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再契約か新天地か、注目される大谷翔平「争奪戦」の行方...大本命はあの球団?

ニューズウィーク日本版 2023年10月4日 12時40分

<戦線離脱もア・リーグMVPは当確、この冬FAの大谷を射止めるのはあの球団? 筆者はMLB取材歴32年のスコット・ミラー>

大谷翔平の2023年は静かに予期せぬ形で幕を閉じた。8月に右肘の靭帯を損傷したのに続き、9月初めに右脇腹を痛め、9月19日に右肘の内側側副靭帯の手術を受けた。

荷物の消えたロッカーを前に、たちまち臆測が飛び交った。大谷がロサンゼルス・エンゼルスでプレーするのは今季限りとなるのか。今季も二刀流で活躍しただけに、野球業界はこの話題で持ちきりだ。

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24年、彼はどこでプレーするのか。大本命はロサンゼルス・ドジャースだ。ドジャースは大谷への関心を隠さない。今年の夏前にトレイ・ターナーやジャスティン・ターナーといった主力選手を放出して報酬を軽減。来季を見据えて資金に余裕をつくると表明しているのも同然だ。

ドジャースなら大谷は移籍しやすいだろう。南カリフォルニアは既によく知るエリアで明らかに居心地もよさそうだ。この11年間で、ドジャースはナショナルリーグ西地区で10回優勝。大谷は優勝できるチームでプレーしたがっている。ドジャースはニューヨーク・ヤンキースと並ぶMLB有数の名門球団だ。

同じ西海岸のシアトル・マリナーズはイチローや佐々木主浩が長年在籍した実績を持ち、現実味がある候補とみられている。サンフランシスコ・ジャイアンツやサンディエゴ・パドレスなど西海岸の球団も同様だ。

エンゼルスは大谷の残留を望むと明言しているが、大谷の入団以来の6年間でまだ一度も優勝していないことが、交渉決裂の原因になりかねないと業界関係者はみている。

「私たちはみんな彼が好きで、私も彼が好きだから、ここに長くいてほしい」と、エンゼルスのペリー・ミナシアンGM(ゼネラルマネジャー)は語った。

エンゼルスが8月1日のトレード期限に大谷を放出しなかったのは、1つにはプレーオフ進出をにらんでのことだ。大谷が今季終了後フリーエージェント(FA)になって他球団と契約した場合、エンゼルスが得られる補償指名権は1つだけ。そのため彼を複数の有望な選手とトレードすべきだったとの見方もある。だが大谷は今季、過去3シーズンで2度目のアメリカンリーグ最優秀選手(MVP)に選ばれる見込みだ。

そこでエンゼルスは大谷をトレードせず、この冬の再契約に全力を尽くすと誓った。だが実際は大谷の入団以降、負け越し続き。問題があるのは大谷ではなく球団側だ。

右肘手術の影響は未知数

スポーツベッティングサイト「SportsBetting.ag」の予想では、大谷がエンゼルスと再契約しない場合の他球団の獲得オッズはドジャースが2倍でトップ。マリナーズ3.5倍、ジャイアンツ5倍、パドレス7倍、ヤンキース7.5倍と続く(9月27日現在)。

資金力のあるヤンキースは軽視できないが、ニューヨークという街が大谷の性に合うかどうか。エンゼルスでは彼のたっての希望で報道陣の取材に応じるのは原則登板後のみ、8月8日以降は取材に応じていない。だが、ニューヨークでは押しの強い報道陣から取材攻勢に遭うだろう。

業界関係者の間では、大谷がこの冬FAになれば10年契約で5億ドル以上を提示されるとの見方もある。右肘手術の影響は未知数だが、彼の人柄と実績を思えば提示額は大して下がらないとみられている。

「24年の開幕日には完全に回復して何の制約もなくヒットを打つ準備ができていて、25年には投打両方をこなせるはずだ」と、執刀したニール・エルアタラッシュ医師は言う。

エンゼルス在籍中は、他球団による大谷との公式な交渉は野球協約で禁止されている。だがワールドシリーズ終了翌日から大谷はFAになる。

「彼を獲得できるのは、契約書を空欄のまま差し出して彼の希望どおりに記入させる球団だ」と、MLBの某ベテランスカウトは匿名を条件に語る。「そんなことができる球団がどのくらいあるだろうか」

ドジャースは今季開幕から大谷が登板するたびにスカウトを派遣し、彼の全投球に目を光らせてきた。

今回の右肘のけがと「値段」の高騰を考えると、ドジャースが彼を獲得する公算が増す、との見方もある。「右肘の故障で獲得を諦めざるを得ない球団も出てくるはずだ。ドジャースが7億5000万ドル払ってもいいと言うなら、獲得の可能性はある」と、前出のスカウトは言う。

それでも大谷の実績と日頃の努力を知りながら彼に賭けない者がいるだろうか。「彼はこの3年間、かつてどんな選手も経験したことのないほど素晴らしい経験をした」と、エンゼルスのミナシアンGMは言う。

大谷は今季、打者としては打率3割4厘で、本塁打44と塁打325はア・リーグ首位。投手としては投球回132で防御率3.14。奪三振167で与四球はわずか55だ。

来年はブルーのユニフォーム?

難を挙げるとすれば爪割れとマメと脇腹、終盤にかけての疲労くらいだ。エンゼルスが彼に頼りすぎたのか。大谷が頑張りすぎたのか。勝てるチームでプレーするほうが孤軍奮闘のプレッシャーが少なく、彼のキャリアにプラスになるだろうか。ドジャースやジャイアンツやマリナーズやパドレスといった球団はこの冬こうした点を突いてくるだろう。

野球界全体が大谷の決断を注視するはずだ。契約書にサインするのに期限はないが、春季キャンプの開始前になるのは確実で、FAランキングトップとあって各球団とも恐らく年内に契約をまとめたがるだろう。

現時点で言えるのは大谷が来季ドジャース・ブルーのユニフォームを着てもおかしくないということだ。

「ショーヘイは自分と家族にとってベストな決断をするだろう。チームメイトとして応援するよ」と、エンゼルスのミッキー・モニアック外野手は言う。「ゲームとはいえビジネス。彼は世界最高の選手だ。僕としては来年も戻ってきてほしい」

5年間大谷と共にエンゼルス先発投手陣の一角を担ってきたパトリック・サンドバルも同じ意見だ。「彼がふさわしいものを得れば満足だ。彼は常に最高レベルでプレーしてきた。報われて当然だ」

(筆者はMLB取材歴32年。ロサンゼルス・タイムズ紙などのMLB担当記者・コラムニストを歴任)



スコット・ミラー(MLB専門スポーツジャーナリスト)

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