィーク日本版 2023年9月30日 16時6分

<海底を探査する無人潜水艦のカメラが映し出したのは、これまで発見された中で最も深い海の底に生息する奇妙な姿のタコだった>

深海探査のライブストリーミング中に、珍しくてかわいいタコが発見され、研究者たちを喜ばせた。海洋探査トラストのユーチューブチャンネル「EVノーチラス」のライブストリーミング中、画面に現れたのは「ダンボオクトパス」と呼ばれるタコ。海底を探査するROV(遠隔操作型無人潜水機)「ヘラクレス」のカメラに収められた。

■【動画】深海の撮影中に現れ、大きな「耳」を羽ばたかせるように泳ぐダンボオクトパスの姿

この奇妙なタコは、水深1683メートル、つまり、海面から約1マイルの地点で、ROVの上を漂っていた。撮影された場所は、中部太平洋の北西ハワイ諸島。約150万平方キロに及ぶ海洋保護区「パパハナウモクアケア海洋ナショナル・モニュメント」にある、無名の海山からほど近い場所だ。

このタコが遠隔カメラの視界に入ってくると、海上にいた探査船(EV)ノーチラスの乗組員が「ワォ、ライブで見られるなんてうれしいなあ」と喜ぶ声が聞こえた。「あのパタパタ動く耳を見てみなよ!」

始めのうち、研究者たちはタコがあまりに青白いことに驚いていたが、次第に明るい光と暗い海のコントラストのせいかもしれないと気がついた。「背景が真っ青で、そこに光が反射しているから、実際よりもさらに白く見えるんだろうね」と、ある乗組員は話している。

EVノーチラスの研究者たちは、海底から20メートルほどの地点を漂っていたこのタコについて、ダンボオクトパスの可能性が高いと考えている。研究者の一人は動画の中で、「ジュウモンジダコの一種のようだ」と語っている。「素晴らしい眺めだ」

羽ばたく「ひれ」がディズニーのキャラのよう

ダンボオクトパスは、深海に暮らすヒゲダコ亜目メンダコ科ジュウモンジダコ属の総称で、羽ばたく「ひれ」がディズニー映画の有名なゾウ「ダンボ」の大きな耳に似ていることから、このような愛称が付けられた。最も深い場所に生息するタコと考えられており、水深約1000~4000メートルで確認されている。深海で暮らしているため、めったに出会うことができないタコだ。

海洋探査トラストは、声明の中で次のように述べている。「このダンボオクトパスは、中部太平洋の深海でよく見られる底生の(海底に暮らし、海底の近くを泳ぐ)ヒゲダコで、海洋探査トラストは過去数年にわたって探査を続けてきた」

「ダンボオクトパスは、あの有名なダンボの耳に似たひれを使って水中を進み、カイアシ、ワラジムシ、多毛類、端脚類など、さまざまな深海生物を探して丸呑みする」

ダンボオクトパスは、その希少さゆえに、確実に種を存続させる独創的な方法を持っている。ほかのダンボオクトパスに遭遇するめったにないチャンスを生かすため、雌はさまざまな発育段階の卵を持ち運んでおり、受精に適した環境に出会うまで、精子を長く保存しておくこともできる。そして、海底の硬い面に産卵する。

しかし、こんな水圧の高い深海で、彼らはなぜ生きていけるのか。ダンボオクトパスのような深海生物は、人が使っている深海探査艇とは異なり、構造的に高圧に耐える必要はない。

深海の動物が水圧で潰されることがない理由

英サウサンプトン大学の教授で、海洋探査とサイエンスコミュニケーションを専門とするジョン・コプリーは本誌の取材に対し、「深海に暮らす動物たちが、深海の圧力で押しつぶされることはない。私たちの肺のような、気体で満たされた部分がないためだ」と説明する。

「例えば、鉄の棒を深海まで落としても、圧力によって壊れることはない。固体でできていて、圧縮されないのだ。液体も、ほとんど圧縮されない」。つまり、液体と固体だけの深海のタコも、圧力で潰されることはないということだ。

ノーチラスは、珍しい不思議な生き物たちを見つけるため、これからも深海に潜り続ける。「海には約200万種の動物が暮らしているが、生物学者がこれまでに記録したのはその10%程度にすぎない」とコプリーは話す。「私たちは、探査のたびに新種の動物が発見されるペースから、それ以外の『未知の生物』についても推定できる」

「体積で言うと、海の大部分は、水深200メートルより深い『深海』にあたる。海洋生物の少なくとも半分は深海生物と考えて差し支えないだろう。つまり、深海にはおそらく、少なくとも100万種の動物が暮らしているということだ」
(翻訳:ガリレオ)


ジェス・トムソン

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