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「NGリスト」ジャニーズ事務所に必要なのは、3回目の記者会見ではない

ニューズウィーク日本版 2023年10月7日 16時33分

<「氏名NGリスト」の存在がバレて、またも事態の収拾に失敗したジャニーズ事務所。これ以上の批判を避けるために必要なのは、記者会見やり直しでなく「あの週刊誌」の単独インタビューだ>

エンタメと化す記者会見

ジャニーズ事務所が、壊滅的な道を進んでいる。これまでの経緯は周知のことなので省くが、2度目の会見を終えた直後に「氏名NGリスト」が発覚したことで、事務所への信頼は失墜の一途をたどっている。

会見の混乱ぶりやNGリストの発覚により「会見をやり直すべき」との声が高まっている。新会社が今後も芸能事務所としての活動を続けたいのであれば、被害者への速やかな賠償を進めると同時に、世の中に対する再度の説明は必須だろう。テレビの情報番組では、質疑応答をどう進めるかなど、今後の記者会見の運営方法についても議論がなされた。

でも、これまでの経緯を考えると、記者会見をするのはもうやめた方が良いと私は思っている。今回の会見では約300人の報道陣が集まり、テレビ中継を行い、ユーチューバー的な記者が持論を語り、望月衣塑子記者がノーマイクで声を張り上げた(望月記者の言動については、一言で良い悪いとは言い切れないテーマなのでここでは措く)。

今後再び会見を開いた場合、多少の改善はあるとしても、もはやまともな進行が行われるとは考えにくい。東山紀之社長が能面を貫き、井ノ原快彦副社長が甘いマスクで精一杯の懐柔を行うという構図は、過去2回の会見を見てもう分かった。テレビカメラで生中継されるせいか、記者会見というものは「事実の探求」というよりも、どこか演技混じりのステージ・ショウじみたものになり、それ自体がエンターテイメントとして消費されてしまう。

ではどうすれば良いかというと、どこかの媒体で藤島ジュリー景子元社長と事務所の過去をもっともよく知る人物とされる白波瀬傑元副社長、必要であればその他役員に対してそれぞれ単独インタビューを行ったらどうか。

記者会見で無数の記者が四方八方から散発的に質問を浴びせ掛けるより、ごく少人数の場(理想を言えば1対1)で順序立ててじっくり話を聞く方が、真実にたどり着けるのではないだろうか。特に、ジュリー元社長はパニック障害を訴えており、体調も優れないという。大人数の前で全国に生中継されながら質問に答えるのは、どう考えても負担が大きいし、時に吊し上げの雰囲気も漂う。インタビュー形式で休憩を挟みながらであれば、受け答えできる余地があるのではないだろうか。

単独インタビューをどの媒体が行うべきかは、言うまでもない。ジュリー元社長らジャニーズ事務所の経営陣に堂々と申し込む資格があるのは、「あの週刊誌」しかないはずだ。

今こそ和解のチャンス

BBCのドキュメンタリーは日本社会の常識を変えたが、BBCの取材の端緒は元はと言えば1999年の週刊文春キャンペーン報道にある。あまり誉めそやすのは本意ではないが、週刊文春による一連の報道がなければ、BBCのドキュメンタリーもないわけで、私たちは今頃まったく別の世界線で「ジャニーさん、ありがとう!」と卑劣な性加害者を礼賛し続けていたかもしれない。

ジュリー元社長にお伝えしておくと、週刊誌は新聞やテレビよりもずっと多くの紙幅を割けるので言葉を尽くして語れる上、作り手の気質も少々異なる。

「社会正義の実現」に重きを置く新聞やテレビの報道番組と異なり、週刊誌には良くも悪くも世の中の出来事を「面白がる」精神がある。それは人間の醜い部分やどうしようもない部分をも描き出す文学というものが、出版業界の中心にあるからだろう。ゆえに、週刊誌の単独インタビューの場なら「何々すべきではないのか!」と詰問調で畳み掛けられるような心配もないはずだ。

1999年のキャンペーン報道当時、週刊文春は全然売れなかったという。それだけ、世の中全体の人権意識が低かったということでもある。当時のメディアは愚鈍だったが、私を含め多くの日本人もまた、愚鈍だったのだ。メディア業界のなかでも、あのキャンペーン報道は明らかに経済合理性に適っていない酔狂な行為と見做されていたはず。24年の月日を経て、それがついに日の目を見たのである。

キャンペーン報道後、ジャニーズは週刊文春の発行元である文藝春秋から自社タレントが出演するあらゆる広告を引き上げ、書籍の帯にすらタレントの画像を使わせなかったという。以来、両者は宿敵関係が続いていた。

そろそろ、手打ちをしても良い時期ではなかろうか。



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