Infoseek 楽天

次々にアフリカ諸国から追い出されるフランス...見透かされる「搾取を続ける宗主国」のダブルスタンダード

ニューズウィーク日本版 2023年10月4日 18時28分

<旧植民地に反仏感情が高まって駐留部隊の引き揚げが相次ぐ。大国の戦略は根本的な再検討を迫られている>

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、西アフリカのニジェールを支配する軍事政権の要求に従い、同国からフランスの大使を帰国させ、駐留部隊を撤収する決定を下した。これは、不安定な地域で影響力を高めようとしているアメリカの戦略への警告になるかもしれない。

ニジェールでは7月、大統領警護隊兵士らがクーデターを起こしてモハメド・バズム大統領を追放し、祖国防衛国民評議会(CNSP)を樹立。さらにフランスのシルバン・イッテ駐ニジェール大使を、国の秩序に脅威をもたらす旧宗主国の使節と非難して国外退去を要求した。マクロンはこのとき、軍政の要求を拒否する姿勢を取った。

だが軍政がイッテの外交特権を剝奪して数週間が過ぎた9月24日にマクロンは、大使は間もなくニジェールを離れ、約1500人の駐留部隊も年内に撤収すると発表した。

今回の撤収は、フランスがアフリカで見せた新しい動きというわけではない。既にフランスは、ブルキナファソや中央アフリカ共和国、マリなどから相次いで手を引いている。背景にあるのは、一部のアフリカ諸国で反フランス感情が高まっていることだ。

一方のアメリカはニジェールに約1100人の部隊の駐留を続け、アフリカで米軍のプレゼンスを高めようとしている。だが英コンサルティング会社オックスフォード・アナリティカのナサニエル・パウエルは、米政府はフランスの撤収の決断に留意すべきだと警告する。

「サヘル地域(西アフリカのブルキナファソ、マリ、ニジェールなどを含む地域)でのフランスの失敗が特にアメリカにもたらすメッセージは、腐敗した非合法な政権を頼りに安全保障政策を成功させようとしても大きなリスクを伴うということだ」と、パウエルは言う。「そうした政権が倒れると、支援していた国は腐敗政権に加担したと見なされ、影響力を失いかねない」

ブルキナファソとマリからのフランスの撤収も、軍事クーデターの後だった。8月30日にクーデターが勃発した中部アフリカのガボンでも、フランス軍の駐留継続が問題になっている。

ニジェールのクーデターは、とりわけ影響が大きいかもしれない。バズムが追放される前、ニジェールはアルカイダやイスラム国(IS)の関連組織を含む過激派が活動するサヘル地域で、フランスとアメリカのテロ対策活動の拠点となっていた。

二重基準がまかり通る

安全保障政策に苦労している他のサヘル諸国と異なり、バズムの政策は「ある程度まではうまくいっていた」と、パウエルは指摘する。「だからこそ、アメリカとフランスはバズムに大きな信頼を寄せていたのだろう。しかし両国は、ニジェールでの長年にわたる民間と軍の複雑な軋轢、バズムが長い間行ってきた反対派への弾圧、彼が選挙で物議を醸したことなどを無視した。強固なパートナーになるには、基盤が不安定すぎる」

いまバズムは自宅軟禁されているため、アメリカはニジェールの民主主義の回復を求めながらも、軍政との関係構築を模索している。在欧・在アフリカ米空軍のジェームズ・ヘッカー司令官は先日、ニジェール軍政との交渉の結果、ドローンの使用を含むニジェールでの監視・情報収集任務の一部が再開されたことを明らかにした。

米アフリカ軍(AFRICOM)の報道官は「ニジェールにおける米軍の長期的なプレゼンスについて、アメリカはまだ方針を決めていない」と本誌に語った。この報道官はニジェールで再開した任務の詳細については明かせないとしながら、「アメリカはニジェール軍とテロ対策活動は行っていない」と述べている。

一方のフランスでは、外務省報道官がオンライン声明で「アフリカのテロとの戦いを引き続き支援するが、民主的に選出された政権や地域当局の要請がある場合にのみ対応する」と語った。「ニジェールではクーデター後の約2カ月間に、イスラム主義テロによって、それ以前の18カ月間を上回る死者が出ている」

だがフランスのユネスコ大使や外務・人権担当閣外相を務めたラマ・ヤドは、フランス軍の駐留が明確な成果をもたらさなかったことが、反発を加速させた要因の1つだと指摘する。さらに彼女は、アフリカの民主主義に対するフランスの立場には「一貫性がない」とも語る。フランスの政府関係者らは、ニジェールに軍政が成立するとすぐに非難した。だが21年4月にチャドで、当時のイドリス・デビ大統領が反政府勢力への攻撃中に殺害されると、息子のマハマトが選挙を経ずに実権を握ったことについては、あまり批判的ではなかったという。

「人々は何が問題なのかが分かっている」と、ヤドは言う。「ダブルスタンダードがまかり通っており、下手をすれば壊滅的な影響をもたらす」

残る旧宗主国の悪影響

アフリカでの立場について言えば、フランスは一つの時代の終わりを迎えている。アメリカはフランスと協力してテロとの戦いを続ける一方で、「戦略面でフランスと差別化を図ることによって、現在の真空状態を埋めようとしている」と、ヤドは指摘する。

彼女によれば、フランスは事有るごとに「ニジェールのウランは必要ない」などと言い立て、フランスにとってニジェールの経済的な重要性は低いという印象を振りまいている。しかしアメリカや他の大国は、ニジェールの重要性をわきまえているという。

フランスの影響力低下を加速させたのは、確かにアフリカの政治と安全保障をめぐる問題だ。だが同時に、サヘル地域で「旧宗主国があまりに長く影響力を振るっている」というイメージをつくったのはフランスの経済的な動きだったと、ヤドは言う。

米デューク大学のンバイ・バシール・ロー准教授(国際比較研究)も、経済的要因がアフリカの反仏感情を助長してきたと指摘する。「フランスから経済的に搾取され続けてきたことの悪影響は、アフリカで人々の日常生活の隅々にまで及んでいる」

アフリカにおけるフランスの支配が正式に終わったのは、アルジェリアが独立した1962年。その2年前には、フランスの植民地だったアフリカの国々の大半が独立を果たした。だが旧フランス領の多くではユーロとの為替レートが固定されたCFAフランがいまだに採用され、フランスは民間部門も含めて支配的な影響力を振るい続けている。

「アフリカの旧植民地諸国では、フランスに搾取され続けてきた歴史が政治的危機を生む要因の1つになっている」と、ローは言う。「フランスとの現行の協定に既得権益を持つアフリカの政治エリートは、危機への対処能力がないか、対処したがらないかだ」。軍部がこうした問題を指摘すれば、すぐに国民の支持を集められると、ローは指摘する。

さらにローは、アメリカが「従来の意味での植民地化や搾取をアフリカ大陸で行っていない」ことを大きなポイントとして取り上げる。この点は、一部のアフリカ諸国の要求が仏軍基地の撤収に向けられ、米軍基地には向けられない理由の1つだという。

同様の論理は、中国とロシアがアフリカで存在感を強めていることにも当てはまる。両国はアフリカと数十年前から外交関係を築き、解放の広範なプロセスの助力にもなった。「ここで押さえておくべきなのは、大国はそれぞれアフリカ大陸と独自に交流してきており、アフリカ側の受け止め方も相手国ごとに異なるという点だ」と、ローは言う。

反発が臨界点に達した

オックスフォード大学ブラバトニック公共政策大学院のフォラシャデ・スーレ研究員も、地政学的な変化は「特にフランス語圏アフリカでのフランスの影響力の転換点」になっていると言う。「トルコや中国、イランのような新興の戦略的パートナーは、こうした地域で軍事的なプレゼンスを強めている」と、彼女は指摘する。「西側の大国はフランスを、アフリカにおける多国間協調の取り組みの先例と見なしてきた。だが今はフランスを手本とするのをやめ、サヘル地域やフランス語圏アフリカへの戦略で独自色を強めて、反仏感情が自国に及ぶのを回避しようとしている」

スーレはここで2つの教訓を指摘する。第1は、アフリカ側とパートナー国との安全保障面での利害が一致していないという印象をアフリカ諸国に与えてはならないということだ。「フランスの対アフリカ関係について言えば、アフリカ諸国よりフランスの国益になる部分のほうが大きいとみられていた」

スーレが指摘する第2の教訓は、アフリカの世論に可能な限り配慮することだ。アフリカの人々は常に、他国の軍や軍事基地が駐留していることに反発していると彼女は言う。「こうしたパートナーシップについて、大国とアフリカのパートナーの間に十分な意思疎通がなければ、利害の相違やアフリカ側からの反発につながりやすい」

アリカーナ・チホンボリクアオはアフリカ連合(AU)の常駐代表として赴任したアメリカで、アフリカの反発の高まりを感じていた。そこで彼女はアフリカの外で、特にアフリカをルーツに持つ移民にこの問題への意識を高めてもらおうと活動してきた。

「いま起きている現象は、アフリカでのフランスによる搾取の実態を知る人々の反発が臨界点に達したということ」と、チホンボリクアオは指摘する。ニジェールのクーデターは、いくつもの国で起きている「アフリカ革命」の最新の事例だと、彼女は言う。

アメリカについてチホンボリクアオは、ニジェール軍政へのここ最近の対応に見られるような姿勢の変化を評価する。だがアフリカ諸国との永続的なパートナーシップを実現するには、従来のアプローチを根本から見直す必要があると主張する。

「アフリカの人々は『他の国々を相手にするときと同じく、私たちにも敬意を持って接してほしい』と言っているだけだ」と、チホンボリクアオは言う。「搾取を続けるためにアフリカに来ても、うまくいくはずがない。『戦略を変えなければ、アフリカではやっていけない』というのが、彼らの言い分だ」

トム・オコナー(外交問題担当)

この記事の関連ニュース