Infoseek 楽天

処理水批判の中国から日本に観光客は来て...いる? 観光業界の「アフターコロナ」は「この後」幕を開ける

ニューズウィーク日本版 2023年10月2日 19時40分

<今も中国での「処理水騒動」は終わっていない。国慶節の大型連休に団体ツアーのキャンセルは相次いだが、悲観する必要はない>

現在アジア競技大会が開催されている中国浙江省の杭州には、世界遺産に登録されている西湖という美しい湖がある。景勝地として知られ、湖畔には高級レストランが軒を連ねるが、なかでも近年人気を博していたのが日本料理店。135もの店が所狭しと並んでいた。

ところが、各国の選手団や各地の観光客が雲集する絶好の稼ぎ時だというのに、競技大会の開始直前、そのほとんどが臨時休業となり、中には一夜にして看板が替わってしまった店もあった。

その1つが、唐宋時代の料理を出すという触れ込みで新たな看板を掲げた元日本料理店。だがメニュー表には相変わらず、マグロの刺し身やエビの天ぷら、和牛のすき焼きといった日本料理が並んでいるという。そもそも1000年以上前の唐宋料理って、一体どんな料理なのか。

日本料理店が「唐宋料理店」になった理由? もちろん、処理水問題である。

8月下旬、福島第一原子力発電所から放射性物質を含む処理水が海洋放出され、中国政府が激しく非難、中国世論も反日一色となった。中国から日本の企業やレストランにまで嫌がらせ電話が殺到したのは、ニュースで報じられたとおりだ。ただ、風評被害を被ったのは日本だけでなく、中国国内の「日本関連」の店や会社も同様だった。

1カ月が過ぎた今も、中国での「処理水騒動」は終わっていない。

中国は9月29日から国慶節の大型連休に入ったが(10月6日まで)、私が旅行代理店などから得た情報によると、国外渡航先の人気ランキングでは日本がタイや韓国を抑え1位を守ったものの、日本行きの団体ツアーは直前にキャンセルが相次いだという。

訪日旅行を扱う中国の旅行会社にとっても、日本の観光業界にとってもこの時期は1年で一、二を争う書き入れ時。相次ぐキャンセルはまさに風評被害と言えるだろう。

処理水が汚染されていると本気で信じているかどうかは問題ではない。SNSに日本批判の投稿があふれるなか、大手を振って日本に行ったり旅行の書き込みをしたりはしにくいのだ。

ただ、そう悲観することはない。今も日本の漫画を読み、日本食を楽しんでいる中国人はごまんといる。

団体客は周囲の目や政府の顔色をうかがい日本行きをキャンセルしたかもしれないが、おそらくこの記事が出る頃には、「汚染水」など信じぬ大勢の個人旅行客が日本を訪れ、星野リゾートなどの高級ホテルに宿泊し、海鮮丼やジャパニーズウイスキーに舌鼓を打ち、鎌倉の踏切で写真を撮っていることだろう。

日本はコロナ禍前、2030年までに訪日外国人客数を6000万人に増やすという目標を立て、観光立国を国策に掲げていた。その点から見れば、国慶節における中国人観光客数の減少は期待外れだったかもしれない。

しかし目標達成のためには、ただ新規の観光客を増やせばいいわけではないはずだ。さらなる環境整備を進め、より魅力的なサービスを提供してリピーターを育てなければ、一時的に目標数に達したとしても、いずれ飽きられてしまう。

であれば、深刻な人手不足の中、無理をして大勢の「旅行初心者」を相手にするのではなく、今は真の観光大国となるための準備期間と割り切って、訪日2度目、3度目の富裕層を丁寧にもてなし、「何があってもまた来たい」と思わせる素晴らしい体験を提供することに集中してはどうだろう。それが新たな観光客をも引き寄せる価値と魅力の創出につながるはずだ。

中国政府の政治的なパフォーマンスに本気で反論しても意味はないし、その必要もない。2~3カ月もすればきっと「処理水騒動」も収まっているだろう。

その時こそ本当の意味で、日本の観光業界の「アフターコロナ」が幕を開ける。

周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院修了。通訳・翻訳の派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレント、YouTuber(番組名「周来友の人生相談バカ一代」)としても活動。


この記事の関連ニュース