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福島原発と韓国の反応......日本製品の人気は不動のまま?

ニューズウィーク日本版 2023年10月10日 16時50分

<福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出問題に対して、韓国の一部市民団体が日本製品の不買運動を提唱している。しかし、日本のビールや車、ファッション、書籍などは依然として韓国市場で根強い人気を保っている......>

東京電力福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出に反対する韓国の4つの市民団体が9月18日、日本製品不買運動を提唱した。日本に行かない、日本製ビールを飲まない、日本産水産物を食べないという3つの運動だ。

韓国における日本産魚介類の輸入量は、今年1月から3月は前年より多かったが、3月以降、前年同月と比べてマイナスが続いており、なかでも1回目の海洋放出がはじまった8月の輸入量は24.9%、輸入額は34.8%のマイナスだった。

日本ビールの輸入増加

一方、日本ビールの輸入は大幅に伸びている。今年1月から8月の日本産ビール輸入量は3万6573トンで輸入量全体の21.9%を占め、5年ぶり、国別1位に返り咲いた。

2018年の日本ビールの輸入量は8万6676トンで、全輸入量の24.2%を占めていたが、翌19年は後半からはじまった日本製品不買運動の影響により4万7331トンまで激減。ベルギーと中国に続く3位となり、20年には10位まで後退した。選択的不買運動が広がった21年から上昇に転じて22年、3位に浮上した。

アサヒビールの人気

一番人気はアサヒである。アサヒビールの今年7月の小売店売上は277億6000万ウォン(約30億円)で、OBビールの「カス」、ハイト眞露の「テラ」に続く3位に浮上した。以下、ハイト眞露の「ケリー」、ハイト眞露の発泡酒「フィルライト」、中国の青島ビールが続いている。7月に正式販売を開始した「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」が後押ししたとみられている。

韓国でアサヒビールを輸入するロッテアサヒ酒類は今年5月、「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」を数量限定で販売した。コンビニ大手のGS25は歴代最大物量となる50万本を発注したが、注文数の半分しか入荷しない店舗が店頭に並べずにカウンターの中に隠して売る例や30分で完売した店舗もみられた。

正式販売を開始した7月、「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」を買うため開店前から行列ができたスーパーもある。

日本製品の人気継続

日本人気はビールにとどまらない。日本酒は13.9%増の254トン、日本車の輸入台数は47.3%増の2322台で、輸入額は82%増の3934万ドル。コーヒー・茶類も52.2%増、ビデオゲームも9.6%増など、多くの品目が前年を上回った。

レクサスの1月〜5月の販売台数は対前年比11.9%増の5295台、トヨタ車は34.6%増の3012台だった。日本製品不買運動のターゲットにされたユニクロも韓国SPAファッションブランド売上げ1位に返り咲いている。

日本書籍も人気だ。大韓出版文化協会の発表によると、昨年、韓国で翻訳出版された書籍1万472点の4割に相当する4138点が日本書籍で、2位の米国書籍2957点と3位の英国書籍919点を合わせた数より多かった。今年9月に翻訳出版された村上春樹の『街とその不確かな壁』は、発売以来4週続けてベストセラー1位となった。

韓国の航空各社の日本路線拡充

航空各社は日本路線の再開と拡充に力を入れる。大韓航空は新型コロナウイルス感染症の影響で休止していた仁川発-鹿児島線と岡山線、新潟線の運航を再開し、仁川と成田、関西、名古屋、福岡を結ぶ各路線を増便する。アシアナ航空も仁川-仙台線を増便するほか、格安航空会社(LCC)各社も地方路線を再開し、主要路線を増便する。韓国人の訪日需要に対応するためである。

政府観光局(JNTO )に推計によると1月から8月の訪日韓国人は432万4400人。韓国人の7人の1人に相当する714万人が日本を訪れた2017年に迫る勢いだ。2017年の同期間の訪日韓国人は466万230人だった。

日本ブームの背景に韓国の物価高騰と円安がある。韓国で日本ブランドは高品質、高価格と認知されている。文在寅前政権の最低賃金上昇に起因する人件費高騰とコロナ禍の影響からあらゆる韓国製品の価格が高騰、相対的に日本製品が割安となっている。

旅行も同様だ。国内旅行費が高騰し、訪日観光が割安となっている。また、ある訪日韓国人旅行者は「韓国の有名観光地は(価格高騰に加えて)ぼったくりもある。その点、日本は費用がかからないし、対応も良い」と話す。

原発処理水の反対決議案を提案した野党「共に民主党」の議員が本会議場で北海道ゴルフ旅行の相談をしていたことが明らかになっている。また、旧暦の盆に相当する秋夕の連休には、同じく福島原発の処理水の海洋放出反対を叫んでいた野党議員が東京観光を楽しむ姿が目撃された。「共に民主党」を離党して無所属となった金南局(キム・ナムグク)議員が、バックパックを背負って「銀座三越」や和光ビルの時計塔をスマートフォンで撮影していたという。

反対運動と日本人気の二面性

ノージャパン運動が拡がったとき、反日デモの打ち上げを日本式居酒屋で行なって「昼は反日、夜はアサヒビール」と揶揄されたが、同じようなことが福島原発処理水の海洋放出でも起きている。日本好きから反日派まで、こぞって日本ビールや日本旅行を楽しんでいる。


佐々木和義

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