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中国・秦剛前外相の失脚は本当に女性関係のせいだったのか?

ニューズウィーク日本版 2023年10月3日 17時55分

<「不倫」相手とされる女性が、アメリカで代理母を通じて子どもをもうけていたなどの新情報も出て謎は深まるばかり>

<動画>「不倫」相手のインタビューを受ける秦剛

中国の秦剛・前外相の解任劇をめぐる謎は、中国国営メディアの女性ジャーナリスト、傅暁田との不倫疑惑に関する新情報が浮上するなどますます深まっている。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、秦が解任されたのは、中国共産党の内部調査でこの不倫が明らかになったせいだと、中国政府高官らは説明を受けていたいう。公式には「ライフスタイルの問題」という表現で、これが性的不品行を意味する。

香港を拠点とするフェニックステレビ(鳳凰衛星)である傅は、秦が7月に外相を解任される前、中国のSNSサイト「新浪微博(ウェイボー)」に息子アーキンに関する投稿を行った。父親についての言及はなかったが、英フィナンシャル・タイムズ紙と米CNNは、2人の関係は秦が駐英公使だった2010年のロンドンで始まったと考えられるとしてその詳細を報じている。

フィナンシャル・タイムズによれば、傅は2022年にアメリカで代理母を通じて子どもをもうけていた。中国では代理出産は違法だ(中国の裁判所がこれまで代理出産のケースについて厳しい判決を下したこともないのだが)。

習近平派の内部抗争か

秦は習近平国家主席の信頼が厚く、習の後押しによって外務省でスピード出世を果たし、外相にまでなった。秦が不倫を理由に外相を解任されたというのが真実であれば、珍しいケースだろう。最近の中国で国レベルの政治家が不倫や性的不品行などの理由で更迭された例はない。

中国専門家たちは、強大な権力を持つ習が自ら登用した秦の失脚には、それ以外の理由があるのではないかと考えている。

ロンドン大学東洋アフリカ学院・中国研究所のスティーブ・ツァン所長は、習のお気に入りだったことが解任劇と関係している可能性がある、という。

「習は(2022年10月の)中国共産党第20回党大会までに古くからある派閥を一掃し、中国共産党を『習近平派』一色に塗り替えた。そのような体制の中では、習派の中に新たな派閥が生まれる。そこで派閥抗争が起これば、ライバルについての讒言を習に告げ口する風潮につながりやすい」と、ツァンは言う。

もう一人、習の登用で国防相に就任しながらわずか2カ月で動静が途絶えている李尚福・国防相はどうか。ロイター通信は9月、彼が汚職の疑いで調査を受けていると報じた。李も秦も、閣僚とおおよそ同等の「国務委員」の肩書を維持している。

中国政府からの説明がないなか、秦の更迭は彼がアメリカにいた時期のスパイ活動に関連があるのではないかという憶測も残っている。秦は2021〜2023年までの17カ月、駐米中国大使を務めていた。専門家の間では、このスパイ説について意見が割れている。

「アメリカ側のスパイになることは反逆行為であり、もしも習が秦の反逆を疑っていれば、迅速に厳罰に処していたはずだ。そうなっていないということは、スパイ説が更迭の理由ではあり得ない」とツァンは指摘する。

一方、米シンクタンク「戦略国際問題研究所」のジェームズ・ルイス上級研究員は、逆に不倫のほうが解任理由ではありえないと、本誌に次のように語った。「中国共産党が浮気や不倫を理由に幹部を更迭し始めたら、それこそ誰もいなくなってしまう。あり得るとしたら、汚職、スパイ行為、あるいは習に対する忠誠心の欠如などのどれかである可能性が高い」

代理母によって生まれた子ども(報道によると米国籍)もまた、国家安全保障に関係がある問題として、習が秦を処分せざるを得ない理由になった可能性があるとルイスは指摘した。

「不倫相手」をめぐる疑惑

報道によれば、秦と傅が初めて出会ったのは2010年頃。秦は当時駐英公使で、傅は英ケンブリッジ大学で学位を取得後、フェニックステレビのロンドン支局で働き始めたところだった。

ケンブリッジ大学は傅からかなりの額の寄付を受け、彼女が学んだチャーチル・カレッジにある庭に傅の名前を付けた。傅がどこから多額の寄付金を調達したのかは、いまだに不明だ。彼女は4月には、ロサンゼルスから北京に向かうのにプライベートジェットを利用したと報じられている。傅はその翌月以降、中国のメッセージアプリ「微信」への投稿を行っていない。

<動画>「不倫」相手のインタビューを受ける秦剛

(インタビューの模様は1:19〜)



アーディル・ブラー

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